第47話 アプローチ大作戦 其の二

「よし! 今からタケとアリアが付き合えるよう考えるよ!」

「「「おー!」」」


 み、みんなノリノリだね…… 

 私はダークエルフの女の子と飲んでたんだけど、恋の話になってから、流れ的に私がタケオさんのことを好きだということが知られてしまった。

 で、みんな私達をくっつけるために作戦を考えてくれるみたい。


 戸惑ってしまうけど、期待の方が大きい。

 友達がいなかった私は今まで誰かを好きになるということがなかった。

 だからどうやって先に進めばいいのか分からなかったんだ。

 相談できる相手がいるって心強いね。


 ここにいるのはサシャさん、お友達のエルさん、リリンさん、ルージュさんだ。

 みんな幼馴染なんだって。


「でもさ、アリアちゃんってサキュバスなんでしょ? その魅力を使えば男なんてイチコロでしょ!」


 と、エルさんは言うけれど私が受け継いでいるのはサキュバスの角だけなのよね。

 サキュバスとしての能力は無いに等しい。


 魔族は受け継ぐ体の箇所が多ければ多いほど魔族の加護が強くなる。

 お母さんは角、翼、尻尾を持っていたので、サキュバスとしての特性を強く持っていた。

 いつもモテモテだった。

 お母さんは言い寄ってくる男の人は全部断ってたけどね。


 それに私、おっぱいも小さいし…… 

 ここにいるダークエルフの女の子より小さいと思う。

 エルフって体が細いから胸も小さいはずなんだけど、サシャさん達はお母さんと同じくらいおっぱいが大きい。

 羨ましい……

 

 サキュバスとしての能力も無く、女としての魅力も無いのが私なのよ。

 はぁ…… なんか落ち込んできちゃった。


 それをみんなに伝えると、憐れんだ目で私を見る。

 止めて! 余計落ち込むよ!


「ま、まぁ女の魅力は見た目だけじゃないよ! ほら、他にいい考えはないの!?」

「そうだ! 男を落とすには胃袋を掴めって聞いたことがあるわ!」


 今度はリリンさんが答える。

 胃袋か。たしかにタケオさんにサンドイッチを作ってあげたことがあったね。

 すごく喜んでくれた。美味しい料理を作ればタケオさんは振り向いてくれるかも……


 これはいい考えなのでは!?


「や、やってみます!」

「そうこなきゃ! 今タケは寝込んでるんだろ? なら体にいい物を作ってやろうじゃない! みんな行くよ!」


 飲み会の席から全員でタケオさんが寝ているテントの前に。

 道中色んな食材を持ってきてくれた。

 肉に卵、野菜に果物。

 そこに見慣れた食材が。これはコメ? 

 エルフはコメを食べるんだ。

 これは…… 砂糖もある!

 びっくりした。砂糖は故郷では貴重な調味料で、高くて買えなかったんだ。

 ふふ、嬉しいな。

 これがあればタケオさんの好きな物が作れるかも。


 修行してくれた時、タケオさんは甘いタマゴヤキっていう料理を作ってくれた。

 すごく優しい味がした。作るのも簡単だしね。

 よし! やってみよう! 

 美味しいタマゴヤキを作ってタケオさんの胃袋を掴むんだ!


「何を作るの?」

「タマゴヤキです! サシャさん達はおかゆを作ってください!」


 まだ具合が悪いはずだもの。

 消化のいい物を作ってあげなくちゃね。


 さて作るぞ!   

 卵を割って、砂糖を入れてよくかき混ぜて! 


 チャッ チャッ チャッ


 こんな感じでいいかな? 

 それをよく熱した鍋に入れてっと……


 ジュー


 卵が焼ける匂いの中に甘い匂いが混じる。

 ふふ、美味しく焼けてね。

 タマゴヤキはすぐに出来上がった。

 みんな物珍しそうにタマゴヤキを見つめる。


「これがタマゴヤキ? 美味しそうじゃない」

「一つちょうだい!」

「あ、サシャずるい! 私も!」

「ちょっとルージュ! 二つも食べないでよ!」

「止めてー! これは先生に作ったのー!」


 この酔っ払い共! 

