第77話 マルカでの戦い 其の六

 う…… ここはどこだ?

 目を開けると獣人達が俺を見下ろしている。

 必死な顔をして俺の腹に布を当てているのだが……

 一体何が起こっ……?


 ズキィッ


 う!? 鋭い痛みが走る! 何がどうなっているんだ?


「ヤバい! 血が止まらない!」

「このままじゃ死んじまうぞ!」

「回復魔法が効かねえんだよ!」


 え? どうやら俺は怪我をしたみたいだ。

 確かに獣人達は俺に属性問わず回復魔法をかけてくれている。

 だが俺の腹からは噴水の様に血が噴き続けている。

 このままでは出血多量でお陀仏だ。


「だ、大丈夫だ。離れててくれ……」

「おい! 目を覚ましたぞ!」


 俺の言葉を無視するように獣人は治療を続けてくれる。

 魔法が効かないということは恐らく何らかのレジストをかけられているということだ。


 俺は残り少ない魔力を使って気功を発動する!


 パアァッ


 傷口が光を放ち、ゆっくりと血が止まっていく。

 魔法が効かないのであればそれ以外の方法を使うだけだ。

 魔法というのは大気中や大地から自然の魔力、マナを取り込み体内魔力で魔法に変換する。そして様々な奇跡を起こす術のことを言う。


 俺は魔法が使えない。だが体内魔力、いわゆるオドを使ってそれらしいことが出来る。今使った気功もその一つだ。


 だが完治は出来なかった。傷口は塞がり血が止まっただけ。

 腹には刺された跡がくっきりと残っている。

 まだ少し魔力は残っているはずだ。状態を確認しないと。

 俺は自身に向け分析を発動する。



名前:タケオ

年齢:???

HP:857/9999 MP:125/ 9999 

STR:9999 INT:9999

能力:杖術10  

ギフト:

時間操作:大年神の加護

空間転移:猿田彦の加護

多言語理解:思金神の加護

分析:久延毘古の加護

魔銃:吉備津彦の加護

気功:日本武の加護

湧出:少彦名の加護


状態:魔力阻害レジスト 出血(スリップダメージ)



 やはりな。恐らく魔力阻害の効果により俺の体は魔法を受け付けなかったのだろう。

 そしてまだ血は完全には止まってないみたいだな。

 回復しなくてはいけないのだが……


「おい、ルーがいないぞ!」

「そういえばさっきここを飛び出していったな」


 ルーが? なぜ出ていっ……

 突如記憶が蘇ってくる。そういえば俺はルーに刺されたんだ。

 レールガンを発射し、魔力枯渇症一歩手前になった俺に肩をかしてくれた。

 そのまま外に連れてってもらおうと思ったのだが、後ろから俺のことを……

 

 考えなくても分かる。ルーが間者だったんだ。

 俺を裏切りやがった。だが不思議と怒りが湧いてこない。

 奴は言ったんだ。俺を刺すときにすまないと。


 間者になる理由は様々だ。金、女、出世に保身。だがルーが間者になったのはそのどれでもないように思えた。

 考えられるのは……


 俺は痛む体を起こす……


 ズキィッ


 う!? くそ、動くと血が滲んでくる。


「お、おい! 動いちゃ駄目だ!」


 と獣人は俺を止める。だが今動かなければ。

 このままではみんなが危ない。


「計画通りだ…… このままラーデに向かう。兵を三つに分ける。一万は俺と一緒にラーデに。残り五千ずつは東と中央の街道に向かえ」

「あんた…… いや分かった!」

「おい! 大将の命令だ! 準備を始めろ!」

「おう!」

 

 獣人達は装備を整えていく。

 ここにいる獣人は傭兵団に所属している者が多い。

 皆手慣れたように鎧を着て、剣を腰に差していた。



◇◆◇



 ザッザッザッザッ


 俺達は暗闇の中、ラーデを目指して進んでいく。

 幸いなことに魔女王軍とは出くわさなかった。

 今のところ俺の策が成功しているということだな。


 街道からラーデまでは歩いて一日のところにあるらしい。

 岩だらけだった景色が緑色に変わり、そして丘を越える頃……


「おい…… 着いたぞ……」

 

