第131話 バクー復興 其の三 工場見学

「すー…… すー……」


 アリアの寝息を聞いて目が覚める。

 昨日はマハトンの町で一泊することになったんだよな。

 

 久しぶりにサシャとフリンに会い、夕食だけ食べてアシュートに帰ろうと思ったのだが、せっかくだから一泊していってくれとお願いされたのだ。


 マハトンの町にも俺が住んでいた集会所のような建物が建てられている。

 ここで会議をすることもあるだろうとサシャが建ててくれたのだ。

 俺達はここに泊まり、そして今日は帰る前にフリンが建てた魔道具工場を見学することを約束したんだよな。


 アシュートに帰るのはその後だ。

 

「よいしょっと……」


 俺は裸のままベッドを出る。

 昨夜はアリアと愛しあってからそのまま寝てしまったのだ。

 服を着るため、鞄に手を伸ばすと……


 シュルルッ


 俺の体に尻尾が巻き付いてきた。

 もう驚かないぞ。さすがに慣れたわ。


 俺は後ろを振り向かずに朝の挨拶をする。


「おはよ」

「んふふ。タケオさん、こっち来て……」


 アリアは尻尾を使い、俺をベッドに引き込む。

 そしてそのまま寝かされ、上からキスをされた。


「ん…… ふふ、おはようございます……」

「おはよ。ほら、アリアも起きて。今日はフリンのとこに行くんだろ」


 だがアリアは俺を離さない。

 こら、朝からそんなことしてる暇は無いぞ。


 だが体は正直なものだ。

 昨日散々したってのにもう元気になっている。


「わ…… や、やっぱりすごいですね……」

「そんなにマジマジと見るなよ。アリア、責任は取ってもらうぞ!」


 ガバァッ


 アリアを押し倒す。


「きゃあんっ。んふふ、タケオさん、好き……」

「俺もだ……」


 そして俺達は……



◇◆◇



 朝から思わぬところで時間を食ってしまった。

 適当にごはんを食べて、集会所を出る。

 さて、これからフリンのところに行かねば。


 たしか工業地区は町外れに建設してるらしい。

 アリアと二人で目的地に向かう。

 その道中で俺に声をかけてくる者がいる。


「あ! タケさーん!」

「チコ! 無事だったんだな!」

 

 そこにはアシュートで出会ったドワーフの少女チコがいた。

 他にもドワーフの一団が控えている。

 あれ? まだ町は建設途中であり、住める状態ではないぞ?

 ともあれ俺達は久しぶりの再会を喜んだ。


「はぁはぁ…… よかった! やっと会えましたね!」

「心配したよ。でもなんでここに?」


 バクーで保護したドワーフは全部で三十万人前後。

 その全ては今は国境付近で一時的に生活してもらっている。

 復興が終わったら町に戻ってもらう予定だ。


「あはは、今日は見学に来たんですよ。エルフの男の人が私達のところに来て、細かい意見を聞きたいから一度マハトンに来て欲しいって言われたんです」

「なるほど…… それでドワーフがいるんだな。とういうことはチコもここで働くつもりなのか?」


「はい! 私、魔道具作りは得意なんです!」


 そうだったのか。それにしてもフリンめ。なかなかやるじゃないか。

 これから働く者のことを考えて、その意見を取り入れようとしているんだ。


 なんだかんだ言ってアイツはエルフの上に立つ者だ。

 ただのエロエルフじゃなかったってことだな。


 俺が話していると、ドワーフの一団も近付いてくる。

 前に出てきたのは大人の女性ドワーフだ。

 かなり美人だな。

 背はアリアより少し低いが、大人の色香を漂わせている。

 そして何より胸が……


「初めまして…… 私はチコの母のアーニャと申します。この度は娘の命を救ってくれたばかりではなく、私達をも解放してくださるなんて…… うぅ…… 感謝いたします……」

「な、泣かないでくれ。むしろすぐに助けにいけなくて悪かった」


 アシュートに住むドワーフは近くの廃坑に身を潜めていたはずだ。

 俺達がアシュートを解放するまで恐い想いをさせてしまったことを気にしていたんだ。


「皆無事だったんだな?」

「はい、おかげ様で死者は出ませんでした。これもタケ様のおかげです……」


 ガバァッ


 感極まったのか、チコの母であるアーニャは俺に抱きついてくる。

 俺の胸に顔を埋めるようにして泣いているのだが……


 ポヨンッ ポヨヨンッ


 当っているのだ。フワッフワの巨乳が……

 

 この世界のドワーフは他の世界のドワーフと違い、ほとんど人族のような姿をしている。

 人族より少しだけ背が低く、子犬のような目をしてるだけだ。

 そればかりではなく美人が多い。

 今俺の胸で泣いているアーニャも二十代と見間違うほどの若さだ。

 ロリ巨乳。そんな言葉がぴったり当てはまる種族なのだ。

 この世界のドワーフ万歳。

 とアホなことを考える。

 

 恐らくこの美貌が原因で、魔女王兵はドワーフを襲っていたのだろう。

 チコも出会った時は兵士に犯されかけていたんだよな。

 

 だがそろそろ離してくれないかな……

 さっきから感じるのだ。

 俺に向けられるアリアの殺気をね……

 超恐いんですけど……


「ご、ごほん! それじゃみんなで工場見学に行こうか!」

「はーい! それじゃお母さんは向こうだね! また後でねー!」

「チコ! タケ様に失礼なことしちゃ駄目よ!」


 おや? ドワーフの半分は町に消えていく。

 チコの母であるアーニャもだ。

 どこに行くんだろうか?


