第15話 保護

 俺達は転移の森を抜け、初の外界でもあるバルルという国に着いた。

 いきなり人と竜人の死体だらけだったのには驚いたが。


 生き残りの竜人を見つけるべく、南西を目指して進んでいた。

 野営をしている最中俺達に近付いてくる者がいたのだ。


 それが今俺の横で寝ている子供だ。

 見た目は人族のように見えるが、そうではない。

 角に尻尾、翼と明らかにファンタジーの世界からやって来ましたというなりをしている。


 竜人か。

 だけど最初に見たリザードマンみたいなやつも竜人なんだよな? 

 この子はどちらかというとアリアに近い見た目をしている。


 魔族と竜人の違いって何なんだ?

 魔族だってアリアの話では尻尾や翼だって生えてるみたいだし。


 それをアリアに質問してみる。


「種族の違いですか…… この子を見てください」


 アリアは保護した竜人の子供にかけてある毛布をめくる。

 ん? 肌の一部だが鱗が生えてる。


「竜鱗です。これが生えるのは竜人だけです。竜鱗がある者は竜人族とされ、高い戦闘力を持つ……って聞いたことがあります」

「竜鱗ね…… でも詳しくは知らないみたいだな」


「はい。竜人族自体あまりバルルを出ることはありませんし、それにここは大陸の最南端の国ですから」


 この世界の住人であるアリアでさえ知識として知ってるだけか。

 詳しくは実際に話を聞いてみないと何も分からないだろう。


「とにかく今は竜人族を探そう。朝が来たらすぐに出発だ」

「はい。この子も連れてくんですよね……?」


 正直に言うと戦時において戦えない子供は足手纏いになる。

 面倒を見なくてはいけないということだけで、こちらの戦力が削がれるわけだ。


 だがこの子を保護するということが竜人族と交渉するカードになる。

 汚い言い方をすれば人質だ。

 流石にアリアには言えないけどね……


「ま、まぁ今日は休もう。朝が来るまで交代で見張りをする。まずは俺からだ。先に休みな」

「は、はい。お休みなさ……」


 アリアは横になった途端に寝てしまった。

 よほど疲れてたんだろうな。

 それじゃ火の番をしつつ見張りといきますか。



◇◆◇



 ホー ホー


 ゲココ ゲココ


 闇の中から様々な動物の鳴き声が聞こえる。

 今のところ人族や魔物が来る気配は無い。

 一応俺のギフトの一つである気功を発動し、半径百メートルに入ってきた者に気付けるようにはしてある。

 レーダーみたいなもんだ。

 でも発動中はMPを消費し続ける。


 少し休むかな……

 俺は気功レーダーを解除し、鞄から煙草の葉を取り出し、それを紙に巻いて火を着ける。

 深く吸い込むとチリチリと先端が赤く燃えた。


「ふー……」


 紫煙が天に昇っていく。

 異世界に行っても煙草は止められないな…… 

 煙草の葉はそこまで珍しい植物ではない。

 この世界にもあればいいんだが。

 もうすぐ切れそうなんだよね。


(変な匂い。嫌い)


 ん? この声…… 

 不思議な声だ。耳ではなく、直接頭の中に響くような声。

 これは一体……? 

 振り向くとアリアが涎をたらしながら寝ているだけだった。


 今のは何だったんだ? 敵が側にいるのか? 

 俺は煙草の吸い殻を焚き火に捨て、再び気功レーダーを発動する……が、いるのは小動物ばかりだ。


「気のせいか…… 俺も疲れてるのかな?」


 油断は禁物だ。警戒しつつ見張りを続けることにした。


 三時間が経ち、アリアが目を擦りながら起きてくる。


「ふあぁ…… おはようございます……」

「まだ夜だけどな。それじゃ休ませてもらう。何かあったら遠慮無く起こしてくれ」


 見張りを交代し横になる。

 疲れてたんだろうな。俺もすぐに眠ってしまった。


 …………


 ……………………


 …………………………………………


 ペチペチ ペチペチ


 ん? 俺の顔を触る何かがいる…… 

 アリアか? 何だよ、まだ交代の時間じゃないだろ?


(お腹空いたの)


 腹減った? もう少し待っててくれよ。

 朝になったら作ってやるから……


(おしっこしたいの)


 おしっこ? その辺でしてこい……? 

