第165話 会議は踊る 其の二

 バタバタバタバタッ


「タケオさん! 資料書き終わりました!」

「助かった! って椅子が一つ足りない! どうするかな……」


「みんなコーヒーでいいですか!?」

「あぁ! 摘まめる物も適当に頼む!」


 朝から会議準備でてんてこ舞いだ。

 間も無くみんなが俺の家に集まる。

 今回は大人数での開催だ。

 俺に深く関わった全ての者に来てもらう予定なのだ。


 コンコンッ


 お? 最初の参加者が来たようだ。

 ドアを開けるとそこには……


「グルルルル! タケよ! 来てやったぞ! ニャーン!」

「殺すぞ」


 ベルンドだ。

 こいつは俺がアリアにニャンニャン言わせてたことを広めた調本人でもある。

 

「ははは、そんなに怒るな。仲がいいことは素晴らしいことだ。まだ誰も来ていないようだな。私はコタツで休ませてもらう。まったく、バクーは寒い国だな。体温が下がって困ってしまうよ」


 ベルンドは挨拶も早々にコタツに入ってゴロゴロし始める。

 そしてベルンドを皮切りにドンドンと参加者が集まってきた。


「ベルンド殿! もうちょっと向こうに行ってくれ!」

「タケよ! なんだこの魔道具は! 気持ちいいではないか!」

「あぁん…… このソファー最高……」


 おい、お前ら。遊びに来たんじゃないんだから。

 誰一人テーブルに着こうとせず、コタツの奪い合いをしている。

 女性陣は人をダメにするソファーに首ったけのようだ。


 これでほとんど集まったな。

 後来てないのは……


 トントンッ


 主役の一人のお出ましだな。

 ドアを開けると、そこには人族代表であるクロイツが立っていた。

 その後ろには槍を持った獣人が控えている。

 今にもクロイツを突き刺しそうだ。

 それほどの殺気を放っている。


「ご苦労。連れてきてくれて助かった」

「…………」

「人族めが……」


 恨んでるな……

 しょうがないことではあるのだが。

 俺はクロイツに家に入るよう促す。

 彼にとってこの場に入ることは絞首台に昇ることに等しいとでも思っているのだろう。

 そんな覚悟をクロイツから感じた。


 俺とクロイツがリビングに入ると空気が一瞬にして張り詰める。

 先程までふざけ合っていた仲間達の表情が変わる。 

 皆の視線がクロイツに突き刺さった。


「そんな恐い顔するな。分かってるかもしれないが、今日は人族代表としてクロイツにも来てもらった」

「グルルル…… タケよ、お前こそ分かっているのか? そいつは私達の仇なのだぞ? この場に同席させるなど……」


「それも含めて今日は話し合うつもりだ。それじゃ始めよう。席に座ってくれ」


 皆コタツから出て、テーブルに着く。

 準備はいいみたいだな。


 今回の参加者は俺とアリア。

 竜人族を代表してベルンドとルネ。

 エルフ代表のテオ、サシャ、フリン。

 獣人代表のフゥ。

 ドワーフ代表のソーン。

 そして人族代表のクロイツだ。


「ごほん…… 今更とは思うが報告する。戦いは終わった。魔女王ルカはこの世界から消え去り、指揮を取っていたリァンも死んだ。もう俺達を脅かす存在はいなくなった。

 これを以って俺達は勝利とする」

「「「おぉーーー!!」」」


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチッ


 はは、皆喜んでるな。

 フゥとベルンドは肩を組み、サシャとフリンは抱き合ってキスをする。

 テオとソーンは握手を交わし、ルネは笑顔で駆け回っている。


「ははは、喜んでくれるのは俺も嬉しい。だが俺達の戦いはまだ終わっていない。一旦席に着いてくれ」

「そ、そうか。失礼したな。タケよ。戦いが終わっていないというのはどういうことだ?」

 

 とフゥが質問してくる。

 そう、戦争は終わったが、俺達にはまだ仕事が残っている。

 これからやらなくてはならないことをレジュメにまとめておいた。


「手元にある紙を見てくれ。これを遂行して俺達の戦いは終わる。最初から説明しよう……」

 

