新ラベレ連合

第126話 女子会

 ん…… 

 カーテンの隙間から朝日が差し込む。

 目を開けると横にはタケオさんの寝顔があった。

 

 わわ、私裸だ。タケオさんも。

 そういえば昨日はいっぱい可愛がってもらったんだ。

 そのまま服も着ずに寝ちゃったんだね。


 タケオさんを起こさないように静かに体をずらす。

 そしてうつ伏せになってタケオさんの顔を眺める……

 んふふ、かわいい人。

 ちょっとキスしちゃおうかな。

 でもタケオさんは疲れてるみたいだし…… 

 

 ゆっくり寝かせてあげよう。

 私は服を着るためベッドを出ようとするけど……


 シュルルッ ギュウゥゥゥゥッ


「な、なんだ!? アリア…… 苦しい……」


 ちょっ!? 私の尻尾がタケオさんの首に巻き付いてる!

 そして愛おしそうにチロチロとタケオさんの顔を撫で始めた。


「ご、ごめんなさい! 時々勝手に動くんです! こら離れなさい!」

「入ってる…… 頸動脈に入ってるから……」


 危なかった。タケオさんは私の尻尾から解放され大きく息を吸う。


「ぜぇぜぇ…… お、おはよう、アリア」

「おはようございます……」


 さわやかな朝から一転、戦慄の起床を迎えてしまった。

 ようやくタケオさんの息が整ったところで、おはようのキスをしてくれた。


 ん…… ふふ、私ってなんて幸せなんだろう。

 こんな体になっちゃったけど、タケオさんは前よりも私を好きでいてくれるみたい。

 そう思うと……


 シュルルッ ギュウゥゥゥゥッ ギュウゥゥゥゥッ


 また尻尾が勝手にタケオさんに巻き付く!? 

 なんであなたは執拗にタケオさんの首を狙うの!? 

 

「はぁはぁ…… ははは、アリアは尻尾まで俺を好きでいてくれるんだな。嬉しいけど首は止めてくれ……」

「気を付けます……」


 ようやくベッドから降りて服を着る。すると化粧台の鏡に私の姿が映る。

 こうして見ると、やっぱり自分の体じゃないみたい。

 角は伸びてるし、髪は銀色に変わっている。

 背中からは蝙蝠の羽。そして蛇の尻尾……


 昔は憧れてたけど、今は元の姿に戻りたい。

 タケオさんはこのままでいいって言ってくれるけど……

 ううん、そうだね。これでいいの。

 だってタケオさんはありのままの私を受け入れてくれたんだもの。

 

「どうした? 早く服を着てくれないか? 裸のままじゃ俺がベッドから出られないだろ」

「んふふ、別にいいですよ。タケオさんも一緒に着替えましょ!」


 もう、そんな毛布なんて被ってないで。

 早く着替えてください!


 バッ


 タケオさんから毛布を奪い取ると……!?


 そ、そこには……


 ドォォォーンッ


「な、なんでそんなことになってるんですか!?」

「しょうがないだろ! その…… アリアが可愛いからさ…… っていうかそんなに見るな!」


 す、すごい! 明るいところで見るとこんなになってるの!?

 男の人ってすごいね……

 私よりすごい変異をしていると思う。

 も、もう一回見ておこ……


 思わず朝からバタバタしちゃったけど、ようやく落ち着いて朝ごはんを食べる。

 いつも通りルネはタケオさんの横に座ってる。


「キュー」

「こらルネ。お茶碗は持って食べなさい」


 ふふ、いつ見ても親子みたいだね。

 お箸が上手く使えないルネ。

 タケオさんは上手にタマゴヤキを摘まんでルネに食べさせてる。


「キュー」

「ははは、美味しいってさ。そうだ、今日は休みだけど予定あるか?」


 とタケオさんが聞いてくる! ま、まさかデートのお誘いですか!?

 うぅ…… こんなことなら予定をいれておくんじゃなかった……

 実は今日はサシャさんとダークエルフのお友達、リリンさん、エルさん、ルージュさんと女子会をするって約束しちゃった。

 

 みんな私のこと心配してくれてたから、バクーに行く前に一度会いたいって。

 私もタケオさんと一緒にバクーに行く予定だから、ノルにいるリリンさん達とはしばらく会えなくなっちゃうんだよね。


「ごめんなさい…… 今日は約束があって……」 

「なんで謝るんだ? いや、俺も今日はソーンと一緒にバクーの復興計画を立てる約束をしてるんだ。だから遊び行きなって言おうとしてたんだよ」


 そうだったんだ。

 もう、期待して損しちゃった!

 でもタケオさんも予定があるんならかえって良かったのかな?

 ふふ、なら今日は女の子だけで楽しんじゃお!


