第22話 それぞれの救出劇

《少女の霊が殺人犯を捕まえる?》

目撃者の話によると公園のトイレ付近で血まみれの少女とその背後にナイフを持った男性を目撃、その場から離れ110番通報、駆け付けた警察官が男を逮捕するも現場付近に血痕も少女の姿もなく、女性が見たとされる血まみれの少女の行方を捜している

逮捕された犯人は他県で行方不明となっている複数の少女の失踪に関わっているとして現在取り調べを受けている


「いいねいいね、こういうの、自ら都市伝説的な痕跡を残していく、面白いじゃないか」

「亡くなっておられる方も居るかもしれないので面白いは少々不謹慎かもしれません」

「ああ、んーまぁ・・・・そうだね」

「ただ、あの状況ですぐに警察が来ることが分かっていたので、犯人を放置しましたが、もし警察が来ない状況であれば夕凪さんは犯人をどうしたのだろうか、少々気がかりなところはあります」


「状況的になにか不安なところでもあったの?」


「いいえ、考えすぎかもしれませんし、もし最悪を想定した状況となっていても止めておりますのでご安心を」

「たしかに精神的に感情に左右されやすい年でもあるか・・・」

「言葉から導かれる結果の可能性の問題なので気になさらないでください」

「わかった、そういう所は英二郎に任せるよ」

「はい」


そこにキトが突然現れる


「雪音よ」

「キトさん何か用?」

「うん、倉庫にあったこれらの品を貰ろてもええか?」

「どれどれ・・・うわ、カビ臭!、いらないから好きに使って」

「おおきに」


キトは神棚を拝んだ後消えていった


「あんなもの何に使うんだろうね」

「さあ・・・わかりません」

少々あっけにとられた雪音と英二郎だった


・・・・・


自分が今までメールやチャットをしていた相手が1人の男性であると考えていないだろうか?、もしかすると相手の男性は複数いるそういう可能性を決して捨ててはならない


前日の公園での出来事がニュースとなっていた

団地の中のとある1軒家、2区画を使った近隣の家より一回り大きく高い塀に囲まれ中の様子は伺えない、この家には比較的若い男性が何人か出入りしているのは目撃されているが、自治会にも入っていないこの家の家族構成を知る近隣住民はいない、住宅街に建つ家にも関わらず孤立している、しかも高い塀により外部から中の様子が見えないにも関わらず家のすべての窓には雨戸が閉められ陰気な雰囲気を作り出している、内部の1階のリビングには監禁された少女達と男が2人