 俺はレジュメを上から読み上げていく。


 一つ。今後の復興について。


 二つ。人族への処遇について。


 三つ。勝利を祝う祭りについて。

 

 四つ。ラベレ連合の今後について。


「簡単だがこんな感じだ。今から一つずつ説明していく……」


 バッ


 おや? いきなり手が上がったな。

 テオだ。会うのは久しぶりだ。

 元気そうで何よりだ。


「はいテオ君!」

「ははは、タケは変わらんな。復興についてだが…… コアニヴァニアについてだよな? あの国は詳しく知らんのだ。アリアには悪いが、コアニヴァニアから北はもう誰もいない。そこを復興する利点はあるのか?」


 たしかにな。

 魔族はもういない。アリアを除いて全ての者が魔物と化してしまったそうだ。

 しかもその魔物も黒い雪のせいで全てが死んでしまった。

 アリアは魔族の中で唯一の生き残りだ。

 各種族が生活するだけならコアニヴァニアを復興する意味はないだろう。

 だが利益を産み出せるとしたらどうだ?


「俺はコアニヴァニアを観光都市にしようと思っている。この世界ではバクーから南の海は海竜の巣になってるんだよな? だがコアニヴァニアでは漁業が盛んに行われていた。沖まで出られるんだ。

 お前ら美味い魚って食ったことないだろ。それが新しい名産となる。

 それだけじゃないぞ。コアニヴァニアは雪が降るが夏はそれなりに暑い。冬はスキー、夏は海水浴と集客を狙えるはずだ」


「スキー? なんだそれは?」


 俺はスキー、スノボの説明を始める。

 この世界には娯楽ってものが少ないからな。

 皆興味深そうに俺の話を聞いてくれた。


「へー、ヴィジマでは雪は降らないからね。そんな遊びがあったんだ」


 とサシャが笑顔で答える。

 フリンも楽しそうにしていた。


「そうだぞ。きっと気に入るよ。それにゲレンデでは三割増しで綺麗に見えるっていう魔法が存在する。そこで実る恋もあるかもな」

「あはは、それじゃリリン達のためにもスキー場ってのを作らないとね。でも雪ならバクーにもあるじゃない?」


 バクーにも雪は降るが、山が険しすぎる。

 基本エベレストくらいの高さがあるので、家族がスキーを楽しむにはハード過ぎるだろ。

 一方コアニヴァニアはなだらかな丘陵地帯が多い。

 少し手直しすれば少ない労力でスキー場が出来上がるだろう。

 ゴンドラも魔道具があればそれらしい物が作れるしな。


 泳ぐという娯楽はそれなりにあるようだ。

 だが海で泳ぐというのはこの世界においては自殺行為に等しい。

 リヴァイアサンに喰われちゃうからな。

 

「グルルル…… 海か…… 考えるだけでも恐ろしいな……」

「ははは、そうでもないさ。コアニヴァニアではメジャーな娯楽だったみたいだぞ」


 これはアリアに聞いたのだ。

 海水温が関係しているのだろうか、コアニヴァニアの海は海竜の類はおらず、鮫のような大型の魚類も出ないそうだ。


 ソローッ


 今度は遠慮がちに手が挙がる。

 俺の隣に座るアリアだ。


「はいアリア君!」

「あ、ありがとうございます。コアニヴァニアは私の故郷です。みんなが死んじゃったのはもう仕方のないことだと思ってます…… でもあの国を誰が盛り立てていくんですか? みんなそれぞれ住んでる国はあるわけですし……」


 その質問が来たか。

 これは皆、納得してくれる……わけはないよな。

 でも言わなきゃ。


「人族だ。コアニヴァニアを人族の国とする」

「「「…………!?」」」


 今まで楽しそうに話していた皆の表情が凍り付いた。

 クロイツは口を開けて心ここにあらずといった模様。

 

 まぁそうなるわな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る