第167話 結婚式 其の一

 ワイワイ ガヤガヤ

 

 ここはマルカとバクーの国境近くの平原だ。

 多くの民が集まっている。終戦の祭りの開催地であり会場設置に大忙しだ。

 自分で提案してなんだがこの大陸に住むほとんど全ても種族が集まるんだ。

 こんな祭りやるのも見るのも初めてだよ。


「おーい、こっちだー! 急いでくれー!」


 あそこで馬車の隊列を急かしているのはダークエルフのテオだ。

 ヴィジマの最終責任者だな。


「テオー! ご苦労様ー!」

「おー! タケではないか! ヴィジマから新鮮な野菜と穀物を持ってきた! 確認してくれ!」


 テオが指揮しているのは千を超える馬車だ。これに全部食料が乗っているのか。

 しかもただの馬車ではない。

 魔導冷蔵庫を積んだ馬車なので、採れたて新鮮な野菜がいつでも食べられるようになった。

 

「すごいな。ドワーフの技術力には感服するよ」

「そういえばエルフとドワーフ達は交流が無かったのか?」


 俺の質問にテオは笑って答えた。


「ははは、お前が現れるまでドワーフどころか、他の種族との交流なんてものは存在しなかったさ。全てお前のおかげだよ」

「そう言われるとくすぐったいな。テオ、一服行かないか?」


「いいぞ。ちょうど休憩を取るつもりだったからな」


 貴重な喫煙仲間と一緒に簡易喫煙所でタバコを吸う。

 いやさぼりではないぞ。貴重な休憩時間を楽しんでいるのだ。


「ふー…… もうすぐ祭りが始まるな……」

「あぁ。そういえばアリアはどうした? タケも花嫁としばらく会っていないから辛いのではないか?」


 テオの言う通りアリアとは十日ほど会っていないのだ。

 ドレスを作りに行くとかでノルの町にいるルージュを訪ねているはず。

 それに人族の宮廷女官がドレス作りに協力しているそうだ。


 少しずつではあるが、民は人族を受け入れ始めている。

 しかし、過去の恨みを忘れることが出来ない者もいるのは事実だ。


「タケの言う通り、民が人族と仲良くやれるといいのだが……」

「そういうテオはどう思ってるんだ?」


「私か? ふふ、実はまだ許せないところはある。だがな…… お前の言葉が身に沁みたよ。次の世代に負の遺産を残すわけにもいかんからな」

「テオ…… ありがとな」


 テオはパイプを吸い終えると、再びヴィジマに戻ると言って馬車に向かう。

 祭りで振る舞うにはまだ食材が足りないそうだ。


「テオー! 頑張れよー!」

「あぁ! タケもな!」


 カッポ カッポ カッポ カッポ……


 馬車は地平線の彼方に消えていく……

 それじゃ俺も仕事の続きにかかるか!



◇◆◇



 私は今ノルの町にいる。

 ここはルージュさんが経営する洋服屋さんだ。

 

「アリア様、今度はこちらをお試しください」

「あ、ありがとうございます……」


 私にドレスを渡してくれるのは人族のメイドさんで名前はカレンさん。

 魔女王ルカの服を作っていたこともあるって言ったね。

 裁縫も得意だからルージュさんのお店で見習いで働いてるみたい。


「さぁ着てみましょう。お手伝いいたします」

「は、はい……」


 私は服を脱ぎ、下着姿になる。

 うぅ…… 恥ずかしい。

 私が着る下着ってルージュさんが作ったものが多い。

 今穿いているものそう。

 お尻が丸見えになっちゃうパンツだ。


 それを見たカレンさんは……


「…………!? す、すごいデザインですね。これは参考になります……」

「そ、そうですか? これってルージュさんが作ったものなんですよ」


 と話していると奥からそのルージュさんがやってくる。


「アリアちゃーん! せっかくだからこれも着てみて! 人族の間ではこれが流行ってるんだって!」


 ルージュさんが持ってきたのは靴下?