「お母さんはお店で働くんです。すごくお料理が上手なんですよ!」


 なるほど。そっちの見学も兼ねていたのか。

 俺達はチコ達と工場に向かうことにした。

 

 ギュウゥゥゥゥ


 道中アリアがずっと俺のお尻をつねっていたが我慢した。

 すごく痛かった。


 そして俺達は工業地区に着くわけだが……


「わー、大きい……」


 とアリアは呟く。

 たしかにそう思うだろう。俺も驚いている。

 目の前には体育館の数倍はあろうかという建物が三十棟ほど建設されていた。

 すごいな。これなら数万人はここで働けるのではないだろうか?

 

「おーい! タケ、待ってたよ! 皆さんも入ってくださーい!」


 おや? 建物に二階から叫び声が。

 上を向くとフリンがいた。


「わー、楽しみ! タケさん、行きましょ!」


 グイッ


 わわ、チコが俺の腕を引く。

 強引に工場に連れ込まれた。

 またアリアの殺気が俺に向けられたんですが……


 中に入ると、フリンが出迎えてくれる。


「よく来たね! 魔道具工場へようこそ!」

「すごいな、フリン。案内を頼むよ」


「よし、それじゃみんなこっちに来て!」


 フリンはドワーフを連れて工場を案内し始めた。

 俺達はここで働くわけじゃない。余計なことは言わないほうがいいだろう。

 フリン、しっかりみんなの意見を聞いておいてくれよ。


 それにしてもすごい規模だな。

 広い作業台、大きな搬入口、天井には滑車も付けられている。

 あれに吊るして完成した道具を運び出すのだろうか?


「フリンさん! 倉庫はもう少し大きいほうがいいです!」

「作業台の高さは調整出来るかしら? 私達にはちょっと大きいわね」

「分かった! どんどん意見を聞かせてください! 参考にさせてもらいますから!」


 フリンもいい顔してるな。

 きっとみんなここで楽しく働いてくれることだろう。


 ギュッ


 ん? アリアがそっと俺の手を握ってくる。

 もう怒ってないみたいだな。


「ふふ、みんな喜んでますね。マハトンもきっといい町になりますね」

「そうだな…… そうだ、アリアはどんな魔道具が欲しい?」


 俺の問いにキョトンとした顔をする。

 魔道具というのは高級品であり、アリアが住んでいたコアニヴァニアでも売られていたが、庶民には手が出なかったそうな。

 ある程度高い物になるだろうが、何か買ってやろうと思っているのだ。

 だってこれから一緒に住むことになるんだからな。

 それをアリアに伝えると……


「え? で、でも…… それじゃまるで……」

「ま、まぁそのなんだ…… 分かるだろ?」


 実はアリアにはまだ言ってなかったのだが、アシュートに俺達だけの家を作るつもりなのだ。

 これまではノルの町では集会所を使っていた。

 ラーデではフゥの家の空いている部屋を使わせてもらった。

 それ以前はテント暮らしだ。


 今のアリアの状態を考えると二人っきりになれる空間が必要だ。

 だったら快適に暮らせるようそれなりに家具などを揃えないと。

 

「う、嬉しいです…… ぐすん……」


 アリアが泣き出してしまう。

 ずっと一緒にいたが、こうして同棲することを直接伝えるのは初めてだからな。

 だが結婚という言葉は出さなかった。

 それは全てが終わった後だ。

 それに戦いが全て終わった後、俺は選ばなくてはならない。

 ここに残るか。それともアリアと共に他の世界に向かうかを。

 それを決めてからアリアに伝えよう。

 俺と一緒になってくれってな。


 アリアが泣き止む頃、工場見学は終わる。

 俺達はドワーフとフリンに別れを告げ、アシュートに戻ることにした。


「チコ! 元気でな! 次は復興祭で会おう!」

「はーい! タケさんもお元気で!」


 ドワーフも一度避難所に戻るようだ。

 これでマハトンの町でやることは終わったな。

 

「そろそろ帰ろうか……」

「はい……」


 ルネに迎えに来てもらい、俺達はアシュートを目指す。

 その間、アリアは両手と尻尾で俺の背に抱きついていた。

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