 って、この声!?


 俺は飛び起き、棍を構える! 

 俺とアリア以外に誰かいる!


「キュー!?」


 ん? この声は…… 

 下を見ると先程保護した竜人族の子供が震えていた。

 もしかして……


「君が喋ったのか?」

「キュー、キュー!」


 竜人族の子はキューキュー言うばかり。喋れないのか?


「せ、先生、大丈夫ですか!?」


 騒ぎを聞きつけたアリアが見張りから戻ってきた。

 俺は今起きた状況を話す。


「何だかさっきから頭の中に声が響くんだ。アリアは聞こえないか?」

「声ですか? いいえ、聞こえるのは鳥か蛙の鳴き声だけですけど……」


 なら考えられるのは…… 

 俺は体内でオドを練り分析を発動する。

 調べるのは竜人族のこの子だ。


「ちょっと触るぞ」

「キュー?」


 竜人族の子は何だか分からないような顔をする。

 俺の言葉を理解してないみたいだ。

 少しすると視界の中に文字が浮かんでくる。

 この子のステータスだ。



名前:???

年齢:0

種族:竜神族

HP:5 MP:12 STR:2 INT:8

能力:ブレス1

ギフト:経路パス



 この子、ギフト持ちだ。

 経路パスか。納得いったよ。

 それにこの子、竜人族じゃない。

 竜神族っていう種族みたいだ。


 種族については詳しく知らない。

 話してみても無駄だろう。

 それに幼いからしょうがないだろうが、この子は言葉を喋れない。

 だが意志疎通は出来る。


 俺は言葉に出さず、この子に話しかける。


 こんにちは、君が喋ったのか?


(うん。あのね、お腹空いたの)


 やはり…… そうか、なら何か作ってやるからな。

 もう少し我慢してくれ。

 君、名前は?


(名前? 知らないの。あ…… で、出ちゃった……)


 出る? 何がだ? 


 チョロチョロ


 水が流れる音がする。


「キュー……」


 竜神族の子は切なそうな顔をしながらお漏らしをしてしまった。


「キュー、キュー」

「あらあら、おしっこしちゃったのね。大丈夫よ。拭いてあげるから」


 アリアは動じることなく鞄から布を取り出す。

 竜神族の子は笑顔でそれを受け入れた。


(ありがと)


「アリア、その子お礼言ってるぞ」

「お礼? キューキュー言ってるだけじゃないですか?」


 アリアには聞こえないのか? 

 経路パスを持っているなら何を言っているか分かるはずなのだが……


 経路パスっていうのは念話みたいなものだ。

 言葉を発することなく自分の意思を伝えることが出来る。

 だがそれだけではない。

 精神に直接干渉することで、触れることなく相手の心を壊すことも出来る。

 かなり恐ろしい能力だ。


(そうなの?)


 あ、聞こえてた? 

 駄目だぞ、盗み聞きは。

 君は強い力を持っている。

 あまり人の心に入ってくるのはよくないぞ。


(よく分かんない)


 おしっこに濡れたお股を拭き終え、アリアは乾いた布を腰に巻いてあげた。


「ふぅ、これでいいかな。ふふ、あなた女の子なのね」

「キュー?」


 女の子か。

 世話をしてくれたことで竜神の子は心を許したのかアリアに抱きつく。

 そして服越しからアリアのおっぱいに吸い付いた。


「あはは! ちょっ、ちょっと! 出ないから! 止めてー!」

「キュー」


 アリアは大爆笑しながら竜神の子を引き剥がそうとする。

 ちょっと見てて面白いな。


(お腹空いたのー)

 

 はいよ。この子には歯があるからな。

 柔らかくすれば固形物でも食べられるだろ。


「アリア、俺は何か食べられる物を作ってくる。その子の世話を頼んだぞ」

「せ、世話って!? あはは! 先生助けてー!」


「我慢だ。それに刺激を受けるとおっぱいが大きくなるって噂だぞ」

「ほ、ほんとですか!? な、なら我慢……出来ない! やっぱり無理ー! あはははは! 止めてー!」


 竜神の子は出ることのないアリアの胸を吸い続ける。

 俺はその光景を見ながら調理を開始した。

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