「あいつ掴まったらしいな」

「ああ、ニュースで出てたな」

「やっぱあんなネジが1本プッツンしたような奴と組んだのが間違いだったな」

「参ったな、この女達どうするよ?」

「女たちの身元が分かるのも時間の問題だな」

「こいつら放置して、俺たちだけで逃げるか?」


「そうはいきませんよ」


突然部屋に入ってくる女性

女性は事前にこの家でなにが起こっているか知っているようだった

玄関のカギを静かに開け誰にも気づかれずに家の中に侵入してきていた

「お、なんだこの女、どこから入ってきた!」


男達は突然現れた女性に襲い掛かる

女だと思って甘く見ていたのか、格闘術の経験もない男達は、あっさりと床に転がる

女性は少女たちの拘束を解く


「大丈夫でしたか?」

「ありがとうございます、あなたは?」

「私はこういう物です」


名刺の様な紙を差し出す


「丹野美香・・・さ・・・ん・・・・グリスコーポレーション・・・」

「グリスコーポレーションって、あのカリスマ経営者の?」

「そうです、私はそこで秘書兼ファンクラブ兼親衛隊長をやっております」

「わぁ~すごい」

「あなた達も、グリス様に興味があればいつでも歓迎するわよ」

「ありがとうございます!」


丹野は警察に連絡後、犯人及び少女たちを警察に一旦引き渡した

丹野はグリスに連絡を取る


「グリス様、任務完了しました」

「ご苦労、どの国もそうだったが、警察という組織はあまり頼りにならないんだね」

「所詮は人、グリス様に敵うはずがありません」


「まぁ、そうなんだけど、じゃあ後は任せるよ、男達の抜け殻とはしばらくすると対面するだろうけど」


「はい、畏まりました」


丹野をはじめ武闘派の親衛隊はこういった女性たちのトラブルを次々と解決しグリスの人間社会での信頼を高めていた


・・・・・

夕凪は学校帰り英二郎と話をしている

「あの・・・、まだ付いてくるのですが・・・」

「そうなんですか、残念ながら私には見えることができないのです」

「英二郎さんが分からないとなるとやはり霊ではないのでしょうか?」

「そういう前例がないので分析できません」

あの公園の件以降、血まみれの少女は夕凪の後ろを付いてきていた

普通の人なら恐怖するのだろうが、特に害がなさそうだと分かっている夕凪には恐怖心はなかった

それでも、家で居ても、授業中であっても、気が散って落ち着かない


「それにしても、今までの霊との違いは少しハッキリしているということです」

「例えば」

「少女の着ている制服まで・・・」

「学章のような物はわかりますか?」

「学章ですか・・・」

「この3つの手裏剣の様な形をしたものでしょうか?」

「ふむふむ、検索してみます」

「区域内に該当しそうな中学校が2件ほどございます、いってみますか?」

「そうですね・・・」

後ろの血まみれの少女を見ながら考えている


「近くだと第一中学校ですね、ちょうど下校時間なのでなにかわかるかもしれませんね」

「行ってみましょうか」

「はい案内させていただきます」


歩いて学校の近くまで来た、途中たくさんの生徒とすれ違うが数が多すぎて良く分からない


「顔が分かれば画像判定するのですが・・・」

「うーん」


すると血まみれの少女が何かに反応した


「ん?」


血まみれの少女はどこかを見ている


「どこかを見ていますね、なにかあるのでしょうか?」

「行ってみましょう」


少し人気のないわき道を進んでいくと小さな空き地で声がする

声の感じで分かった、いじめだ

しかし、いじめている側もいじめられている側も少女とは関係のない男の子だ

「いじめの現場のようですが、男の子ですね」

「そうでしたか・・・それにしても助けないのですか?」

「ああいうのに関わっていると限がないので・・・」

「そうでしたか、困っている人がいるとつい助けてしまうのかと思っていました」

「うーん、自分の身に危険が迫りそうな時は動きますが・・・でもあまり騒々しいのも好きではないので・・・」

「なんとなく理解できます」

「あの中の人物と何か関係があるのかな・・・」


後ろの血まみれの少女もいじめの現場をじっと見ていた

その場で何が起こるのか待っていると

少女が駆け込んできた

「あんた達!大人数で1人を囲むのはやめなさい」

「なんだよ、また口うるさいのがやってきやがった」

「しらけるから行こ行こ」


その少女に夕凪は反応する

「あ、あの子、たぶんこの血まみれの少女と同じ子だ」

「あの少女がですか」


「大丈夫?あんたも男なんだからもっとしっかりしなさいよ」

「うぇっぐ、うぇっぐ・・・」

「まったくもう」


夕凪は少女に声をかける

「あの・・・」

「はい、なんですか?」

「あなた生きてますよね」

「突然、なんなんですか一体、それにさっきこの子がいじめられているのを眺めてましたよね、なんで助けようとしなかったのですか?」

「んー、なんでと言われても、ほら男の子がたくさんいたから怖くて」

「たしかにそうなんだけど、その恰好からして高校生ですよね、お姉さんの方が年上ですよね、怖いのなら周りに助けを求めるとか、もっとお姉さんらしくしっかりしてくださいね」

「はい、すいません」


「啓二、行くよ」

「では失礼します!」

「ごめんなさい」

「なんであんたが謝るのよ、男でしょ、しっかりしないさい」

「ごめんなさい・・・」

「もう、情けないんだから」


2人を見守る夕凪と英二郎だが、血まみれの少女はまだそばにいる

「このままお別れとはいきませんよね」

「そうですね」

「了解しました、周辺のカメラで様子を監視していきましょう」

英二郎は少女を監視カメラで追い、夕凪の端末に映像を送り続けている

夕凪は少し離れた直視できない場所で後を追っていた

やがて少女は男の子と別れ1人となる

すると駅前を歩いていくと少女は1人の中年の小太りの男性に声をかけている


「どうやらタバコの吸い殻を注意しているようですね」

「自らトラブルに関わるのは関心しないですね」


しばらく言い合いしているようだったが、人だかりができた辺りから男はそそくさと退散していった


「掃除してますね、なかなか関心な少女です」

「うーん、それにしても本人が居るのに血まみれの少女は消えないですね」

「そうなんですか、不思議ですね」


そのまま観察していると

一仕事終えたのか少女は満足そうにその場から去る

どうやらやっと家に帰るようだ


「近くのカメラが切れているので少し画像が荒くなりますが、遠距離のカメラなどに切り替えます、あと、少々気になるのですが、先ほど注意された中年の男性なのですが、どうやら後を付けているかのような素振りを見せております、カメラから外れたので衛星カメラで分析していきます」

