第141話 軍議 其の一

 バヒュッ ブンッ

 ヒュンッ ドスッ


 バクーに建設した練兵場に槍を振るう音、そして弓がうなる音が響く。


「グルルルル! そこまで! 今日から三日間の休息を取れ!」

「ふー! 疲れたー!」

「おいガッツ、飲みに行こうぜ!」

「どうせまだオケラなんだろ? 俺にたかるのは止めてくれ……」


 ベルンドの声を聞き、自由連合の兵士は各々の時間を楽しみに町に向かった。

 皆だいぶ仕上がってきてるな。

 士気も高い。

 やはりこれが最高のタイミングだろう。


「グルルルル、タケよ、もう一度確認したい。会議は明日の昼で間違いないな?」

「そうだ。今回は全ての面子を揃える大切な会議だからな。遅刻厳禁で頼む」


 バクー復興を終え二月が経つ。

 この間に前回怪我を負った者は治療を終え、他の者は訓練に勤しんできた。

 明日はコアニヴァニアに戦いを挑むための最後の会議を行うのだ。

 

 今回は今までで一番大きな戦いになる。

 よって、ヴィジマからテオも呼び出した。

 少し心配ではあるが、フゥにも前線を離れアシュートに来てもらう予定だ。


「ではまたな!」

「おう! 待ってるぞ!」


 俺はベルンドと別れ、一人自宅に戻る。

 今日ルネはいない。ラベレ砦にいるフゥを迎えに行っているのだ。

 ルネの脚力なら明日の昼には間に合うはずだ。


(そうなのー。もう砦についてごはん食べてるのー)


 もう着いたの!? すごいな。

 それにしても経路パスって便利だな。

 はるか遠いところにいてもこうして会話出来るのだから。


(もっと褒めてなのー)


 ははは、ルネはすごいよ。

 それじゃ気を付けて帰って来るんだよ。


(はいなのー。パパ、バイバイなのー)


 ルネとの会話を終える頃、俺は自宅に到着。

 中ではアリアが忙しそうに明日の会議の準備をしていた。

 ちょっと疲れてるみたいだな。

 尻尾を器用に丸めて自分の肩を叩いている。


「アリア、ただいま」

「わ!? び、びっくりしました! お帰りなさい!」

 

「頑張ってるな。俺も手伝おうか?」

「ふふ、大丈夫です。もう終わりましたから」


 おぉ、仕事が早い。

 これだけの資料をまとめるとは。

 レジュメには綺麗な文字で俺の考案した作戦が書かれている。

 これは分かりやすいな。


「助かったよ。ありがとな。疲れてるだろ? 今日は俺が作るよ」

「んふふ、それじゃ甘えちゃいます! おコタでゴロゴロしてよーっと」


 アリアはコタツに潜りこみ、背中には人をダメにするソファーを設置する。


「あぁん…… 駄目になっちゃうぅ……」


 ははは、さすがは人をダメにするソファーだ。異世界人にも有効のようだな。

 もしアリアが俺と一緒に地球に戻ったとしても、彼女なら日本で上手くやっていけるだろうな。

 最近アリアが作るのは日本食ばかりだし、もう温水洗浄便座がなければ生きていけないとまで言っている。

 さらにコタツだ。隙あらばコタツでゴロゴロしてるからな。


「今日はどっちで食べる? テーブル? それともコタ……」

「コタツです!」


 被せてくるなぁ…… はは、まぁいいけどさ。

 

 今日はコタツでも食べやすいように鍋にした。

 いい肉が手に入ったのでシャブシャブにしようと思う。

 これはアリアに食べさせるのは初めてだな。

 切った野菜と肉を持ってコタツに置く。

 魔導カセットコンロに火を付けてっと。


 ボッ グツグツッ


 いい感じに沸騰してきた。

 そろそろいいかな?


「わー、新しいお料理ですね! どうやって食べるんですか?」

「これか。肉を湯に泳がせてだな…… 火が通ったらポン酢に付けて食べるんだ」

 

「へー、面白いですね。肉を泳がせてから……」

 

 アリアはシャブシャブし始める。

 自分で言ってなんだがシャブシャブするって使い方あったっけ?

