第125話 ユンとリァン

 ビュォォォォッ


 吹雪が吹き荒れる。

 ここは大陸北端の国、コアニマルタ。人族が支配する国だ。

 

「はぁはぁ……」


 吹雪の中、一人の男が雪を踏みしめ、魔女王ルカの城に向かい歩みを進める。

 男は城の前に着き、紋章を門にかざす。


 ギィー…… バタァン……


「ふぅ……」

 

 魔女王ルカが住む城には選ばれた者しか入れない。

 男もその一人だ。

 男は肩に積もった雪を払い、そして二階にある彼の上司の部屋に向かう。


 ノックをすると聞きなれた声が部屋の中から響く。


『入りなさい』


 その声を聞き、男は部屋に入る。

 そこには……


「ユン、ご苦労でした。今茶を淹れましょう」

「いえ、報告に参っただけですので……」


「ははは、あなたは変わりまんね。いつも仕事熱心だ」

「武人故と言ったところで。では報告を。今回の魔物を使った襲撃作戦ですが失敗に終わっています。よって予備の作戦に切り換えました。計画通り全軍をバクーから撤退。被害は最小限に留めています。

 ですが時間を稼ぐためにアイヒマンに犠牲になってもらいました」


「そうですか…… 仕方ありませんね。ユン、今回の敗因は何だと思いますか?」

「速さ。それに尽きるでしょう」


 ユンははっきりと答える。

 あまり勢いの良さにリァンは大笑いをした。


「ははは! なるほど! たしかにそうですね。後一日私達が動くのが早ければ私達は勝っていたでしょう。風林火山とはよく言ったものです。やはり反乱軍の首謀者、タケオというのは只者ではありませんね……」


 リァンは負けたというのに余裕があった。それが武人であるユンは面白く思わなかったのだろう。


「失礼ですが…… 負け戦だというのにずいぶんと楽しそうに笑われるのですね」

「ははは、申し訳ない。ですがこれも計画通りですので。ユン、私達には二つの目的があります。一つはルカ様のため…… もう一つは自分達のためですよね? ですが私達は主君に仕える身。ならば己が目的は捨てねばならない時が来たということです。

 ユン、集めた魂の量はどうなっていますか?」


「それは…… 今回は死傷者があまりにも少なすぎました。門を開けるには最悪あの手を使わなければならない…… そうですね?」

「えぇ…… 悲しいことですが……」


 ユンとリァンはお互いを見つめ、悲しそうな顔をする。

 主君のため、最も残虐である行動を取らなくてはならない。

 迷いはあったが、それはやらないという理由にはならなかった。

 それは二人が自分のためではなく、主君であるルカのために生きているのだから。

 

 二人は覚悟を決めた……


「ではリァン様。私はこれで……」

「待ちなさい。ユン、今回はご苦労でした。これは心ばかりの品ですが……」


 リァンは一巻きの反物をユンに渡す。

 これは間者を通じてラーデから手に入れた絹の織物だ。

 

「受け取ってください。これは良い物です。きっと温かいですよ」

「…………」


 だがユンは受け取ろうとしない。

 そればかりか……


「辞退させていただきます。負け戦だというのになぜ下賜などあるのでしょう? これは私が勝つか、もしくは次の冬の調度品として取っておいてください。では失礼します」

「ふふ、貴方は変わりませんね。ではそのように」


 ユンは部屋を出ていく。

 一人取り残されたリァンは窓を見ながら思う。

 相手は強敵だ。だが勝つのは我々だと。


 新しい戦いが間も無く始まろうとしている……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る