「ありがとう、嫌な予感しかしないですね」

「彼女の身が危ないかもしれないですね」


少女の名前は鳴無美央、しかし、帰る家の表札は違う、両親ともなくなっており親戚の家で居候をしていた

美央の父は空手をやっており正義感が強かった、しかし、その正義感からかトラブルに巻き込まれナイフで刺されこの世には居ない、元々体の弱かった母は父の死後体調を崩し美央を残しこの世を去ってしまっていた、美央はそんな父の背中を見て育ったのである

そんな美央にはある特殊な能力が開花しようとしていた


美央は誰もいない家に帰ってきた、帰ってきたとは言え自分の家ではない居候の身では冷蔵庫の中を開けるとかTVを付けるなど行うこともなく、真っ直ぐ自分の2階の部屋に戻ろうとしていた

その時居間の異変に気付く、テレビが付いているから、美央は誰かがTVを消し忘れたのだろうかと確認をしにいく

部屋にはやはりだれも居ない、そしてTVを消そうとした瞬間、頭部に衝撃を受け気を失った


どのくらいの時が過ぎたのか自分ではわからなかった、目が覚めると台所の方で誰かがなにかを探しているかのような音が聞こえてくる


美央は動こうと思っても動けない、頭部を強打されたことでの痛みと意識がもうろうとしていた、だが動こうと思った瞬間手に痛みが走る、両手を貫通したアイスピックのような物が畳に突き刺し両手を封じられている、両足も縛られており、なにより動こうと思っても手の痛みに耐えられない


「この家はなにもないな」

男は何かを口に頬張りながら姿を現す


「あなたは・・・」

「さっきはよくも恥をかかせてくれたな、お前も全世界に恥をかかせてやる」

男は携帯端末のカメラをこちらに向け、撮影を始める


「あ、あれ、なんだおかしいな、ネットの回線が切れたぞ、なんだこの腐った会社は、俺の邪魔ばかりしやがって」


男は携帯端末を指で必死に連打している、その状況に狂気を感じる


美央は半分諦めていた、父と同じようなことをしていれば、いつか父と同じ目にあうだろうと、だが後悔もしていない、今自分の置かれた環境を考えてもこれで両親のそばに行けるのではないいのだろうかと頭の中をよぎる


