第48話 アプローチ大作戦 其の三

 急遽行われることになったタケオさんと私を恋人同士にさせる作戦だけど、最初に実行した『美味しい料理で胃袋を掴め!』作戦は見事に玉砕した。

 だってタケオさんって私より料理が上手なんだもん。


 今思うと、出会ってから今までタケオさんの料理を食べ続けてきた。

 あの人が作ってくれる物はナットウ以外全部大好き。

 勝てる訳ないよね。


 でもきっとまだ方法があるはず! 

 私達は円陣を組みつつ考えるけど……


「どうしよう…… 相手は強敵よ」

「強い挙句に料理上手だなんて……」

「完全に理想の人だわ。結婚してくれないかしら?」


 だーかーらー! なにタケオさんのこと狙ってんのよ!

 趣旨が変わってるじゃない! 

 私とタケオさんをくっつけるために考えてくれてるんじゃないの!?


「こらリリン。人の想い人を盗るんじゃないよ」

「ごめーん。でもルージュだってかっこいいって言ってたじゃない」

「そ、それを言ったらエルだっていやらしい目でタケを見てたでしょ!?」


 なんかもうこの人達に任せるのは止めようかな? 

 相談した相手を間違えたのかもしれない…… 


「そ、そんな目で見ないで。じょ、冗談よ。そうだ! そういえば私の両親の話なんだけどね、自然にスキンシップを取るといつの間にか好きになってたって言ってたかな?」


 スキンシップ? どういうことだろ? 

 私はエルさんの話を聞くことに。


「具体的には?」

「そうね…… たしか荷物を持ってあげる時にさりげなく手を触るとか、疲れてる時に肩を揉んであげるとか」


 なるほど…… でもタケオさんの手は握ったことはあるんだ。

 バルルで二人で出かけた帰りに手を繋いでいいかお願いした。

 タケオさんは笑顔で私の手を握ってくれた。

 すごく嬉しかったけど…… なんか子供と手を繋ぐお父さんって感じだった。

 期待してたのは指を絡ませ合ういわゆる恋人握りだったのに……


 それ以外はあんまり触れ合ってないなぁ。

 一緒に寝てくれたのだって数えるくらいだし。

 でも肩を揉んであげるっていうのは名案かも。


 ちょうどタケオさんも疲れてるだろうし、やってみようかな! 

 むふふ、こう見えてもマッサージは上手ってお母さんに褒められたことあるんだ。

 よーし、タケオさんを揉みほぐしちゃうぞ!


「やってみます!」

「うん! がんばってね!」

「応援してるね!」

「つ、次は私も揉んでいい!?」


 だから最後の人! さっきから何なのよ!? 

 い、いけない。周りに流されちゃ駄目。

 それに邪な考えは駄目だよね。

 純粋にマッサージしてタケオさんを癒してあげよう。  

 で、でもちょっとくらいならお尻とか触ってもいいかな?


 私は変な期待をしつつタケオさんのテントに向かう! 

 でもなんて言おうかな? 

 いきなり肩をお揉みしますとかは変だよね。

 どうすれば自然な流れでマッサージをすることが出来るんだろ……


 答えが出ないままテントの前に行くと…… 

 あれ? タケオさん、起きてるの? 

 焚き火の前でコーヒーを飲んでた。


「お? アリアか。どうした?」

「どうしたじゃないですよ! 寝てなくていいんですか?」


「あぁ。なんか眠れなくなっちゃってね。アリアもどう?」

「ふふ、いただきます」


 予定外だけどコーヒーをごちそうしてくれることになった。

 嬉しいな。こうして二人でいられるのって久しぶり。

 ルネやサシャさん達といられるのも楽しいけど、タケオさんを一人占めしてるみたいで嬉しい。


 あれ? タケオさんは私にコーヒーを淹れたあと、靴を脱いで足の裏を指で押し始める。

 何してるんだろ? 


「これ? 足ツボだよ。魔力が回復するツボがここにあってね。ここを押すを魔力回復にいいんだよね。いてて……」


 力いっぱい足裏を押す。な、なんだかすごく痛そう……   

 はっ!? これはチャンスかも!


「わ、私が押します!」

「アリアが? うーん、結構力がいるしな。でもせっかくだしお願いしようかな」


 タケオさんはうつ伏せになって足裏を私に向ける。

 ど、どこを押すのかな……


「親指の付け根から土踏まずを力いっぱい押すんだ」

「力いっぱいですよね…… こうですか!?」


 ギュウゥゥゥゥゥッ


 こ、これぐらいでいいかな? 

 こう見えても私のSTRは高い。

 タケオさんに鍛えてもらったんだもん。

 多分一流の戦士よりも腕力はあるつもりだけど……


「うーん、もうちょっと強く」

「もうちょっとですか!?」

「うん。もう親の仇って思いながら頼む」

「親の仇って……」


 タケオさんのお願いだもんね。頑張らなくちゃ!

 渾身の力を込めて!!


