第135話 バクー復興 其の七 魔道具

 俺とアリアが住む家が完成した翌日、俺は一人隣の町マハトンに向かうことに。

 町の入口までアリアが見送りに来てくれた。


「グスン…… 寂しいけど、待ってます……」

「こら、明日には帰って来るんだから。泣かないでくれ」


 アリアは置いていかれるのが寂しいのだろう。

 だが仕方ないことだ。

 今日は農地から大量の穀物や野菜の搬入があるからな。

 一人責任者はいたほうがいいだろう。


 それにアリアには新居が出来たことは秘密にしておきたいからな。

 サプライズってやつだ。


「それじゃ行ってくる」

「あ、待ってください!」

 

 何か言い忘れたのか?

 振り向くといつも通り腕と尻尾で抱きしめられてからキスをされる。


「ん…… アリアは甘えん坊だな」

「ふふ、行ってらっしゃい」


 俺はドラゴンに変化したルネの背に乗る。


 ルネ、頼んだ!


(はいなのー!)


 ドカカッ ドカカッ


 ルネは東に向け走りだした。



◇◆◇



 マハトンに着いたのは夕方前だ。

 ルネから降りると、彼女はすぐに変化を解く。


(ふー、疲れたのー……)


 ありがとな。どうする? 少し休むか?


(はいなの…… ちょっとお昼寝するの……)


 疲れてるな。俺はルネを抱いて集会所に向かう。

 そこは俺達主要な面子が寝泊まり出来るよう作られている。

 二階に上がりルネをベッドに寝かせると、すぐに寝息が聞こえてきた。


「キュー…… キュー……」


 ルネ、ちょっと待っててな。俺は工業地区に行ってくるよ。

 一人集会所を出て工業地区に向かう。

 まだ夕方だ。チコはいるだろうか?


 町はまだ完全しは復興していないし、住民はほとんど住んでいない。

 だがすぐに商売が出来るよう、研修として工場は稼働しているのだ。

 俺はチコがいるであろう工場に入ると……


 トントン トントン

 シャッ シャッ シャッ

 ギュイーンッ ババババババッ


 釘を打つ音、カンナをかける音、魔法仕掛けの丸鋸が木を切る音と様々な音が鳴り響いている。

 へー、すごいな。魔道具だけじゃなくて、普通の家具も作ってる。

 タンスにベッド、テーブルに椅子と様々だ。


 さてチコはどこにいるかな……

 作業に邪魔にならないよう工場内を歩く。

 すると、チコが椅子に腰かけて作業をしている姿が見えた。


「チコ、ご苦労様」

「あ! タケさん! 来たんですね!」


 チコは作業用のゴーグルを外し、立ち上がる。

 すごくいい笑顔だ。楽しく仕事しているみたいだな。

 

「順調そうだね」

「はい! それとタケさんにお願いされてた魔道具ですけど、完成してますから!」


 おぉ! 仕事が早い! 

 なんでも研修を開始してからすぐに取り掛かってくれたそうだ。

 アリアにはすでにどんな魔道具が欲しいか聞いてある。

 それをチコに伝えたんだよな。


「タケさんの魔道具は倉庫に入れてあります。案内しますね!」


 チコの先導のもと、俺は工場の敷地にある倉庫に向かう。

 大きなシャッターを開け、中に入ると……


「まずはあれです!」


 チコが示す先には俺の身長ほどある大きな箱型の魔道具が。

 近付いて箱に設置されている観音開きの扉を開けると……


 ガチャッ ブゥゥンッ


 箱の中から冷気が漏れ出す。

 ふふ、お願いした通りに出来上がってるな。


「どうです? すごいでしょ!」

「あぁ。最高だよ。この中に食材を入れればしばらく保管出来そうだ」


 チコに依頼した魔道具は冷蔵庫なのだ。

 これはアリアのリクエスト以外に作ってもらった物だ。


 俺の時間操作という能力を使えば食材は腐ることなく幾らでも保管出来る。

 だがその食材を使用する際、凍らせた時間を解凍する必要がある。

 アリアが一人でいる時はその食材は使えないのだ。

 だが冷蔵庫があれば料理するのに困らないぞ。


 それにこれは一般にも流通させるつもりだ。

 まだ計画段階だが大型の冷蔵庫を馬車に取り付けて冷蔵馬車なるものも考えている。

 ヴィジマからマルカに食材を輸送する際、傷んでしまう野菜があるのだ。

 せっかくだから新鮮なものを食べてもらいたいからな。


「ふふ、でもこれってすごい魔道具ですね。私達ドワーフでも考えつきませんでしたよ」

「すごいのはチコ達さ、俺のアイディアを話したら想像通りの物を作ってくれたんだから」


 本当にすごい技術だと思う。

 ドワーフが手先が器用だってのはどこの世界も変わらないな。

 動力源は魔石であり、定期的に交換する必要がある。

 ヴィジマには手付かずの鉱脈が川に眠っているらしいからな。

 しばらく困らないだろう。

 他にもバクーには採掘をしていない山は多数ある。

 戦争が終わったら掘削を始めればいいさ。


「後はアレです!」

「おぉ! これもすごいな!」


 次はドラム式の洗濯機だ。

 手洗いが主流の世界だが、これで洗濯革命が起きるぞ。

 主婦の強い味方だな。

 

 他にも俺考案のハンディ掃除機。

 寒い夜でもポカポカの魔導毛布。

 家族の団欒を約束し、一度入れば抜け出すことは出来ないであろう魔導コタツもある。


 これは魔道具ではないが、俺の趣味で人をダメにするソファーも作ってもらった。


「えへへ、このソファーって気持ちいいですね。ダメになっちゃいそう……」


 とチコはソファーに体を埋める。

 そうだろう? このソファーのせいで日本人の半分はダメになったんだ。

 悪魔の発明品といってもいいだろう。

 そうだ! このソファーを量産して敵に送るか!

