第21話 赤く染まる少女
「なになに、第三セクターにより開発された、北江の森で人食いカラスが現れる、そしてそれを従えるなぞの老婆の姿も、この老婆は伝説にある人食いの鬼婆なのかもしれない」
「ご丁寧にぼやけたゴン田の写真まで載っているね、これだと2mくらいあるようにも見えるし、これは怖いわ」
「はい、匿名でサイに投稿し拡散しておきました、老婆と言うのは偽の情報です」
「これでこちらが犯人だと思われる可能性は低いと思います」
「でも、ますますあの森に入る人が居なくなるのでは?」
「はい、向こうにとっても利益となりますので悪い噂話ではないかと思います」
「なるほどね、それにしても老婆か・・・ふふふ、夕凪ちゃんが聞いたら怒りそうな気もしないが」
「一応事情も説明して本人にも納得してもらってますので」
「あ、そうなんだ仕事が速いね」
「はい、光の速度で移動できますので」
「わたしもその体欲しいね、こういう情報ばかり耳にしていると人であることが損に思えてきてならないね」
「ただしい判断かもしれません、人として楽しめない、満たされない欲望、仮にすべてを手に入れたとしてもやがて訪れる死、どちらにしても最終的にはすべてが無となる訳ですから儚いものです」
「それにしてもこういう噂話を作るのも面白いわね」
「楽しいと思えるなら楽しんだ方が人生充実するかもしれませんよ?」
「そうだねー、暇だからなにか考えるとしようか」
「私も助力しますよ」
「ありがとう」
◇・・・・・・・
「回収した3人を例の部屋に運んでおけ」
「はい、畏まりました」
「私の城も計画通り、すべては順調だな?」
「はい、今回の噂の件で森に近づく人が居なくなり、工事が滞りなく行われております」
「いくら死人の剣士と言えど労働者としての記憶も抜けていないのだろう、不眠不休で働けるから効率は良いのだが、血肉に飢えているので注意をしていたのだが、今回の件はこちらにとってもかなりの利益に動いたということか」
「はい」
「それにしてもこのカラスは何なんだ、見たことないが」
「私にも分かりかねます」
「やはりこの国には妖怪なる物が存在するとは聞いていたが、まさか存在しているということなのだろうか・・・まあよい今回は利用させてもらおう」
グリスは部屋を移動する
移動した部屋には夕凪たちが戦った男たち3人が寝ている
「そうか剣が折られたのか、たくさんの血を吸った剣に宿りし亡者の魂も剣が折られると肉体にとどまることはできないか・・・血肉への欲望と同じくらい剣に対する思いも強いという事か」
「とりあずこの3体を起こすとしようか」
グリスは右近慈から切り取った腕を取り出し
たくさんある剣を1本取り出す
「さあ血に誘われし亡者よ剣から出てこい」
右近慈の切り口から血が滴ることはないが切り口は赤い血液のようなもので覆われている
人の血とは別のなにかだ、その何かに誘われるように剣から亡者が出てこようとしていた
「もっとだ、もっと欲せよ」
亡者が半身くらいでたところで、遺体に剣を突き刺す
「今回はその体で満足するがよい」
遺体の手が動き剣を握り引き抜くと受肉した男が起き上がる
他の2体にも同じよなことを行い
「あとは任せた」
と言い残しグリスは後にする
受肉した体は視覚、聴覚、嗅覚など全てにおいて慣らしが必要だ、歩くことができれば街中デビューである、街中で目立ち関係のある人に目撃されれば目的達成だ、いよいよ肉体が現生との別れの時だ、警察へ通報し目立つ形で社会との縁を切らせる、これで居なくなっても刑務所に入っているくらいにしか思わないだろう、社会の腫れ物に対して一般人が騒ぐことはない、その後は労働力として隔離された場所で働いている、しかし、夕凪を襲ったことは想定外だった、それ以降は監視を強めている
・・・・
夕凪はキトの特訓を受けている
「さて今日の訓練やけど」
「取り出したるは特製の水鉄砲に特製のジュース」
特性ジュースの色が赤いので嫌な予感がする
「じゃあこれに着替えてや」
夕凪は真っ白い衣装に着替えさせられた
キトは水鉄砲にジュースを注ぐといきなり夕凪の口元に発射した
夕凪の口周りが真っ赤に染まる
「どうや美味しいやろ」
「あま~い、なんですかこれすっごく美味しい」
「実家の秘伝の特性ジュースやで、ちょっとはやる気でたやろ?」
「うんうん」
「では狙撃手を紹介する、鈍鬼よ、そろそろ姿を見せろ」
「はい、お館様」
