第14話 結婚できない女

夕凪は霊界の砂浜でキトの特訓を受けている


「もうキトさん、砂をかけてくるのは卑怯です」


「これは生か死かの戦いなんやで、殺されてしもうたら卑怯も何もない」


「さあ、もう1回や、相手の真正面に立つ出ないぞ、常に動いて動線を悟られるなよ」


「打ってくると相手に思わせて、先に手をださせる、相手は体を切りに来る、こちらは伸びてくる手を切りにいく、力は必要ない、刃先を添えるだけで、相手は自分の力で切れていく、手を切られたことで戦意喪失した隙に相手の喉を一突きし止めを刺す」


「ここまでが人間との戦いやな、亡者相手では通用しないと思え」


「今日、ここへ来たのは別の理由や、海の中をよーく見てみ、なんか居るやろ、あいつと戦ってもらうで」


「手名付けてるさかい、安心しいや」


キトがチリーンと音を立てると水の中から何かが姿を現す

一見するとサルのようだが頭部は鳥のように口ばしまで付いている

奇妙な生き物らしき者は正面が見れないのか顔を左右に振りこちらの様子を伺っている


「これは・・・河童なのでしょうか・・・?」


人の世界での河童は体が緑色で背中に甲羅を背負って、頭の上に皿がある

しかし、目の前の生き物は全身が黒く、一致する点は口が口ばしのようだという点だけだ


「河童か、夜中に遠目で見たら先入観でそう思うかもしれんな」


「さあ、夕凪よ、あやつの名前はゴン田じゃ、見事倒してみろ!」


夕凪は木剣を構える、ゴン田は殺気を感じている

ゴン田は予備動作もなくいきなり飛びかかってきた

夕凪は横に避けるのが精いっぱいだ


相手の背が低いのも戦いにくい要因だ

ゴン田の攻撃は単調だが読みにくい、しかもこちらの攻撃はぎりぎりのところで躱し、間髪いれずに攻撃を仕掛けてくる


「よし休憩にしよっか」


夕凪たちは雪音のいる事務所へと移動した

事務所では雪音が暇そうにネット配信のドラマを見ている


タイトルは「結婚できない女」


「ははは、このドラマ最高に面白いね」


「そのようですね、今一番人気ですから、雪音さんのような女性に人気があるのでしょう」


「英二郎・・・最近、嫌みを言うようになってきたね・・・」


「そうですか?」


雪音は洗面器にお湯を貯めだす


「英二郎、転生してからお風呂に入って無かったよね、今からお風呂に入りましょうか・・・」


雪音の殺気を感じた英二郎


「防水モードに移行します」


「そんなもの関係ないわー」


そこに夕凪とキトが現れる


「雪音さん一体なにやっているのですか?」


「ああ、夕凪ちゃんお帰り、聞いてよ、英二郎がね人の気も知らずに言いたいことずけずけと言ってい来るから、困っちゃって・・・」


「あんたら仲ええな」


すると雪音はキトの後ろに居るゴン田を見つける飛び掛かる

ゴン田は一瞬の出来事に動くことができずに雪音に捕まる


雪音はゴン田をすりすりしながら


「なんですかこの超好みの生き物は、頭がカラスの様で体はサル、こんなかわいいの初めて♡」


夕凪は関心している、あれだけ木剣でかかっていってもすべて躱されたのに雪音には簡単に捕まってしまう


「殺気の問題やな」


「なるほど・・・」


「・・・??」

雪音にはわからない


「それよりこの生き物何を食べるのかな、どういうところが好きなの?キトさん教えて」


1時間がタライの中のお湯に浸かりキュウリを食べるゴン田

ゴン田にお湯をかけ「湯加減どうですか?」と洗面器でお湯をかけている雪音


「やはり結婚できそうにないですね、私のこれまでの観察結果から計算した答えに狂いはなかったようです」


「はいはい、英二郎さんもお風呂に入りましょうね」

英二郎、水に沈む


すると事務所に置いている赤色灯が光りだす


「雪音さん、これはいったい何なんですか」


「ああ、英二郎が監視ているカメラに霊が写った場合、光るようになっていてね、あそこのパソコンに映像が来る仕組みになっているんだよ」


映像を見る夕凪


「ここはホテルですかね、部屋の前に人らしき者が立ってますね?」


