第138話 復興祭 其の二

 ドンチャン ドンチャン

 ワイワイ ガヤガヤ


 俺達は手を繋いで雑踏の中を歩く。

 道の両端には露店が出ており、店主が笑顔で客引きをしていた。


「いらっしゃーい! バクーでは初出店のマルカ名産のシルクランジェリーはいかがですか!」


 って、おい。あそこでエロい下着売ってるのダークエルフのルージュじゃないか。

 祭りでなに売ってんだよ……


(パパ、あれって美味しいの?)


 うーん、ある意味美味しいかな。でも食べられないけどね。

 まぁ買わないけど一言挨拶してこよう。


「いらっしゃませー! ってタケさん! アリアちゃんも!」

「ふふ、ルージュさん、お久しぶりです!」


 二人は手を握りながらピョンピョン飛び跳ねている。

 アリアも嬉しそうだ。

 

 俺も挨拶しておくか。


「ルージュ、来てたんだな。でもこの下着って祭りで売るもんじゃないだろ?」

「そんなことありませんよ。むしろ馬鹿売れです!」


 マジ? 少し露店を観察してみると……


「このパンツちょうだい!」

「私はこっちのブラよ!」

「もっと大きいサイズは無いの!?」


 おぉ、ドワーフのご婦人達が奪いあうように下着を買っているではないか。

 すごい人気だな。


「えへへ、どうですか? 女の子は何歳になってもかわいいものが大好きなんですよ」

「かわいいっていうか、エロい下着だけどな」


 なぜかルージュが作る下着はTバックが多い。

 アリアもたまに着るのだが、興奮を抑えるのにいつも大変な想いをしている。

 

「タケさん、どうです? アリアちゃんに一着プレゼントしてみては?」

「遠慮しとく。また今度……!? あれは!?」


 俺は見てしまった! 壁の後ろに飾られているパンツを!

 あれは…… 紐パンだ!


「あれですか? うふふ、かわいいでしょ。新作なんです! あれー? 欲しいんですかー? これをアリアちゃんに穿かせたいんでしょー?」

「ソ、ソンナコトハ……」


 く、くそ! 俺の性癖にどストライクだ! 

 あれをアリアに着せたらかわいいに違いない……

 想像する。あの紐パンを穿いたアリアを。

 俺は彼女を抱きしめて、そして紐に手を伸ばす……


 ハラリッ


 紐を解かれたパンティーは……


 昼から何を考えてるんだ俺は!?

 が、我慢だ! 後ろ髪引かれる想いで店をあとにしようとするが……


「タケオさん、あれって私に似合うと思いますか……?」


 と顔と長い耳を真っ赤にしながら聞いてくる。

 うん、すごく似合うと思う。

 俺はいつの間にか財布を取り出していた。


「アノパンツヲクダサイ……」

「タケさんのエッチー。五百クラウンでーす。まいどありー」


 高っ!? 五百クラウンもするのかよ! 

 仕方ないか。ルージュの服、下着は絹で出来ているからな。

 俺は支払いを終え、紐パンの入った袋を受け取る。


「アリア、これ……」

「はい…… こ、今夜穿きますね……」


 ちょっと嬉しそうに受け取ってくれた。

 夜が楽しみで仕方ない。

 もうなんなら家に帰ってお楽しみをしたいところだ。


(駄目なのー。お祭りを楽しみたいのー)


 じ、冗談だよ。

 そうだな。それじゃ他のところに行こうか。


 ルージュと別れ、再び町を歩く。

 そろそろ何か食べるかな……

 色んな屋台が出ている。

 たい焼き、フランクフルト、焼きそば、お好み焼き……

 ルネ、何が食べたい?


(あの赤いのが食べたいのー)


 赤いの? あぁ、リンゴ飴ね。

 いいよ。買ってくるよ。

 

 俺は店主から二つリンゴ飴を購入した。

 子供はこういうのが好きなんだよな。

 俺は甘い物はそこまで好きではない。一口貰えば充分だ。

 

 ほら、後でしっかり歯磨きするんだぞ。


(わーいなのー。美味しいのー)


 ルネはペロペロとリンゴ飴を舐め始める。

 もう一つはアリアに渡す。


「んふふ、ありがとうございます。タケオさんも食べますか?」

「うん、後で一口もらえばいいよ。俺は何かお腹にたまる物がいいな」


 ふふ、おかしいよな。今の俺は寿命を止めている弊害か、空腹を感じることはないはずなのに。

 アリア達と一緒に過ごす内に三食しっかり食べるようになってしまった。

 嬉しい変化だ。彼女らと食卓を囲むのが一日の楽しみの一つでもあるのだから。


 さて、そろそろ何を食べるか決めないと……

 やはり祭りとくれば焼きそばだな。

 

 俺は焼きそばの屋台の前に並ぼうとした時……


「きゃー! ケンカよー!」

「飲食街で暴れてる奴がいる!」

「衛兵を呼んでこい!」


 ケンカ? おいおい、せっかくの祭りだっていうのに。

 俺は列から外れ、アリア達のもとに戻る。


「すまない、ここで待っててくれ」

「止めに行くんですか? なら私も行きます!」

「キュー!」


 まぁ今のアリアのステータスなら危険はないと思うが、せっかくの祭りだしさ。

 二人には心から楽しんでもらいたい。余計なケンカなど見せたくない。

 と思ったのだが……


「んふふ、私はもう守られるだけの女の子じゃありませんから。大丈夫ですよ」

「ははは、なるほどね。それじゃ行こうか!」


 アリア、強くなったな。

 体だけじゃない。心が成長したんだろう。

 さすが俺の恋人だよ。


「でもケンカって誰がしてるんでしょうね?」

「大方酔っ払いだろ。少し頭を冷やさせよう。おーい! 通してくれ!」

 

 俺達は野次馬を掻き分け前に出る!