 うぅ…… せっかく作ったタマゴヤキが全部食べられちゃった……


 しょうがないのでもう一回作ることに。

 今度は食べられないよう注意しなくちゃ。


「美味しかったねー」

「あれってどこの料理なの?」

「また食べたい……」


 ね、狙われてる。

 盗られない内にタケオさんに食べさせなきゃ。

 私はおかゆも持ってテントに向かう。

 みんなはこっそり隠れて見てることにしたみたいで、藪に隠れてくれた。


 寝てるよね?   

 静かにテントに入ると……


「ん…… アリア? どうしたんだ?」

「お、起こしちゃいましたか…… 具合はどうですか?」

「あぁ、少し寝たからな。まだ本調子じゃないが起きるくらいなら問題無い」

「そ、そうですか。先生お腹空いてませんか? タマゴヤキとおかゆを作ってきました!」


 私はタケオさんの前に渾身のタマゴヤキを差し出す!

 きっとこれならタケオさんの胃袋を掴める!


「おかゆとタマゴヤキか。ありがとな。どれどれ……」


 タケオさんはタマゴヤキとおかゆをゆっくり食べ始める…… 

 ど、どうかな。美味しいかな……? 

 食欲はあるみたい。二つともすぐに平らげてくれた。


「ふぅ…… 美味かったよ。すごいな、作り方覚えてたんだ?」

「は、はい! 先生の見よう見まねですけど……」


 よかった! 美味しいって言ってくれた! 

 また作ってあげよう! 

 あれ? タケオさんが少し考えてる。

 どうしたのかな?


「うーん…… やっぱり言うわ。もっと美味しくなるはずだ。ちょっとおいで」

「え? は、はい!」


 私の手を引いて外に出る。

 少し具合がよくなったのは本当みたい。

 タケオさんはテントを出て料理を始める。

 作るのは…… おかゆとタマゴヤキ!?


 あ、あれ? 私のとは違う作り方をしてる? 

 材料も違うみたい。

 え? タマゴヤキって塩も入れるの!?


 タケオさんは手慣れたようにタマゴヤキを焼いていく……


「アリアのタマゴヤキも美味かったけど、きちんとこしてないね。それと焼く時の火力が弱いんだ。こうすれば…… はい完成!」


 タマゴヤキを私に差し出す。

 す、すごい。フワフワだ。

 おかゆもいい香りがする…… 

 私はタマゴヤキを一口……!?


「美味しい! すごく美味しいです!」

「ははは、そうだろ。火加減一つでここまで舌ざわりが変わるんだよ。おかゆも出汁で味をつけてある。食べてごらん」


 勧められるままにおかゆを一口。

 これも美味しい…… すごく優しい味……


「作り方が簡単な料理ほど奥が深いんだ。アリアもきっと作れるようになるよ。それじゃ俺はもう少し休ませてもらう」

「は、はい! おやすみなさい!」

 

 タケオさんはテントに戻っていった。

 んふふ、すごく美味しかった。

 また作ってもらお……?


 って、あれ? これって……


 うぅ…… 完敗よ……


 私達の様子を見ていたサシャさん達が出てくる。


「上手くいった?」

「これを食べてみてください……」


 私はタケオさんが作ってくれたタマゴヤキを差し出す。  

 一口食べただけでサシャさん達の顔が驚きに変わった。


「美味しい! アリアのより数段美味しいよ!」

「おかゆだってすごいわ!」

「また作ってくれないかな……」

「私達より女子力高いわね。惚れちゃいそう…… 結婚してくれないかしら?」


 最後の人! 何聞き捨てならないこと言ってんのよ! 

 みんなもうメロメロじゃないの。

 たしかに好きな人の胃袋を掴むっていうのはいい作戦だと思う。

 でも相手が私より料理が上手では……


 ポンッ


 ん? サシャさんが私の肩に手を置いて……


「惨敗ね……」


 分かってるわよ! はっきり言わないで! 

 うぅ、もう泣きそう……


「な、泣かないで。それに女の魅力は料理だけじゃないわ! 次の作戦を考えるわよ!」

 

 そうだよね。きっと他の方法があるはずだもん。

 タケオさんはきっと振り向いてくれる。

 私はそう信じてタケオさんがいるテントをあとにした。

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