 私は寝室に戻ってタンスからドレスを取り出す。

 これはルージュさんが作ってくれた絹のドレス。

 肌触りがよくって、すごくかわいいデザインをしている。

 普段はもったいなくて着れないんだ。

 今日くらいならいいよね。


 よいしょっ

 

 スルッ フワッ


 すごく軽い。そしてこの着心地…… まるで羽が生えたみたいだ。

 って、今の私って背中に羽が生えてるんだった。

 なるべく目立たないように羽を畳めば…… 

 よし! これでいつも通り! 尻尾が生えてるのは気にしない!


 家を出る前にタケオさんに挨拶しておいた。


「おぉ、かわいいな」

「ふふ、ありがとうございます。それじゃ行ってきます!」


 えへへ、褒められちゃった。

 気分よくラーデを歩く。

 待ち合わせ場所は……

 最近出来た食堂だ。


 ここはエルさんが調理指導をしたお店で美味しいお酒とタケオさんの故郷の日本食が食べられるお店でもある。

 ふふ、楽しみだな。

 中に入ると……


 カランカランッ


 ドアに取り付けてある鐘が鳴り、私を呼ぶ声がする。

 

「アリアー、こっちよー」


 サシャさんだ。リリンさん達もいる。

 テーブルにはもう料理が乗ってて、みんなお酒が進んでるみたい。

 私もテーブルに着くと……


「ままま、駆け付け三杯……」

 

 とお酒好きのリリンさんが梅酒を勧めてきた。

 いきなりだね。


「もう元気みたいだね。アリアが倒れたって聞いた時は心臓が飛び出るかと思ったよ! ほらみんなアリアの復帰を祝って乾杯しよう!」


 とサシャさんが音頭を取る。

 ちょっと恥ずかしいけど……


「「「「かんぱーい」」」」


 女子会がスタートした。

 まずは梅酒からだね。ふふ、大好きなんだ。

 飲むのは久しぶり。

 コップに口をつけると……


 シュワシュワッ


 あれ? このお酒…… 


「ふふ、気付いた? この梅酒、発泡してるでしょ。たしかアリアちゃんは発泡の甘口ワインなら飲めるんだよね。これは私からの快気祝いよ。それとタケさんと結ばれたお祝いも兼ねてね。アリアちゃんのために特別に作ったの」

「リリンさん……」


 嬉しい…… 私のために作ってくれたんだ……

 

「あ、ありがとうございます…… ぐすん……」

「あらあら、泣かないで。友達だもん、当然じゃない」


 リリンさんはそう言ってくれるけど、私、虐められてたから友達って出来なかったし。

 まさか魔族じゃなくてダークエルフのお友達が出来るなんて思わなかったよ……


「あ、忘れてた。これはタケさんと飲んでね」


 ドンッ


 リリンさんは酒瓶をテーブルに置く。

 綺麗なお酒。ピンク色してるね。


「ベースは梅酒よ。でも特別なお酒なの。二人で楽しんでね」

「はい!」


 ふふ、嬉しいな。後でタケオさんと楽しませてもらおーっと。


 次は自分の番とばかりにエルさんが前に出てくる。


「アリアちゃーん。復活おめでとー! これは私からのプレゼントでーす」

「エルさんまで! ありがとうござい…… って、大きいですね」


 エルさんは上機嫌に大きな箱を渡してくる。

 蓋を開けると…… 

 キノコ? 大きなキノコが入っていた。


「これってキノコですよね?」

「そうなのよ! これすごい貴重なキノコでね! 神木の下にしか生えないキノコなの! 食べるとすごいんだから! 美味しいから! タケさんに食べさせてね!」


「せ、先生にですか? 私じゃなくて?」

「別にアリアちゃんも食べてもいいけど、少しすごいことになるかもよ?」


 すごいことって何!? まさか毒キノコなんじゃ……


「エル! あんたそれってムルタダケじゃないの! 一本ちょうだい!」

「駄目よ! フリン君を殺す気なの!? 若い子に食べさせるんじゃないわよ!」


 死ぬって何!? そんなものタケオさんに食べさせられないよ!


「あはは、大丈夫よ。ただの滋養強壮効果があるキノコだから。ポーションみたいなものよ。それに美味しいんだから!」

 

 へー、それなら大丈夫そうだね。


「そうよ。若い男の子が食べると鼻血が出ることがあるけど、女性にはあまり効果がないの。大人が食べれば副作用は無いし、健康にもいいのよ。薬だと思ってさ。貰っといて」


 強引にキノコを渡されてしまった。

 まぁ薬と思えばいいか。エルさんは料理上手だから美味しいムルタダケの料理を教えてもらった。

 実際はエルフには効果があるけど、他種族が食べてもあまり問題は無いんだって。

 なら美味しくいただこうかな。


 そして今度はルージュさんが不敵な笑みを浮かべて近付いてくる……

 何をくれるんだろ。ちょっと怖いけど楽しみだね。

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