第149話 決戦 其の七

「すまんが協力してくれ。恐らく皆が倒れた場面を見ているのはソーンだけなんだ」

「ですが…… 私は何も覚えていないのです。協力など……」


 とソーンは自信無さげに言うが、出来るんだな。

 今からルネのギフトである経路、その派生能力の一つ、サイコメトリーを発動してもらう。

 

 この能力は物、人に記憶を見ることが出来る。

 例えソーンが覚えてなくても、体は記憶しているはずだ。


 ルネ、ソーンを触ってみてくれ。

 サイコメトリーを使って何があったか調べるんだ。


(はいなの!)


 ルネは椅子から飛び降りソーンの足をタッチする。

 よし、ルネの体に触れれば経路が繋がってる俺も同じ光景が見えるはずだ。


 ポンッ


 ルネの肩に手を置いて……


(パパ! 始めるの!)


 あぁ、頼む!


 ルネの体に力が入る。

 次の瞬間……


 ギュォォォォォンッ


 うっ!? 意識が引っ張られる!

 目の前が暗くなり、光が俺達の横を通り過ぎていく。

 

 しばらくすると視線の先に眩しい光が見える。

 あそこだな……

 光の先にソーンの記憶があるはずだ。


 カッ
















 う…… ここは……


 辺りを見渡す。

 どうやらテントの中のようだ。

 そして毛布を被って寝ている者がいる。

 ソーンだ。

 

 ルネ、ありがとな。

 ソーンの記憶に入れたみたいだ。


 さて、ここから何があったのかを調べないと。

 そう思った次の瞬間…… 


 カーン カーン カーン


 突如警鐘が鳴り響く。

 

『な、なんだ!?』


 ソーンは上着を羽織りテントを飛び出す。

 そしてそこにアリアの姿があった。 


『敵襲に備えて! 敵を迎え撃ちます! 西と東の部隊にも伝令を! 三方同時に迎撃します! 敵が逃げても追ってはダメ! その場に待機することを忘れないで!』


 アリア……

 本当に成長したな。

 勇ましく、堂々と指示を出している。

 アリアの指示を聞いた兵士達は各々準備を始めている。


(アリア、かっこいいのー)


 そうだな。俺もそう思うよ。

 ソーンはアリアの横に立ち、追加の指示を出していた。


『おーい! みんな、出撃前にポーションを飲むのを忘れないで!』


 兵士達は懐から小瓶を取り出し、ポーションを飲む。

 このポーションは俺がソーンに作るよう頼んだ薬だ。

 特製の梅干しと梅ジュースを配合した物で、飲めば体力、魔力の回復速度が速くなる。


 恐らくこのポーションに細工がしてあったのだろう。

 ということはソーンが作った他のポーションにも細工がしてあるかもしれない。

 後で廃棄するよう伝えないとな……


(これよりも前の記憶も見られるの。お薬を作ってる記憶もみたい?)


 いいや、今は時間が無い。このままでいいよ。


 アリアもポーションを飲み干す。それを見たソーンは……


『準備が出来たみたいですね! 重傷者がいたらハイポーションも用意してあります! 私がいる限り怪我人を死なせることはありません! 存分に戦ってきてください!』

『はい!』


 アリアに声をかけ、そして兵士と共に陣を出ていった。

 ここまでは教科書通りの対応だ。

 だがここでリァンの策が発動したのだろう。


 アリアが見えなくなる頃、ソーンの体に異変が……

 目が虚ろになり、フラフラし始める。


『な、なんだ……? 目眩が……』


 バタッ


 ソーンは倒れ込んでしまう。

 恐らく後催眠が発動したんだ。


 倒れたソーンを起こそうと、陣に残る兵が駆け寄るが……


『ソ、ソーン殿! 大丈…… うぅ…… か、体が……』


 バタッ バタバタッ バタバタバタバタバタバタッ


 次々に兵士は倒れていく……

 やはりあのポーションだったか。

 

『…………』


 スクッ


 ソーンは目を開けたと思ったら、何事も無かったように立ち上がる。

 そして向かう先は……

 

 倒れ、意識を失っている兵を無視するようにソーンは進む。

 その顔には表情が無く、目にも光りが無かった。

 俺がここでソーンにあった時と同じ表情だ。


 そしてソーンが着いた先にはアリアがいた。

 その姿を見て、俺の目に涙が滲む……

 アリア…… 助けられなくてごめんな……

 

(グスン。パパ、泣かないで欲しいの……)


 そうだな。何があったのかしっかり見ないと……

 アリアはほとんど動けないようだった。

 必死で首を上げ、ソーンに助けを求めていた。


『た、助け……』

『…………』


 ソーンは何も答えない。

 だがアリアを抱き起こして、ただ立ち尽くす。


 何をする気だ?


(パパ! 見てなの!)


 ルネが指し示す方角から何かが近付いてくる。

 馬だな。騎兵か?

 あの方角は魔女王軍の陣があったはず。


 そしてやってきたのは……!?


 ドカカッ ドカカッ ザッ


 馬から降りた男はソーンの前に立ち……


『ご苦労。その娘は預かる』


 こいつ! ユンだ! なぜユンがここに!?


 ユンはソーンからアリアを受け取り、馬に括り付けた。

 そして踵を返し、その場を去っていく……


 くそ! 通りで探しても見つからないはずだよ! 

 アリアは拐われたんだ!

 だがなぜアリアを?

 まさか……


 魔女王の狙いはアリアだった?

 

 可能性はある。

 アリアはギフトを持っている。

 その力を狙ってアリアを手に入れようとしていたのか?

 だとしたら辻褄が合わないこともある。


 アリアはラーデで背中を斬られたことでサキュバスに変異してしまった。

 命の危険があったのだ。

 アリアが狙いならそのような愚を犯すだろうか?

 

 それとも人質としてアリアを捕えたのか?

 アリアは自由連合の中でも最も古参のメンバーであり、俺の大切な人だ。

 彼女を捕えることで戦いを優位に持ち込もうとしている可能性もある。


 分からない……

 考えても答えは出ないだろう。

 一つだけ確かなことは今アリアは敵の手の中にいるということだ。


(パパ、ごめんなの…… もう限界……)


 ルネ? 

 そうか、もう大丈夫だ。

 

 ルネは疲れたのだろう。

 夜通し走った挙句、魔力を消費してサイコメトリーを発動したんだ。


 ふっとルネの体から力が抜ける。

 次の瞬間……


 カッ















 

「タ、タケ様? 今一体何を?」


 ソーンが不思議そうに俺達を見つめていた。

 

 俺達は記憶の世界から現実に帰ってきたんだな。

 

 理解出来た。アリアはもうここにいない。

 魔女王の目的は未だ分からない。

 だがやることは一つだ。


「ソーン! アリアが拐われた!」

「な、なんですって!? もしかして私のせいでしょうか……?」


「気にするな。ソーンは操られていただけだ。お前に罪はないよ。だが…… すまんが少し謹慎しておいてくれ。後催眠ってのは何がトリガーになって発動するか分からないんだ」

「わ、分かりました…… これ以上迷惑はかけられません。一度アシュートに戻らせていただきます」


「その前に一つだけ仕事を頼む。恐らく西のベルンドの部隊、東のサシャ、フリンの部隊も同じようにソーンのポーションを飲んでいるはずだ。今から救助に向かう! 

 俺は西を。ソーンは東を担当してくれ!」

「はい!」

 

 俺達は兵を引き連れ、ベルンド達を助けに向かう。

  

 ドカカッ ドカカッ


 馬を駆りながらアリアを想う。

 

 すぐに助けに行く。

 待っててくれよ……

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