 すごく長いけど……


「これはね、ガーターベルトっていうの! すごくセクシーに見えるはずだよ!」


 へ、へぇー、腰に巻いて、靴下を止めるんだ。

 つけ方が分からないのでカレンさんが後ろから、そしてルージュさんが前から装着を手伝ってくれた。

 は、恥ずかしい……


「綺麗なお尻……」

「ねー、アリアちゃんの肌ってスベスベよねー。タケさんも罪な人ねー。こんなかわいい子を一人占めしてるんだもん。出来たよ! ほら、鏡見て!」


 バッ


 ルージュさんが鏡を前に持ってくる。

 そして鏡の中には……

 す、すごくエッチな格好をした私がいる……


「こ、これって着る意味あります……?」


 もしかして私のことをからかっているんじゃないかと疑ってしまう。

 前に黒い下着をもらった時も酷い目にあったんだ。


 でもカレンさんが言うには……


「もちろんです。アリア様はこれからウエディングドレスを着るのです。その際、足先から太ももまであるガーターストッキングも穿くのですよ。

 たるませず、安定させるにはガーターベルトが必要不可欠ですので」

「そ、そうなんですね」


 そう言われればピッタリはまってる気がする。

 これならドレスを着ても、ストッキングがずり落ちないかも。


「他にもガーターベルトには殿方を興奮させる効果があります。我が国ではガーターベルトが普及した結果、各家庭の出生率が上がったという素晴らしい結果が……」

「やっぱりそっち目的ですよね!?」


 カレンさんも何真面目に言ってんですか!?

 で、でもこれを着たらタケオさん喜ぶかな?

 

「あー、アリアちゃん、今タケさんのこと思ってるでしょー?」

「ち、違いますよ! ほ、ほら、私ウエディングドレスを選びに来たんですよ! さっきから変な服とか下着ばっかりじゃないですか!」


「そ、そんなことは無いわよ! もうすぐアリアちゃんに似合うドレスが出来上がるのよ! それまで遊ん……新作を試してもらいたいだけよ!」

「今遊んでって言った! 絶対からかってるでしょ!?」


 もう何なのよ!? 二人して私をからかって!

 私は怒ってるのを無視するようにカレンさんは一着のセーターを渡してくる。


「アリア様。コアニヴァニアやバクーは寒い国です。これがあれば常に暖を取れるでしょう。寒さは美容の天敵ですから。それにタケ様の奥様となられるのです。妻として常に美しくあるべきですから……」

「カレンさん…… ありがとうごさいます……」


 な、なんか照れちゃうね。

 うふふ、奥様だって。

 せっかくだし、このセーターも着てみよう。


 シュルルッ


 ん? これって背中ががら空きだね。それに横からお胸が見えちゃう……


「カレン、あのセーターって何!? すごいわね!」

「あれはチェリーキラーというセーターです。我が国ではチェリーキラーを着た夫婦の間での出生率が……」

「またそっち系なの!?」


 もう! この人達、真面目に服選んでないよね!?

 さすがに怒った方がいいかな?

 そう思った時……


「ルージュ! ドレスが出来たわよ! って、アリアちゃん、何その格好? すごくエッチな服だね」

「あー、タケさんに見せる気でしょー? それを着てニャンニャン言うわけねー?」

「私も着てみたいなー。ニャン!」


 あぁ…… めんどくさい人達が入ってきた。

 エルさんとリリンさんだ。サシャさんもいる。

 三人もドレス作りを手伝ってくれてたんだ。


「アリア様。遊んでいる場合ではございません。さっさとチェリーキラーを脱いでください」

「カレンさんが勧めてきたのでは……」


 ちょっと納得出来なかったけど、ようやくドレスが出来上がったんだ。

 着てみなくちゃ……


 みんな、ドレスを着るのを手伝ってくれる。

 すごい…… これ絹だ。

 真っ白い絹のドレス……


 最後はサシャさんが背中のファスナーを上に上げる。


 ジーッ……


「わぁ…… アリア、綺麗よ。見て」


 サシャさんは鏡を持ってきてくれた。

 

 私は純白のドレスに身を包んでいる。

 

 背中にある羽が苦しくないよう、大きく開いた背中。


 長い尻尾もスカートに隠れてる。


 そしてブーケ……


 これ……


 私が憧れてた花嫁さんの姿……


 思わず涙がこぼれてきた……


 もうすぐこれを着てタケオさんの前に立つんだね。

 

「アリア様、いかがですか? 苦しいようでしたら手直ししますが」

「ううん、大丈夫…… カレンさん、サシャさん、ルージュさん、リリンさん、エルさん…… ありがとう……」


 私がお礼を言うと、代表してサシャさんが答えてくれた。


「あはは、やだね、湿っぽくなっちゃった。そうだ! ドレスはこれでいいなら今から飲みに行こうよ! 最後の女子会さ!」

「「「「さんせーい!!」」」」


 私達は友達同士で楽しむことに。

 いっぱいお酒を飲んで、そして美味しい料理を食べて。

 ふふ、楽しいね。

 みんな、友達になってくれてありがとう。

 私、幸せになるね。


 お土産としてガーターベルトとチェリーキラーは貰って帰ることにした。

 んふふ。

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