 そこには取っ組み合い寸前の二人の大男が!


「グルルルル! もう一度言ってみろ!」

「あぁ! 何度でも言うさ! この味が分からない竜人めが!」


 な!? そこにいるのはベルンドとフゥじゃないか!?

 お前ら仲良しだろ!? 一体何があった!?


 とにかく二人は爆発寸前だ。

 一度落ち着かせないと……


「お、お前ら、何があったんだ? 少し落ち着こうぜ?」


 なだめるように話しかけるが……


「タケか! お前も言ってやってくれ! 最高のラーメンは豚骨ラーメンだとな!」

「グルルルル! 何を言う! 醤油ラーメンこそ至高! シンプルかつ深い味わい! この味が分からん獣人が何を言うか!」


 ん!? 二人とも何言ってんの!?


 騒ぎを聞きつけたのか、サシャとフリン、そしてソーンもやって来た!

 いいところに来た! 二人を止めてくれ!


 俺達は必死で二人を引き離すことに成功!


「は、離せ! ベルンド殿には豚骨ラーメンの素晴らしさを教えねばならんのだ!」

「笑止! そんな細麺に惑わされるなど! フゥ殿、見損なったぞ!」


 ど、どうやら二人はラーメンの種類について揉めているようだ。

 そういえばここは飲食街であり、祭り期間中は店頭でラーメンを販売している。

 店主達はオロオロしながら二人の取っ組み合いを見つめている。


「頼むから落ち着いてくれ! ラーメンの味ごときでケンカするんじゃない!」

「味ごときだと!? タケ、今の発言は許せん!」

「グルルルル! そうだ! タケはどっちの味方なのだ!?」


 いや、どっちの味方でもねえよ。

 サシャとフリンも必死になってフゥを止める。

 だがステータスはフゥの方が上なので、勢いを止めることが出来ないようだ。


「フゥさん! 落ち着いてください! そんな豚骨ラーメンなんてくだらないもの食べてるからそんな短気になるんですよ!」

「そうよ! まずは塩ラーメンを食べてからものを言うべきだわ!」


「なに!? お前達、塩ラーメンなどが好きなのか!? あんなあっさりしたものはラーメンだと認めるわけにはいかん! だからエルフはそんな貧弱なのだ!」

「なんだと!?」「なんですって!?」


 おいおい! あっちもなんかケンカし始めたぞ!?


 し、仕方ない。いったんベルンドを落ち着かせてからフゥとバカップルを止めるか。


「ははは、フゥ殿は醤油ラーメンなど下劣なものが好きなのですか? やれやれ、これだから竜人は困る」

「グルルルル! ソーン殿、聞き捨てならんぞ!」


「いいですか! ラーメンは味噌こそ究極! あの太麺に絡むスープ、一度食べたら忘れられますまい!」

「ふん! ドワーフ風情が何を言う! 醤油なのだ! 醤油ラーメンが至高なのだ!」


 シン……


 辺りの空気が張り詰める……

 

 バッ


 各々距離を取り睨みあう。

 まるで火花が散っているようだ。


 醤油のベルンド。

 豚骨のフゥ。

 塩のサシャとフリン。

 そして味噌のソーン。


 誰も一歩も譲らなかった。

 自分の推しこそ最高。

 それを信じて疑わない目をしている。


「「「「戦争だ!」」」」


 と五人一斉に声を出す!?

 って、馬鹿野郎!

 ラーメンで揉めるんじゃねえって!


「タケよ! お前は私の味方だよな!? 醤油派だよな!?」

「何を言う! きっと豚骨派だ!」

「そんなことないわ! 塩よね! そうよね!」

「味噌です! タケ様は味噌顔をしてますからね!」


 ソーン、味噌顔って何よ? 初めて聞いたわ。

 

「「「タケは何が好きなんだ!?」」」

「タンメン」


「「「これは戦争だ!」」」


 なんでそうなるよ!?

 こんな感じで祭りはヒートアップし、突如推しのラーメンの売上を競う大会が始まってしまう。

 これが自由連合の記念すべきラーメン戦争の始まりだった。

 ちなみに優勝は醤油でも、味噌でもない。塩でも豚骨でもなかった。

 

 ドワーフの少女、チコの母であるアーニャが作る鳥白湯ラーメンが優勝をかっさらい、にわかラーメンフリークのベルンド達は涙を飲むことになったのだった。

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