 ギュウゥゥゥゥゥゥッ ギュゥゥゥゥゥッ


 はぁはぁ、これでいいかな。

 うぅ、指が痛いよぅ。

 すごく疲れちゃった。もう汗だく……


「うん、気持ちいいよ。ありがとな。それじゃ交代な。アリア、横になって」

「え!? わ、私はいいです! 先生もお疲れでしょ!? って、きゃあん!」

「ほら、さっさと寝る!」


 ご、強引に寝かされてしまった! 

 そして靴を脱がされる! 

 止めて! まだ今日は洗ってないの!  

 きっと臭いもの! うぅ、恥ずかしいよぅ…… 

 でもちょっと嬉しいかも。

 タケオさんは私の足裏に指を当てて……


 ギュゥゥゥゥゥッ


 って、痛ー!?


「あ゛ー! いだぁー! 止めでー!!」

「若手芸人みたいなリアクションするんじゃない。我慢だ」


 ギュゥゥゥゥゥッ ギュゥゥゥゥゥッ


 痛い痛い! 何なのこの拷問は! 

 タケオさんは力を緩めることなく私の足裏を押し続け…… 

 もう駄目…… 意識が……


 …………


 ……………………


 …………………………………………


 リア…… アリア……

 

 ん? この声は……


「アリア、大丈夫か!?」

 

 タケオさん? 

 何故か私はタケオさんに抱かれていた。

 わ、私どうしちゃったの? なんか嬉しいじゃない!?


「ふぅ、驚いたよ。気を失ってたみたいだな」


 そ、そうだった。

 タケオさんの強烈な足裏マッサージを受け、痛みのあまり失神してしまったんだ。

 うぅ、足の裏がジンジンするよぅ。


「す、すいません、何だか迷惑をかけちゃったみたいで」

「俺こそすまん。でもアリアも疲れてたんだな。かなり凝ってたみたいだぞ。ツボを押すと同時に気を流しこんでおいた。どうだ? 体が軽くなった気がしないか?」


 ん? そういえば…… 

 今日はいっぱい魔力を使ったから特有の気怠さがあったんだけど、それが消えてる。


 ということは…… 

 タケオさんを癒すつもりが逆に私が癒されちゃったのかな? 

 それって駄目じゃないの……


 しかしタケオさんは私に落ち込む隙を与えなかった。


「まだ悪い箇所があるからな。仕上げだ。もう一回横になって」

「え!? も、もういいです!」

「大丈夫大丈夫。痛いマッサージじゃないから」

「いいですって! 私が先生を揉みた…… あれ? この感じは……」


 タケオさんは優しく私のふくらはぎを持って丁寧に揉んでいく…… 

 気持ちいい…… よだれが出そう……


「あぁん…… そこぉ……」

「そんな声だすなって。足はもうよさそうだ。次は肩な」


 肩? 私肩はこってない……!?


 グリィッ


「あひぃ!? そこだめぇ!」

「お前なぁ……」


 こ、声が出ちゃう! 

 止めて、ほんと止めて! 

 気持ち良すぎて変になっちゃう!


「あ゛ー! だめぇ! そこすごひのぉー!」

「すごひって…… どこで覚えてきたんだよ」


 タケオさんは呆れながらも私の肩を揉み続ける!   

 も、もう駄目…… 

 あまりの心地よさに私は再び意識を失ってしまった……



◇◆◇



「ちょっと、なにこの料理! 美味しいわ!」

「タケさん、もっと作ってください!」

「ははは、喜んで」


 ん? なんか楽しそうな声がする。

 あ、あれ? 私いつの間に寝てたの? 

 目を開けるとタケオさんとサシャさん達が笑いながらごはんを食べていた。


「ねぇタケー。こっちにもお酌をしてよー」

「はいよ、っていうか、サシャって絡み酒だったんだな。お? アリア、起きたか」


 訳が分からない。なんでみんな楽しくやってるのよ! 

 ずるいじゃないですか! あれ? リリンさんが……


「ねぇタケさん…… ちょっと酔っちゃったみたいなの……」


 リリンさんは酔ったフリをしてタケオさんにしなだれかかる…… 

 おい! 何やってんの! 


「あー! ずるーいリリン! 私も!」

「私だって!」


 なんかダークエルフの女の子達がタケオさんに絡みだした…… 

 ちょっとそこ! ほっぺにキスしないで!


「ア、アリア、これは違うからな!?」

「知りません! 先生のばか! っていうかなんでみんなここにいるんですか!」

「落ち着きなって。アリア、こっち来て!」


 怒る私を諌めるようにサシャさんが説明してくれた。

 どうやら私の叫び声が聞こえてきたらしく、サシャさん達が様子を見に来たらしい。

 でも私、そんなに叫んでた?


「ふふ、どうだったの? 優しくしてくれた? でも意外よね。タケって奥手に見えるけど、アリアにあんな声を出させるんだもん。どんなことされたの?」


 ん? 言ってる意味が分からない。

 ただ肩を揉んでくれただけなんだけど…… 

 でもサシャさんが言うには私の声って…… 

 こ、交尾をしてる時の声だったって…… 

 タケオさんにそんな声を聞かせてたの!? 


 恥ずかしさのあまり今日三回目の失神をするのだった。


 バタッ


「ちょっと!? アリア! アリアー!」


 うぅ、もう死にたいですぅ……

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