 そうすれば魔女王達はダメになって戦争が終わるかもしれない。


 ははは、なにを馬鹿なことを考えてるんだ俺は。

 ともかくこれで一通りの家具は揃ったことになる。

 きっとアリアは喜ぶぞ。


「ありがとな。早速だがこれをアシュートに送って欲しい」

「はーい。それじゃ馬車を用意しておきますね」


 馬車か。馬なら二日か三日で届くな。

 俺達があの新居で暮らす日も近いだろう。


「本当にありがとな。それじゃそろそろ俺は行くよ」

「えー、行っちゃうんですか? ねえタケさん! せっかくだから一緒にごはん食べに行きましょ! こないだダークエルフのエルって人が料理の研修会を開いてくれたんです! 

 お母さんはマハトンで食堂を開く予定なんです! すごく美味しいですよ!」


 ほう、あの美人のお母さんもいるのか。

 それじゃちょっとお呼ばれしちゃおうかな。


 俺は夕闇に包まれたマハトンの町をチコを歩く。

 チコのお母さんはたしかアーニャさんって言ってたな。

 どんな料理を作ってくれるのだろうか?


 アーニャさんの店は飲食街の一画にある。

 まだ店は営業していないが、多くの店に灯りが灯っており、中では作業しているドワーフの姿があった。

 開店準備前なんろうな。忙しそうだか、皆いい顔をしている。

 もうすぐ自分達の力だけで生活出来るようになるのだ。

 今はまだ戦争は続いているが、それでも自立した生活が出来るのは嬉しいのだろう。


「タケさん、ここです!」

「へえ、かわいい店だな」


 アーニャさんの店はガラス張りで中がよく見える作りになっている。

 店内は二十人は座れるこじんまりとした作りだ。

 おしゃれなカフェって感じだな。


 アーニャさんは俺達に気付いたのか、入り口まで出迎えてくれた。


「チコ、お帰りなさい…… って、タケ様! どうしてここに!?」

「えへへ、連れてきちゃった。お母さん、お腹減ったよー。タケさんとごはん食べたいんだけどいい?」


 アーニャさんはすごく困った顔をしている。

 恥ずかしそうに体をモジモジさせる度にたわわに実ったメロンがプルンプルンと揺れるので大変目に毒だ。

 

「も、もうチコったら…… 急にお客さんを連れてくるなんて。タ、タケ様、あまり豪勢なものは用意出来ませんが…… よろしいですか?」

「はい、もちろんです。それに急に押しかけてしまって申し訳ない」


「で、ではどうぞ」


 アーニャさんに案内され、キッチン前にあるカウンター席に着く。

 女将さんが料理しているのが間近で見られるな。


「そ、そんなに見られたら緊張しちゃう……」

 

 ふふ、かわいいお母さんだ。

 見ていて微笑ましいな。


 だがアーニャさんの料理の腕は見事な物で、あっという間に料理を出してくれた。

 ごはんに味噌汁。ほうれん草のお浸しに川魚の塩焼き。

 これって……


「うふふ、こないだエルさんっていう方から教わったんです。タケ様の世界の料理なんですよね? さぁどうぞ! お口に合うといいんですが」

「そういえばエルが来てたんですよね。美味そうだ。頂きます!」


 まずは味噌汁から。

 お椀に口を付けて一口……


 ゴクンッ


 こ、これは……!


「美味い!」

「ほ、本当ですか! 嬉しいです!」

「えへへ、お母さんってお料理上手でしょ!」


 俺は夢中で用意されたごはんを食べる。

 箸が止まらないとはこのことだ。

 あっという間に完食してしまった。

 俺の食べ姿を見て、アーニャさんが嬉しそうに笑っている。


「ふふ、すごい食べっぷりですね。そうだ! まだ試作品なんですがラーメンを食べませんか?」


 ラーメンだと!? もうマハトンにまで出回ってるのか!


「ぜ、是非お願いします!」

「うふふ、男の子みたいですね。すぐ出来ますから」

「お母さーん。私もー!」


 アーニャさんはラーメンを茹で始める。

 出てきたのは小さな器に入ったラーメンだが……

 スープの色が茶色だ。


「味噌ラーメンですね?」

「そうです! 試しに作ってみたら美味しくって…… さぁどうぞ!」


 もうワクワクが止まらない! 

 俺はラーメンをすすり始める!

 

 ズルズルッ


 これは……!?

 太麺にスープがよく絡む。

 俺が作るより美味い!


 俺はラーメンも完食し、今日の食事を終える。

 すごいな、日本より美味いラーメンが異世界で食べられるなんて……


 その後お茶をいただき、俺はルネが待つ集会所に戻ることに。

 お土産としておにぎりを持たされた。


「タケ様ー、また来てくださいねー」

「魔道具は明日送りますからー」


 アーニャさんとチコに見送られ、俺は夜の町を歩く。

 もうすぐマハトンの町は完成する。

 アシュートも間もなくといったところだ。


 ならそろそろ復興祭の準備をしなくちゃな。

 バルル、ヴィジマ、マルカ、そしてバクーを加えた新自由ラベレ連合の祭りだ。

 きっと楽しいぞ。

 俺は祭りの計画を考えながら帰ることにした。 

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