第137話 復興祭 其の一

「では第一回、バクー復興祭の会議を開催します!」

「わー」

「グルルルル」

「キュー」

「楽しみですね!」

「飲むぞー!」


 ここはアシュートにある俺の家だ。

 今日で完全復興にめどがついたので主要メンバーに集まってもらった。


 さすがにテオはヴィジマにいるので、後でルネの経路を使って日程を知らせる予定だ。

 同様にフゥも最前線にいるので後で連絡することにした。


 今回の会議の参加者は俺とアリア。

 竜人代表のルネとベルンド。

 エルフ代表のサシャ。

 獣人代表として熊獣人のルーに来てもらった。

 そして今回の主役たるドワーフ代表のソーンもいる。


「まずはみんなに感謝の言葉を送りたい。今日でドワーフの入植も終わり、人々は普段の生活に戻りつつある。

 僅か二ヶ月でここまで復興するとは想像していなかったよ。みんなのおかげだ。本当にありがとう」


 俺はみんなに頭を下げる。

 だがソーンは焦ったように俺を止めた。


「い、いけません! タケ様が頭を下げるなど! むしろ私達ドワーフが感謝しなければならないのです! 皆さん! バクーを救って頂き誠にありがとうございます!」

「グルルルル、当然のことをしたまでだ。ソーン殿こそ頭を上げてくれ。我らはもう仲間ではないか」


 おぉ、ベルンド、いい事言うじゃないか。

 そうだな。俺達はもうドワーフ達を仲間だと認識している。

 共に働き復興のために汗を流してきたんだ。

 飲み屋なんかで他の種族が肩を抱き合い酒を飲みかわす光景をよく見るようになったからな。


 だがけじめは必要だ。俺達はまだドワーフを正式に同盟に入ってもらうよう宣言していない。

 今回の祭りは復興を祝うだけではなく、ドワーフが自由連合に加盟することを祝う祭りでもあるのだ。

 せっかくだから派手にいきたい。


 で、一つ問題点がある。

 それは……


「アシュートとマハトン、どっちの町で祭りを開催すればいいと思う?」

「「「…………」」」


 別にどっちでもいいということにはならない。

 なぜなら今は戦時中だ。

 いつ何時魔女王軍が攻めてくるか分からない。


 バッ


 ベルンドがまず手を挙げた。


「はいベルンド君!」

「グルルルル、私はアシュートで行うべきだと思う。ここはマハトンに比べ前線が近い。万が一のことを考えるとアシュートで祭りを開催するべきだろう。

 もし魔女王軍が攻めてきても、ここからなら支援しやすいからな」


 なるほど。ベルンドの言うことも一理ある。

 アシュートは西の軍事拠点としての機能もあるのだ。

 たしかにマハトンで祭りをすれば万が一の時に対応出来ない可能性もある。


 バッ


 おや? 今度はソーンの手が上がったぞ。


「はいソーン君!」

「は、はい。ありがとうございます。私はマハトンで開催するべきかと。確かにアシュートは前線に近いので支援はしやすいでしょう。ですが、祭りをするにはいささか華やかさに欠ける都市だと思うのです。

 一方マハトンは比較的マルカに近く、商業施設が多く建設されており、一般の参加者も集まりやすくなっています。ドワーフだけで祭りをするならアシュートでいいでしょうが、参加してくれる人の足を考えるとマハトンの方が利便性はあります」


 むむ。どちらも正しいように思える。

 悩むな……

 

 バッ


 おや? 今度は熊獣人のルーが手を挙げた。


「はいルー君!」

「タケ様よ、それ毎回やるのか? がはは、面白い人だ。俺はマハトン推しだ。あっちの町の方が食い物が美味い。こっちも悪いわけじゃないが、せっかくなら美味い酒と料理で楽しみたいじゃないか」


