第150話 決戦 其の八

 俺は馬を駆りベルンド達を助けに向かう。

 彼らもアリア達の部隊同様経路パスが繋がらなかったのだ。


 つまりベルンド達もソーンが作ったポーションを飲んで動けなくなっているはず。


 ドカカッ ドカカッ


「よし、止まれ!」

『ヒヒーンッ』


 ザッ


 馬を降りベルンドがいるであろう陣に入る。

 そこには想像した通り全ての兵士が地面に倒れ、呻き声をあげていた。


「うぅ……」

「あが……」

「グルルルル……」


 この声はベルンドだ!

 倒れて半分雪に埋もれている!


 俺は後続の兵士に指示を出す!


「倒れている者にポーションを飲ませろ! 魔法が使える者は回復を! 魔力切れに注意しろ!」

「はい!」


 兵士達は次々を仲間を癒していく。

 助かった兵は何が起きたのか分からないように辺りと見渡していた。


 俺もベルンドに癒しの気を流す!


 パアァッ


 ふぅ、これで大丈夫だろう。

 軽くベルンドの頬を叩くと、目を覚ました……が震えだした。

 どうした!? まさか他の毒を飲まされたとか!?


「グルブルブル…… さ、寒い……」

「そっちかよ」


 なんだグルブルって。

 ベルンドは竜人だ。恐らく変温動物なのだろう。

 寒いのが苦手だって言ってたもんな。


 震えるベルンドを連れ、陣にあるテントに入る。

 しょうがないのでコーヒーを淹れてあげた。


「ほら、これで温まるぞ」

「グルルルル…… た、助かった。で、タケよ。一体何があった?」


「ここで話してもいいが、一度アシュートに戻ろう。一度部隊を立て直す必要がある」


 無理して進軍しても勝率は下がるだけだ。

 兵を休ませて、さらに俺達は情報を共有する必要がある。

 本当は今すぐにでもアリアを助けにいきたいが…… 


「分かった。タケの指示に従おう。ところでフゥ殿は無事か?」

「あぁ。被害は出たが生きてるよ。今ラベレ砦を立て直している最中だろう。援軍も間も無く到着するはずだ。心配無いよ」


 心配無いか……

 自分で言ってなんだがラベレ砦は壊滅に近い。

 また一気に攻め込まれたら一溜まりもないだろう。


 それも含めて話す必要がある。


 俺達はアシュートに戻ることにした。



◇◆◇



「グルルル! 今から二十四時間の休息を取れ! では解散!」

「…………」


 アシュートに到着した兵士にベルンドは指示を出す。

 疲れてるんだろうな。

 兵士達は無言でその場から立ち去っていった。


 すまん、今はゆっくり休んでくれ。またすぐに出なくちゃいけないのだから。


 残ったのは俺とベルンド、それとサシャとフリンだ。

 残念だがソーンはここでリタイアだ。

 ソーンは後催眠をかけられている。

 何がトリガーになって再び催眠状態になるか分からない。

 仲間にこんなことをするのは心苦しいが監視を付けて謹慎してもらうことにした。


「それにしてもソーンがね……」


 とサシャは言う。

 俺はソーンが悪いとは思わない。

 彼がいなければアリアは拐われなかったかもしれない。

 だがそのアリアの命を救ってくれたのもソーンなのだ。


「サシャ、気持ちは分かる。でもな、ソーンを恨まないでくれ」

「タケ! あんた悔しくないのかい!? なんでそんなこと言えるのさ! アリアはきっと今頃……!」

「止めるんだ!」

 

 フリンが大声を出してサシャを止める。

 その言葉を聞いてサシャはポロポロと泣きだしてしまった。


「うぅ…… アリア……」

「ごめん…… でも怒っても仕方ないんだよ。タケの言う通りだ。ソーンさんを恨んでも何も変わらない。それよりも僕達に出来ることをしよう」


 フリンはサシャを抱きしめる。

 ありがとな。

 俺が言いたいことを全部言ってくれたよ。

  