「どれどれ、んーそうだね、霊っぽくないけど、なんなんだろう」


男は部屋の前で消え、部屋の前にスーツケースのような物を持って現れたかと思うと急にカメラから姿が消える

数秒の出来事である、あまりにも短すぎて目視では気づかないだろう


「消えましたよね、しかもなにか物を持ってましたよ」


「霊ではありえないことだよね」


「いや、待て、この男の気配、あの時の男と同じ気配やな」


「先日の占いビルでの?」


「そうや、あいつに仲間が居たんやな」


「何者なんですか?」


「あやつらは赤き血の一族と言ってな、人を狩る側の存在として現れた一族なんや、昔はかなり暴れて人を殺しておったんやけど、常に血を求めさ迷ってるさかい、この国では滅多に見いへんと思ったんやけど、此間の奴の仲間の可能性が高いやろ」


「厄介な存在と考えても」


「そうやな、奴ら相手ではどんなに訓練を積んだ人でもまず勝てることはないやろ」


「どうしてですか」


「首を跳ねても死なんからな」


「それって」


「そうや不死に近い、そやから何百年も生きておる、しかも殺した相手の姿に移ることもできるから人間には見分ける事すら無理やろな」


「うーん、気を付けないといけないね、英二郎、発見したら教えてね、極力近づかないようにしないと」


「それにしてもこんなところで何をしていたのでしょうか」


「さあな、おおかた人でも食べてたかもしれへんな、趣味が悪くてかなわんな」


・・・・・


男は左京慈と名乗っている、左京慈はホテルの部屋の前に立つ


「ふん、無駄なことを」


左京慈は扉も開けずに部屋へと入っていく


部屋には男が隠れていることに気づいているがお構いなしに歩いていく


物陰から出てきた男は左京慈の首をめがけてナイフを突き刺す

左京慈は避けることもなくナイフは首に深く刺さる

男はやったかという表情をするが


「お前はまだわかっていないようだな」


男は首からナイフを抜き何度も何度も左京慈を刺す

が、左京慈からは血の一滴すら出ない


「お前を裁定するのは俺ではない、無理やりにでも連れて行くぞ」


左京慈は男の顎を鷲掴みにし男が持ってきたであろうスーツケースへとねじ込み部屋を出る


部屋の外のカメラに気づいていたが気にする様子もない

「ふん・・・」


左京慈が向かった先は、とあるビルの地下室


「グリス、連れてきたぞ」


男の入ったスーツケースを放り投げる

その反動でスーツケースの蓋が開き、男が転がっていく

グリスは転がってきた男を足で踏みつける


「組織の掟を破るとどうなるか分かっているな」


「ゆ、許してくれ、もう2度と裏切ったりはしない、頼む」


そばの男に奥の部屋へ連れていけと命令をする、

男は喚きながら奥の部屋へと連れていかれた


「それにしても人はやはり醜悪だな」


「ところで右京に情けない噂が立っておるようだが知っておるな」


「ああ」


「一族の面汚しとしていづれお仕置きが必要だな」


「それにしても、そ奴ら何者だ、長年この辺りを根城にしているお前たちに心当たりはないのか?」


「聞いたことはないな」


「役に立たないな、それだからお前たちは弱いのだ、もっと外の世界を知るためにここから出ていくことも考えておけ」


「それにしてもこの国の若い女の血を求めてやってきたのに、いつになれば提供してくれるのかな?」


「もう少し待ってくれ、そのうち連れてくる」


「ふん」


グリスは奥の部屋の扉を開ける

扉の間から首の無い男たちが逆さづりなっているのが見える

下には血を貯めるプールが見える

相変わらず悪趣味な奴だ

≪しかし、奴の強さは我々を上回る、かといって奴の言うことを聞くのもしゃくに触る、どうすればよいのやら・・・≫


扉の奥から先ほどの男の断末魔が響いている


左京慈には男の悲鳴など関心はない、むしろグリスをどうしようか考え事をしながらその場から消えた・・・

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