第8話 1日の終わり

意識を失っていた英二郎は再び目を覚ます

夢で見た人物との約束を果たすため


気づけば自分が受けた刀傷以外にも体が損傷しているのが分かった

やはり夢であった人物の言うことは正しいのだろう


「この石はどうやら君が持つものらしい」


そういうと英二郎は石を夕凪に手渡す


「これで私の役目も終わったようだ・・・」


夕凪には未だ理解ができない

しかしながら出会ったばかりの見ず知らずの他人とはいえ

目の前に人が死を迎えることに対して言葉は出ないがジワリと涙がにじみ出る


そして受け取った石は、夕凪の手の上で白く光り出した

光り輝く石を眺めている間に、いつの間にか目の前に3人の人が立っていた


物静かに立つ3人には人の気配を感じない

1人は袴を着ており男性だ、あとの2人は着物を着ており女性だと認識する

3人は面をしており、顔が分からない、すると1人の女性が声を掛けてきた


「お久しぶりです、大きくなりましたね」


今までその声を忘れていた、いや余りにもその時は自分が小さすぎて記憶から失われつつあった

声を聞いた瞬間、あの時の記憶が蘇る


「もしや、あの時のお姉さん」


出会った時は大きく感じたが今は自分と同じくらいだ

不思議なのは出会った時と変わらないと言うことだ

人の気配の感じない目の前の少女は面を取りやさしく声を掛けてきた


「セツと申します、もう安心してください、ここから出ましょうね」


「ハク、後は頼みましたよ」


「了解です、姉上」


そういうとハクと呼ばれた男は扇子と何かを取り出し舞うように仰ぎだした

すると、今まで赤い空に枯れた草木の生える世界が、一変し生命力の溢れる世界へと変貌する


今まで腐肉をまき散らしながら襲ってきていた亡者たちは草木に吸収されその力を奪われていく


赤い鎧を着た鎧武者は草に絡まれ身動き出来ないでいる


ハクは鎧武者に近寄り、それはまるで自然の流れのように簡単に刀を奪った

刀を奪われた鎧武者はその場で姿を消した


ハクはアルファに声を掛ける


「人間よ、今回は特別だぞ」


「キト、けが人の様子をみてやれ」

ハクはもう一人の面を付けた小さな女性に声を掛ける


「はい、はーい、お兄様」


アルファの緊張はまだ解けなかった、目の前にまだあの男がいるからだ

しかし、男はこちらを襲ってくる気配はない、むしろ少し怯えているようにも見える


「まだ・・・あそこに化け物が残っている」


「気にせんでええねんで、それよりあんたのお腹貫通してて痛そうやな」


「こっちの寝てる兄さんはすでに意識はないけど、まだ時ではないから大丈夫みたいやな」


「2人とも助かるで、とりあえずそれ以上、血が出んようにしといたるさいかい安心しいや」


キトは2人の手当てを始める


男は自分の作り出した世界が簡単に崩壊したことに唇を噛みしめ出血している

700年生きてきて同族に悔しい思いをさせられたことは合ったが、ここまで圧倒されたのは初めてだ

3人とも自分より圧倒的な強者だ

ナイフで刺されようが銃で撃たれようが死ぬことのない体

この体になってから恐怖など感じたとこがなかった、忘れていた感情


死だ


この3人の前では死を感じるというのか・・・

足が竦んでしまい思うように動かない


キトは男に声を掛ける


「戦意の失った者に用はない、この場から立ち去るがよい」


「逃がしてくれるというのでしょうか?」


ハクはいつの間にか男の背後に立ち

「ああ、そうだ、ただしこの者たちには2度とかかわるな、次は無いぞ」


男は反応できない

ハクは男の肩を叩いた瞬間、男は元のビルの地下3階へと戻された


目の前には男の執事らしき人物が立つ


「旦那様、うまくいきましたでしょうか?」


「このビルから撤退だ、それと侵入してきた者達と少女達の顔を覚えておくのだ、そして2度とかかわらないようにしろ、よいな」


男はそう執事に言うとその場を去っていく


「だ、旦那様、お待ちを・・・」


夕凪達の危機はこれで去った


しかし、英二郎はもう戻っては来ない


「英二郎さん・・・守れなくて、すまない・・・」


セツが声をかける

「いや、この者はすでに20年前に死んでおります、そして夕凪さん、あなたに石を渡したことでその役目を終えただけのことです」


「そして魂の失った肉体は人の世界へは運べばすぐに崩壊するでしょう、しかし、あのお方の約束を守られたことで魂は人間界へ留まることが許されました、いずれ分かるでしょう」


その場にいる全員が今までの出来事からすべてを理解することは難しいのかもしれない


「では、英二郎さんの体は・・・」


「元の世界へ戻せば瞬時に消えてなくなります、しかし、この場に残しておけばいずれここの草木と同化していくでしょう」


ここにいる皆一応に英二郎を残すことに同意する


セツは怪我人を見ながら

「では皆さんを元の場所へとお届けします」


「血は止めたけど、一刻も早く病院へ行った方がいいよー」


ハクとセツは何も言わずに見送る

キトは「夕凪ちゃん、まったねー」と無邪気に声を掛けてくれた


夕凪達はデルタ達の待つ車へを送られた

そこには夕凪の友達2人も一緒に待機してくれていた

デルタはアルファとベータを連れてすぐさま病院へと車を走らせる


車を見送った後、1人の女性が声を掛けてきた


「君が夕凪さんだね、私は英二郎さんの同僚で雪音と言います、後日落ち着いたら英二郎さんの事で少しお話したいことがあるの、連絡先を教えてくれるかな」


連絡先を交換し雪音さんとはその場で別れた

私たちはガンマさんが念のためと駅まで送り届けてくれた


長かった1日が終わりを告げる

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