 成長したのはアリアだけじゃなかったんだな。


「フリン、ありがとう。一度俺の家に来てくれ。今後の方針を決めたい」

「分かった。サシャ、行こう」

「うん……」


 フリンはサシャの肩を抱き、俺の家に入っていく。


「グルルル、不味いな。これが知られるとドワーフ達の立場が危うくなるぞ。裏切り者がいる種族としてな」

「そうだな。ならそうなる前にさっさと戦いを終わらせるまでだ。俺達も行こう」


 フリンに続き、俺も家の中に。

 

 さぁ始めるか。


 まずは俺から報告する。

 突如ラベレ砦から救援を受けた事。

 そして東から敵の急襲部隊が現れた事。

 ラベレ砦が破られた事。

 そしてアリアが拐われた事……


「ここまでが俺の知り得る全てだ。何故アリアが拐われたか、魔女王の目的は何か、これは考えても答えは出ないだろう。

 だが俺達のやることは変わらない。魔女王を倒し、そしてアリアを救い出す」


 バッ


 ベルンドが手を挙げる。

 いつもだったらここでふざけて指名するんだけどな。

 今はそんな気になれない。


「なんだ……?」

「そんな簡単なことでいいのか? お前らしくもない。もっと策はないのか?」


 策か…… 

 これは策っていうのかな?

 あるにはある。

 だがそれはここで言うことは出来ない。


「もちろんだ。だが今はそれよりも編成について伝えたい。フリン、サシャ、二人にはこのままアシュートに残って指揮を取ってくれ。攻め込む必要は無い。魔女王軍が来たら三十万の兵で迎撃だ。頼めるか?」

「僕らが? た、多分大丈夫だけど…… タケはどうするんだ?」


「俺とベルンドはフゥの支援に回る。今のラベレ砦を考えると一人で切り盛りするのは難しい。将が三人、そして援軍がいれば一気に立て直せる」

「…………」


 ベルンドが俺を睨んでいる。

 納得してくれてないみたいだな。

 だが……


「グルルル、了解した。私は先にラベレ砦に向かう。タケは御子様に乗っていくのだろ? 私には御子様の背に乗るなど畏れ多くて出来んからな。

 ではな、ラベレ砦で会おう」


 バタンッ


 ベルンドは一人で出ていく。

 もしかしてあいつ……

 俺の考えを悟ったか?


「僕らも行くよ。タケ、気を落とさないで。アリアはきっと無事だ」

「タケ…… さっきはごめんなさい……」


 残されたフリンとサシャも部屋を出ていく。

 

 バタンッ


 俺は一人残される。

 そこまで広い家じゃないが、一人だとこんなに広く感じるんだな。


 一階にはアリアが大好きだったコタツが置かれている。

 その後ろには人をダメにするソファーだ。

 アリアはコタツに入ってゴロゴロするのが好きだったな。


 ギシッ


 二階に上がり、寝室に入る。

 大きいベッド、明かりがよく入る窓。

 三面鏡、服がたくさん入るクローゼット。


 アリアとここで過ごした期間は短いが、どれも大切な思い出だ。


 俺はドアを背にして……


 ドサッ


 座り込んでしまった。

 そして俺の意思とは裏腹に涙がこぼれ落ちる……


「アリア……」


 俺はこの世界に降り立ったのはアリアの願いを叶えるため。

 それがいつしか彼女に心を奪われ、俺の全てになっていた。

 アリアは俺の命だ。

 自分より大切な存在だ。


 だが俺はアリアの恋人ではあるが、ラベレ連合の責任ある立場だ。

 どうすればいい? 

 今ラベレ連合は大きく傷付いている。

 まともに戦える状態ではない。

 アリアを救うために皆の命を無駄に捨てろというのか?


 将として、上に立つ者として、それを仲間に強いることは出来ない。

 やはりこれしかないだろう。


 俺は一人の英雄を思い浮かべる。

 身の丈九尺、赤ら顔で長い見事な髭を持つ。

 美髯公とも呼ばれる英雄、関羽だ。


 関羽は主君である劉備の元に帰るため、千里の道を一人で進んだ。

 劉備との兄弟の契りを守るために。


 ふふ、そんな英雄と俺を一緒にするなって言われるかもな。

 だがな…… やるしかないんだよ。

 

 俺は一人で魔女王軍がいるコアニヴァニアに向かうつもりだ。


 アリアとの約束を守るために。


 愛する人を救うために……

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