近くにあった大きな岩のような物が人型に変わる
鈍鬼には人の視認を変える性質があり、見えている姿が必ずしも真実とは限らない
生来怠け者であり岩や木と見間違うほど自然と同化している、夕凪の目には人型で頭に角ではない何かが生えているように見えた
「こやつらは人の視認を変える性質を持ち、自然に溶け込むことが得意でな、まぁ人に見つからないようにゴロゴロ寝ているだけじゃったのだが、このジュースが大好物でな水鉄砲を与えると仲間たちで面白い遊びをするようになったんや」
「お館様、ありがとうございます」
「ではまずお手本を見せようか、鈍鬼いくぞ」
「はい、お館様」
キトは水鉄砲にジュースを入れ発射する
「パクッゥ」
鈍鬼はそれを口で受け止めた
「お館様、美味しいです」
「えええ、避けるのではなく口で受け止めるんですか」
「簡単やろ、では準備はよいか!」
「は、はい!」
「初め!」
予想どおりではあるが、初めからうまくいく筈はない、夕凪の顔の辺りが真っ赤に染まっていく、しかし、今までの特訓の成果なのか徐々に口の周りで受け止める事が出来てきた
2時間後
「よし、では次の訓練に移ろっか、水鉄砲の軌道がある程度、読めるようになったやろ、次は鈍鬼による奇襲攻撃じゃ、周りの景色に溶け込むのが得意やから油断したらあんかんで」
「あの森の中で10分以内に鈍鬼が隠れるので、10分後、森に入って鈍鬼の攻撃を避けるのじゃ」
「いきなりそんなこと無理です・・・」
「何事もまず体で覚えることが大事なんやで」
「は、はぁ」
夕凪は少し緊張気味で森に足を進める
「あんま緊張したらあかんで、気軽に心を落ち着かせていきや」
当然の結果なのだろうが森の中で鈍鬼の気配を感じるのは容易ではない、白い衣装がジュースで真っ赤に染まっていく
4時間後
「じゃあ、今日はこれくらいで終わろか」
「あーーー、ものすごく疲れました」
夕凪は地面に大の字に寝転がっていた
「なにか掴んだか?」
「何となくですが、周りの木々の場所、常に後方からは障害物が掛かるよう飛んで来る方向を予測できように移動するなど情報が多すぎて大変です」
キトは水鉄砲を持ち、不意に夕凪を撃つ
夕凪は最小限の動きでそれを躱した
「急になにをするんですか!」
「ふむ、では解散としようか」
・・・・
夕凪は薄暗い公園の中ベンチで英二郎と休憩をしていた
「その恰好でここに座るのは誰かに見られるとまずいのではないでしょうか」
「そうですね、一旦着替えないとだめでが少し休憩させてください」
英二郎は写真を撮り、その姿を夕凪に見せる
「ははは、これは自分で見ても怖いですね、まるで人を食べた後みたいに口の周りも真っ赤ですね」
「この公園にはこの位置にトイレがありますので、そちらまで移動しましょう」
英二郎は地図をだす
夕凪は疲れた体を引きずりながらトイレへと歩いていく
誰にも見つからずにトイレに差し掛かろうとしたときに、トイレから女性が出てきた
その瞬間
「あわわ・・・・、キャーーー」
と言いながら女性は走り去ってしまった
「あちゃーこれはやっちゃいましたね」
「もう少しの所で見られてしましたね」
女性が走り去る方向を少し眺めていると、ふと木陰に少女がこちらに指を指している姿が目に入ってきた、その少女は血にまみれている
「疲れていて気が付きませんでいた・・・」
夕凪が振り向くとナイフを持った男が今にも背後から夕凪を襲おうとしていた
夕凪は最小限の動きで気配もなくごくごく当たり前な自然な流れで杖を取り出し、襲ってきた男の力を利用しみぞおちに杖を押し込める
男は痛みでその場に崩れ落ちる
それと同時に、カチーンっと杖でナイフをはじく音が響いた
「あなたは誰なんですか、そのナイフで一体何人の女性を殺したのですか?」
男は痛みでなにも答えることができない
「痛いですか?、そんなあなたでも人の痛みはわかりますか?」
男の額に杖を押し当て顔を上げさせるが
男はよだれを垂らしながら笑っており、言葉が通じる気配がない
「話を聞くだけ無駄なようですね・・・、先ほど逃げた女性が警察に通報したようですね、2分後に警察が到着する予定です」
白い衣装の腰に巻き付けていた紐で男を縛り、”殺人犯です”と地面に落書きをしナイフを横に置き、警察が男を連れていくのを物陰で確認してからその場を後にした
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