「なるほどね、この男の人がカメラを付けてくれたおかげではっきりした位置がわかりました、後ろの少女も大体は案内してくれていたのですが・・・」


男は夕凪を気にする様子もなく必死に携帯端末を触っている


「哀れですね」


夕凪は杖で男の携帯端末を殴りつける


「おま・・・・」

男の口に杖の先端を押し込む

「しゃべることは許しません、どうせ話してもろくな事言わないでしょうから」

男は立ち上がろうとしたが杖をさらに口の奥に押し込められ抵抗できなくなってく

「どうしましょうかね」

夕凪は美央の姿を見る

「あなたにあまり生きる価値はなさそうですね」

夕凪は杖から刀を抜き、地面に刺す

地面から亡者の手が出てきて男を地面の底に轢き込みだした


「良いのですか、いくら悪人とは言え"人"ですよ」

「こいう事をする人はこれが初めてだと到底思えません、今まで数多くの女性を不幸にしてきている可能性が高いです」

「しかし、その役目はなにも夕凪さんが行う事でもないように考えます、この国は法治国家です、この男は法の裁きを受けるのもまたこの国の生き方なのではないでしょうか?」

「その法律とやらは被害者を守ってくれるの?心の傷を癒してくれるの?」

「どちらかと言えば、もし自分が加害者となってしまったら?の方が大きいかもしれませんね、なので一歩間違えれば今の一連の行為も加害者になりうる可能性がございます」

「今まさに被害に、ケガを負わされている人を前にして、そういう理屈は不要!」

目の前でなにやら議論している、どうやら夕凪の行うことを静止しているようにも見えた美央は自力で畳に刺さった物と一緒に一気に起き上がった、痛みで気が狂いそうだ


「、うわぁあ、はぁはぁ・・・助けていただいた人に・・・、こんな男の為に何かを背負う必要はありません、だったらこれは私の問題、私が決断します」


手から刺しぬいたアイスピックを持ち男の目に先端を向けた

後は体重を掛けてて男に倒れるだけで目を貫通して脳に突き刺さるだろう

だが、今まで人を傷つけたことの無い美央にとって決して安易な事では無かった

手が震えている

それに起き上がって気づいたのだが頭部から出血しているのか、目が服が赤く染まっていく


「わかりました、もうよしましょう」

ふら付きながら震える美央の手をやさしく抑え、自らも刀を鞘に納めた

亡者の中に沈み掛けた男は畳の上で尻もちを付いていた

男は夕凪達に襲い掛かろうと腰を持ち上げた瞬間、背後の何者から頭に水を掛けられる


「諦めの悪いやっちゃな、もうええやろ、ゴン田!外に捨ててきて」

ゴン田は男の抵抗など物ともせずに、ものすごい力で男の襟を引きずりながら玄関へ向かう、その僅かな時間と距離の間に男はみるみるやせ細り全身白髪へと変化している、玄関に着くころにはさっきより半分くらいまで体重が減っていた、ゴン田は玄関から家の外に男を放り投げた

男にはすでに誰かを襲おうなどという気力は無い、立ち上がり歩くのが精いっぱいだ

男はフラフラとどこかに歩いて逃げていった、この量の黄泉の水を掛けられたら回復に30年くらいの時間がかかるだろう、それまでこの男が生きていればだが


いつの間にか夕凪の後についてきていた血まみれの少女の姿は消えていた


「キトさん居たんですか?」

「一応夕凪の守役やからな」

「あ、それよりこの子の手当てをしないと」

夕凪は応急処置だが美央を手当てしている

手の感じと言い、強打された頭からの出血と言いあまりよい状態ではない

夕凪が来なければこの美央は死んでいた可能性が高い


「頭からの出血もひどいですね、救急車を呼びましょうか?」

「あ、ありがとうございます、思ったより頭を強打されたみたいで、まだボーっとしています、貴方たちは一体何者なんですか?」

「あれ、キトさん達が見えるのですか?」

「はい、見えてます」

「あら」

「そうかお主、少し特別かもしれんな、よし、傷はうちが直したろ、ただし、もう後には戻れないと覚悟が必要やけど、ええか?」

「はい、私はいつでも死を覚悟してましたので」

「よし、潔いな」

キトはネバネバした液体を傷口に塗り込む、すると不思議と出血は止まった

「お前名前は?」

「美央、鳴無美央です」

「美央よ、お主は我らと関わってしまった、しかも普通の人とは違う能力の持ち主だ、これから人の中で生活してくのは難しくなるやろう、どうや、夕凪の家で住まんか?」

「え、私ですか?」

「夕凪の家は広いし、1人くらい増えたところで問題なさそうやと思ってな」

「ええ、まあ、そんなものなのかなぁ・・・」

「両親が亡くなってからこの家に引き取られましたが、この家に住む親せきは亡くなった両親が残した遺産が目当てで、両親が住んでいた家も勝手に処分し、後は私の処分を考えているでしょう、そんなただでさえ厄介者の自分がこんなことをしてしまってはもう、ここに住むことはできないでしょう・・・」

「そうでしたか・・・」

「夕凪さん、夕凪さんの家に是非居候させてください、何でもしますよろしくお願いします」

両親のいない美央に少なからず共感した夕凪

「あ、はい、たぶん大丈夫だと思うけど、おばあちゃんにお願いしてみます、」

「ありがとうございます!」


美央は親戚の家を出て、夕凪の家で暮らすこととなる、しかし、美央にはある目的があった、夕凪が笑いながら人を切っている場面が脳裏に入ってきたからだ、それはいつ訪れるのか分からない、ただ自分を助けてくれた恩人がなぜそういう風になるのか見届け、そして可能なら阻止したい、それが例え自分の命を落としたとしても、美央は秘めたる思いと決意で夕凪のそばに付くこととなる

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