 俺の横にいる獣人が話しかけてくる。

 ここがラーデか。

 目の前には城壁で囲まれた町があった。

 かなり大きな町だ。

 ここに百万を超える獣人が集められ強制労働を課せられていたんだな。


 俺は魔銃スナイパーライフルを発動し、スコープを覗く。

 城壁には門があり、見張りの兵士がいて、さらに城壁の上からも巡回を行う兵士の姿があった。


 かなり厳重だ。正面から行くのは愚策だろう。


 まずは見張りを何とかしないとな。

 俺は獣人に指示を出す。


「見張りは俺が倒す。あんたらは見つからないよう少しずつ進んでくれ。近くに森があるだろ。そこで待機だ」

「分かった。大将も気を付けてな……」


 ザッザッザッザッ


 獣人達は指示された場所に向かい、俺は一人丘の上に残る。

 さてと……


 チキッ


 スコープに目を当てる。確認出来る見張りは…… 一、二、三…… 全部で六人。

 そして城壁の上を巡回する兵士が四人か。


 スコープの倍率からして兵士までの距離は一キロといったところか。


 俺はトリガーに指をかけ……


 ガォンッ


 命中。兵士の頭が吹き飛ぶ。


 ガォンッ


 命中。心臓に当たったな。崩れるように倒れこむ。


 ガォンッ ガォンッ ガォンッ ガォンッ


 弾丸は全て命中し、見張りは兵士は全て片付けた。


 その後も巡回する兵士を倒す。よし、今なら行けるな。


 残りMPは残り僅か。気絶しないギリギリの魔力を残し、今出来る最大限の魔力を込め、弾丸を城門に撃ち込む。


 ガォンッ ドゴォンッ


 俺の一撃により城門が粉々に吹き飛ぶ。


「行けぇ!」

「突撃!」

「ラーデを我らの手に!」

「「「うおぉー!!」」」


 獣人はラーデに雪崩れ込んでいく。俺も行かないとな…… 

 傷口は痛むし、魔力も底を尽きかけている。

 フラフラするがまだ動ける。


 俺もラーデ城内に入ると……


「や、止めてくれ!」「仲間の仇!」

「ひぃ! 命だけは!?」「死ね!」


 おや? 思ったより魔女王の兵士がいない。

 むしろ獣人が兵士を囲んでいる光景が目につく。

 獣人達も予想以下の敵の数に驚いているようだ。


 ふふ、ここでも俺の策が上手くいったということだ。恐らく多くの兵士がここにいたのだろう。

 だが東と中央の街道から敵が来ていることを知った魔女王軍は最低限の兵士を残し援軍に送ったのだ。


 そこに現れた一万を超える獣人。虚を突かれた魔女王軍はほとんど抵抗することも出来ず獣人に殺されることになった。


 俺は近くにいた獣人に状況を聞くと……


「信じられないが…… 魔女王軍は千人程度しかいなかった。ついこないだまで二十万はいたんだぜ? なのにどうして……」

「ははは、これが勝ち戦ってやつだ。今頃奴等は街道で戦ってるだろうよ」


 勝利ってのは案外呆気ないものだ。

 これでラーデは獣人達のものになった。

 だがまだやることがある。


「おい、ここを治めていたアイヒマンは殺ったのか?」

「アイヒマン? いや。まだ見つかってない」


 そうか。奴は多くの獣人の仇でもある。

 フゥに聞いたがアイヒマンの非人道的な行為はヘドが出るものだ。

 奴は生かしておくと必ず俺達の驚異となる。


「探してくれ。それとここにルーがいるかもしれん。見つけたら…… いや見つけたら俺に知らせてくれ」

「わ、分かった」


 ルーは俺達を裏切った。

 奴を裏切り者として処罰するのは簡単だが…… 

 まずは話を聞いてみたかった。

 甘いと言われればそうかもしれない。

 だが俺には奴がどうしても私利私欲のために間者になったとは思えなかった。


 ルーを探すため、瓦礫の山と化した街の中を歩いていると、獣人達の声が聞こえる。


「おーい! アイヒマンがいたぞ!」

「ルーもだ!」

「囲まれてる!」

 

 何!? 俺は痛む腹を押さえながら走る!

 獣人達が集まる場所にたどり着き、急ぎスナイパーライフルを構える!


 チキッ……


 スコープを覗くと……

 いた! 確かに囲まれてる! 

 兵士達は剣をルーに振り下ろそうとした!

 やらせるか!


 ガォンッ ガォンッ ガォンッ ガォンッ


 スナイパーライフルから放たれた弾丸がルーを囲む兵士の頭を吹き飛ばした。


 間に合ったか…… 


 さらに盾を構えた兵士の中に冷たい目をした男がいることに気付く。


 あいつだな。


「行くぞ!」

「おう!」


 俺と獣人達はルー達に向かって進む。

 そして俺を驚きの表情で見つめるルーを通りすぎる。

 そして目の前には俺を震えながら見つめる男が。


「こいつがアイヒマンか」


 獣人の国マルカにおける諸悪の根源であるアイヒマンがいた。

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