 異世界生活が長いので変な日本語を使ってる可能性があるな。

 日本に帰ったら笑われてしまうかもだな。


「これくらいでいいかなあ…… ん!? 美味しいです!」

「そうか、いっぱいあるからな」


 俺達は二人で鍋を楽しんだ。

 食後は二人でイチャイチャする。

 もっとも楽しい時間だ。

 今日はルネがいないからな……

 少しぐらい大胆になってもいいかもしれん。


「あー、タケオさんエッチな顔してるー」

「ソ、ソンナコトハナイゾ」


 俺の考えていることがバレてしまったようだ。

 だがこうしてゆっくり出来る日もまもなく終わるはずだ。

 だからこそ今の内に楽しんでおかないと。


 俺はアリアの長い耳に口を当て……


「…………を頼む」

「んふふ、分かりました」


 その後、二人で風呂に入って寝ることに。

 アリアは俺のリクエスト通り、復興祭で買った紐パンを穿いてくれた。


 最近毎日してるなぁ…… 

 と反省しつつもアリアと肌を合わせる。

 まぁいいじゃないか。

 こうして楽しむのはしばらく先になるんだし。


 俺達はしっかりと愛し合った後……


「んふふ、今日のタケオさん、すごかったです……」

「ごめんな、ちょっと興奮しちゃったかも」


 年甲斐もなくハッスルしてしまった。

 こうして楽しい夜を過ごし……



◇◆◇



 ドカカッ ドカカッ ドカカッ


 おや? 外から聞きなれた足音がする。

 次に聞こえてきたのは……


『ル、ルネ! 止まってくれー! もう限界だー!』

『キュー!!』


 フゥの叫び声とルネの鳴き声だ。

 外に出るとドラゴンに変化したルネの隣で虎獣人のフゥはお尻を押さえてうつ伏せになっている。

 あー、気持ちは分かるぞ。

 俺はだいぶ慣れたけど、ルネの背中に乗るとお尻が痛くなっちゃうんだよな。


「ぐ、ぐおぉ…… 尻尾が千切れそうだ……」

「大丈夫だ。まだ付いてる。今治療する」

 

 俺は癒しの気をフゥの尻に流す!


 パアァッ


 フゥの尻が眩しく光る!

 全然神々しくない!

 ともあれこれで痛みは取れただろ。


 俺はフゥを立たせ、家の中に案内する。

 

「こ、ここがタケの家か。中々いい造りだな」

「狭いけどな。少し早いだろうからリビングで待っててくれ」


「そうさせてもら…… タケ、あれはなんだ?」


 フゥが指差すのはコタツだ。

 ラベレ砦にも魔道具はあるはずだが、さすがにコタツを見た事はなかったか。


 俺はコタツの説明をすると、フゥはコタツに入って丸くなっていた。

 身長二メートルを超える虎獣人なのに……

 まるで猫だな。


 ドンドンッ


 お? 今度は誰だ?

 集まるのは昼ぐらいを予定してたのに、早いな。

 ドアを開けると……


「グルルルル…… さ、寒い…… 冬眠してしまいそうだ……」


 ベルンドが震えながら入ってきた。

 なるほど、トカゲは変温動物だからな。

 バルルは温かい国だったし、竜人のベルンドにはきついだろう。

 

 ベルンドもコタツに入り、さらに人をダメにするソファーを使いくつろぎ始めた。


「グルルルル…… これはダメになりそうだ……」

「ベ、ベルンド殿、次は私に貸してくれ……」


 虎とトカゲがソファーの奪い合いを始めたよ。

 ははは、これから大事な会議があるってのに、ずいぶん平和な光景だな。


 だが時間が経つにつれ、参加者が続々と集まってきた。

 よし、少し早いが決戦に向けての軍議を始めよう。


「ではまずはフゥとベルンド。コタツから出ろ」

「グルルルル! ここで会議をしよう!」

「ベルンド殿に一票!」


 アホか。

 二人を無理やり椅子に座らせ、軍議を始めることにした。

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