 単純な意見に聞こえるがこれも重要だ。

 祭りは楽しんでこそなんぼだからな。

 他にも意見は上がるがアシュート派、マハトン派でちょうど半分に分かれてしまった。


「先生はどう思うんですか?」


 とアシュート派のアリアが聞いてくる。

 はは、久しぶりに先生って言われた。

 みんなと会ってる時は名前で呼んでくれないんだよな。

 俺の考えか……


「俺はマハトンでやるべきだと思う。どちらで開催してもいい祭りに出来るだろうが、せっかくだし心から楽しみたいしな」

「おっしゃ! これで決定だな!」


 とルーは喜ぶ。彼の言う通りマハトン派が四票でマハトン開催に決定した。


「グルルルル、大丈夫だろうか?」

「心配する気持ちも分かる。だがアシュートに駐屯する兵を一時的に増やせば対応出来るだろ。それに何日もここを空けるわけじゃない。

 移動時間も含めて三日ってとこだ。それぐらいなら問題無いだろ」


 アシュートから隣国コアニヴァニアまで馬で二日はかかる。

 祭りの開催期間中は飛竜族の斥候を増やし、万が一に備えておけばいい。


「では復興祭の開催地はマハトン。一週間後に開催を予定する! 各自今から祭りの準備をしておくように!」

「はい!」「キュー!」「グルルルル!」「分かりました!」「任せてよ!」「飲むぞー!」


 これで復興祭についての会議を終える。

 ふふ、今回はどんな祭りになるんだろうな。

 楽しみだ。


 

◇◆◇



 そして一週間の時が過ぎ……


 バァンッ バァンッ

 ワイワイ ガヤガヤ


 マハトンの町に多くの人々が集まる。花火が上がり復興祭の開催を告げる。

 町にはすでに出店が出ており、いい匂いが漂っていた。


「ママー、あれ食べたーい」

「いらっしゃーい! マルカ名物のお好み焼きだよー!」

「おい! このくじって全部外れじゃねえのか!?」

「このお酒美味しいわね! もう一杯ちょうだい!」


 おぉ、いい意味で混沌としている。

 だがみんなしっかり祭りを楽しんでいるようだ。


「ふふ、みんな楽しそうですね」

 

 とアリアが話しかけてくる。

 まったくだ。やっぱり祭りってのはこうでなくちゃな。


「それじゃいつものアレをお願いします!」


 グイッ


 アリアは俺の手を引いて壇上に上がる。

 やっぱりやらなくちゃ駄目だよな。

 俺の他に自由同盟の主要メンバーが壇に上がってきた。

 みんな俺を見てニヤニヤしている。


 はいはい、言えばいいんだろ?

 俺は壇の先頭に立って群衆に向けて復興祭開催の挨拶を始める。


「今日はよく集まってくれた! 今回俺達はバクーを取り戻し、さらに僅か二月で復興を遂げた! バクー復興に携わった者もここにいるだろう! まずはその者達に感謝する! 

 だが戦いはまだ終わっていない! 隣国コアニヴァニアには俺達の敵である魔女王軍が控えている! いつ何時戦いが起きてもおかしくない状況だ!

 だが敢えて今日ここで祭りを開く! なぜなら新しい仲間が出来たことを祝わねばならないからだ!

 バクーを取り戻したことで、俺達はドワーフを仲間にした! 俺は彼らも自由ラベレ連合に入ってもらうつもりでいる! 

 種族の垣根を越えて共に戦おう! 俺達なら出来る! このまま勝ち続けて新の自由を手に入れるんだ! 

 ここにバルル! ヴィジマ! マルカ! バクーを含めた四ヶ国で新ラベレ連合の発足を宣言する!」

「「「うぉーーー!!」」」


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチッ


 割れんばかりの拍手が鳴り響く! 

 ふぅ、緊張したよ。


 みんなのところに戻ると、笑顔で迎えてくれた。


「グルルルル! 素晴らしい挨拶だった!」

「すごいよ! 私鳥肌が立っちゃった!」

「うぅ…… 我らドワーフを迎え入れてくれたこと感謝いたします……」

「タケオさん、素敵でした……」

「キュー」


「もういいって。かなり恥ずかしかったんだからな。ほら、みんなも祭りを楽しんでこい!」


 俺の言葉を皮切りに皆三々五々散っていく。

 残ったのは俺とアリアとルネ。


「それじゃ俺達も楽しもうか!」

「はい!」

「キュー!」


 俺達は手を繋いで雑踏の中に飛び込む。

 さぁ、祭りを楽しむとしようか!

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