Egoistic Enforcer

和五夢


 ――私は魔法少女。


 漆黒の闇夜を自慢の銀翼で駆り、パステルカラーのポップなスカートをなびかせて。

 魔法のステッキでルララルラと唱えれば無数の桃色の光線が立ちはだかる敵を薙ぎ払っていく。

 

 ――私の正体は誰も知らない。


 でもそれでいい。

 むしろそれがいい。


 ――私の理想は孤高の魔法少女。そう、私の理想は……


 巨大な怪物に向かって振り上げていた右手がピタリと止まる。


 ――理想? そうか……これは……夢なんだ。


 明晰夢を楽しんでいたかったけれど、華々しいイメージは闇の中へ消えてしまった。

 私の体温で温もったシーツの感触を背中に感じる。


 もう現実に戻って来てしまった。


 ――さあ、起きて学校に行かないと……て、あれ?


 瞼が開かない。

 いや、瞼だけじゃない。全身が石になったみたいに動かせない。


 ――ひょっとして金縛り?



『……リ……さん』


 ――え? 今何か聞こえた? ちょっと待って。めっちゃ怖いんですけど⁉


『エリーさん……』


 今度はよりはっきりと。

 それによく聞いたら怖くなかった。


 ――てか、めっちゃイケボじゃん⁉


 想像するのは爽やかイケメンに優しくおはようって言ってもらえる悶絶もののシチュエーション。


『エリーさん。目を開けてください』


 ――はい! 今スグにでも!


 というわけでかったい瞼を気合でこじ開けた私の目の前にいたのは――





 ――私だった。



 正確に言うとベッドで仰向けで眠る私。


 ――鏡……じゃない。とするとこれは幽体離脱⁉


 瞼は気合で何とかなったが、首は愚か指先さえピクリとも動かせない。

 私が私と向かい合っていると目の前にいるもう一人の私の目がぱっちりと開いて口が動いた。


『やあ。やっと目を覚ましたようだね』


 ――あ、イケボだ。


 なぜか私がイケメンの声で話している。


『驚くのも無理はないよ。本当はゆっくり説明してあげたいんだけど時間がないから要点だけ説明させてもらいますね、エリーさん』


「なんで私の名前を? ていうかあなたは誰?」


 ――あ、声が出せた。


『私は悪魔です。あなたの夢を少々覗かせていただいたのであなたの事は大体知っています。中学生二年生の桃咲恵理さん。ご友人からは親しみを込めてエリーと呼ばれているようなので私もそれに倣ってあなたの事をエリーと呼ばせていただいてます』


「えーと……」


『はい、質問は後で伺います。とりあえず要点を――』



 悪魔は苛立ちを微塵も感じさせない落ち着き払った声で私に問いかけた。



『魔法少女になりませんか?』



 と。

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