アンナの妊娠と出産
姉のアンナは、結婚してから、夫の領地巡回に何度か随行し、領民から領主夫人として慕われていた。
名実ともに領主夫人としての立場を確立している。
アンナの立場が磐石であることは、俺にとっては非常に都合が良い。アンナの弟という立場で、俺はシュレースヴィヒ=ホルシュタインにおいて、様々な恩恵を受けていた。
そんなアンナのもフレゼリクの子供を妊娠した。アンナが妊娠したことで、俺はゴットルフ城で過ごすことが多くなった。アンナが妊娠によって情緒不安定になっていたからだ。
21世紀の頃で言うマタニティブルーと言うやつである。幼い頃から一緒に過ごした弟である俺が一緒にいると、大分落ち着くらしく、なるべく側にいるようにしている。
夫のフレゼリクはって?フレゼリクは日に何回か顔を出すが、領主としての仕事がある。そして、領内の目を付けた農家の娘を連れ込んで、お楽しみをしているからな。
フレゼリクが女を連れ込んでいるのを見掛けたのは、アンナと結婚して、すぐのことだった。
俺が初めて目撃したときは、フレゼリクのヤツはバツが悪そうな顔をして、金貨が入った袋を渡してきた。
アンナに話しても、彼女のためにもならないので、素直に金貨の入った袋を受け取った。それ以来、女を連れ込んでいるのを俺が目撃すると金貨をくれるし、日頃から便宜を図ってくれるようになった。金や便宜で何とかなる義弟だと思われているのだろう。こちらとしては都合が良いがな。
後で、城の者に話を聞くと、昔から連れ込む癖があるらしく、性欲も相当なものらしい。そりゃ、アンナも結婚してすぐに妊娠するわな。
そんな訳で、マタニティブルーなアンナに、フレゼリクが女を連れ込んでますなんて言える訳もなく、フレゼリクに代わってアンナの面倒を看ている訳である。フレゼリクから何かせしめてやらないといけないな。
まぁ、アンナは史実だと、17歳になる頃には、2度の出産を経験し、身体は衰弱して、結核に罹患し、1514年に26歳で、第3子を妊娠中に死去することとなった。
衰弱していたのは、産後の肥立ちが悪かったのだろう。15歳ぐらいと、子供を産むための身体が出来あがっていないこともある。
その上、性欲の強いフレゼリクのことだから、身体が回復してないのに、次の子供を作ろうと励んだのかもしれない。
アンナが死ぬのは肉親として悲しいし、後ろ楯が無くなるのもツラいので、アンナには健康で長生きして欲しい。
今日も姉上の元を尋ねる。毎日の日課だから仕方ない。
「姉上、体調はどうだい?」
「えぇ、アルが毎日来てくれるから、調子が良いわ。
アルがシュレースヴィヒ=ホルシュタインに付いて来てくれて、本当に良かった」
「俺も姉上のお陰で良い生活が送れているからね」
その後、アンナととりとめない話をしていると、急にアンナが腹を抑え、苦しみ出した。
側にいた侍女に、人を呼んでくるよう頼む。
アンナが「産まれる、産まれる」と言うので、ラマーズ法の呼吸を一緒にしていると、侍女は産婆さんを連れてきた。
産婆にラマーズ法の呼吸を続けさせるよう指示をして、部屋を出る。
部屋の外で待機していると、フレゼリクが現れた。フレゼリクも珍しく、少し狼狽えているようで、事情を聞いてくる。
しばらくすると、赤ん坊の泣く声が聞こえてきた。アンナの部屋から侍女が出て来て、フレゼリクと俺を部屋へ導いてくれる。
アンナが産んだのは、男の子だった。世継ぎが産まれたことに、流石のフレゼリクも喜んでいる。
男の子の名はクリスチャンと名付けられることとなった。
アンナの産後の肥立ちが心配になったので、フレゼリクにはアンナをしっかりと休ませることと、暫くは次の子作りをしないように言い聞かせた。
子作りをしないように言ったら、難渋していたからな。お前は農家の娘の上に乗っかってろと言ってやりたい。
その後のアンナは肥立ちも良く、史実のように衰弱することもなかった。そのため、翌年に女の子のドロテアを産むこととなったが、問題は見受けられない。
後、心配なのは結核なので、フレゼリクにはアンナと子供たちのため、結核に罹患した者と接触したおそれのある者は、登城を控えさせるよう助言をしておいた。
これで一応、アンナは大丈夫そうだ。新大陸に行く為にも、キールで金儲けに励まないといけないな。
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