第158話 ファッションヤンキー、妹分を祝う

「あびゃああああああああああああああああああ!!!」

「ハッハッハッ!!」


 今現在、私とリアンはリアンのヤンキー就任祝いの真っただ中!え?祝いなのになんでリアンが界隈から需要有りそうな悲鳴を上げているのかだって?そりゃ勿論――犀繰に2人乗りで爆走しているからだが?

 いやぁ、最初はどこか適当な場所でご飯とか思ったんだよ?でも途中から違うなと。もっとヤンキーらしいお祝い方法があるのではないかと思ったんだよ。で、私はその方法を思いついて……今に至るという訳。にしてもそんなにビックリするほどかね?


『姉貴、この世界の住人でこのスピードに慣れているものは滅多にいないようだ』

「そうなんか」


 犀繰に言われたことで思い出す。そう言えば、フェリーンも犀繰に乗って一時避難した時に気絶していたね。まぁ、馬とかに比べたら速いかもしれないけど。でも私の中でヤンキーはバイクに乗るのはほぼほぼ必須だからリアンには是非とも慣れてもらわなきゃ困る。

 という訳でございまして


「犀繰、トレトゥスまでトップスピードな。轢き逃げには気を付けぇよ?」

『了解だ』

「びぃえええええええええええええええ!!!」


 これ、リアンが慣れるのが先か、私の耳がぶっ壊れるのが先か……盤外の戦いが始まったな?



 無事トレトゥスに到着することが出来た。トラブルは……まぁ、うん。なかったと言えば嘘になるけど……リアングロッキーのために一時停止。そんな私たちに話しかけようとしたプレイヤーが私の顔を見るや否や、回れ右して去っていったのはトラブルにはならないよね?これに関しては私、ただ視線をそのプレイヤーに移しただけだから。睨んですらいないから。

 そして、肝心なリアンはと言うと――


「慣れたっス!!」

「慣れるんかい」

『シートに吐かないでくれて助かった』


 ポートガス街道ではギャースカうるさかったリアンも、ドヴァータウンからトレトゥスへ続く道辺りでだいぶ慣れてきたようで、普通にドライブを楽しみ、犀繰とも仲良くなっていた。犀繰も犀繰で、私に付き従う?妹分が出来て満更でもないようだった。


「アネキいいっスねぇ……自分も犀繰アニキみたいなゴーレム欲しいっス」


 犀繰はアニキなんだね。ゴーレムに雄雌があるのかは分からないけど、そのどちらかと言うと犀繰は間違いなく雄側だろう、人型の時も男っぽいし。いや、私という前例がいるからやっぱり雌か?いやでも、犀繰はアニキと言われて否定してないからやっぱり雄か。ってそれよりも犀繰みたいなゴーレムが欲しいというのなら確認しなきゃいけないことがある。


「リアン、犀繰並みのゴーレムとなればゴーレムの金核以上いるんじゃけど、お前持っとるん?」

「き、金核?貴族でもめったに手に入らない代物じゃないっスか!アネキ一体いくらつぎ込んだんスか!」

「いや、俺はドロップアイテムで入手したけぇ、金はかかっとらん」

「それ、凄い豪運っスね……流石アネキっス」


 まぁ運は良かったんじゃないかなぁ。

 さて、それじゃリアンとはここいらで……


「じゃあリアン、頑張れよ」

「うっス!じゃないスよ!?あれ!?自分連れてってくれるんじゃないスか?」


 茫然とするリアンの前を通り過ぎ、トレトゥスに入ろうとしたところ、予想はしてたけどリアンが会った時みたいに足にしがみ付いて来た。ただ、当時に比べて私の足に掛かる力は強くなっているのがよく分かる。うん、強くなっているね。


「そんな約束しとらんが」

「ヴぇっ!?……確かにしてないっスけど!舎弟ってアネキと一緒に行動するもんっスよね!?」

「そうかもしれんけどなぁ」


 私は頬を掻き、天を見上げる。いや、確かにリアンの言うことはもっともだけども、私は一匹狼キャラでいたいからなぁ……別にリアンが嫌いではないから罪悪感がないわけでも無い。ただ、私のプレイスタイルを変えるつもりは殊更ない。……仕方ない。リアンには酷だが、用意していた言葉を使うしかない。

 足にしがみ付き、離れようとしないリアンを掴み上げ、立たせる。おいおい、泣くんじゃないよヤンキーでしょ君。


「リアン、お前は確かにヤンキーになった」

「うっス!」

「でもまだ弱い。分かるか?」

「っス」

「俺はこのまま強い奴と拳を交えていく。お前、死なずについてこれるんか?あのコング・コング・コングより強い奴と俺はなんぼもヤリあってきたんじゃ。それとも、お前の目指すヤンキーはアネキに守ってもらうんか?」

「違うっス!」

「じゃろうが。だからリアン、強ぉなれ。俺と殴り合えるくらいにのぉ」

「ハードル高くないっスか!?」


 うん、私も少し思ったけどそこはツッコまないで聞いて欲しかったな私。でも、それくらい強くなってもらわなきゃ足手まといなのは間違いない。

 流石に舎弟連れまわして誤って死なせてしまうとなると、ね。そんなことしちゃったら私このゲーム少しの間離れちゃうかもしれないし。だからせめて、無理やり付いてくるとしても安心できるくらいまで強くなって欲しい。

 私は片手でリアンの頭を軽く掴み、髪が乱れる程わしゃわしゃする。リアンは、瞳に浮かべた涙を袖で乱暴に拭い去ると私の目を真っ直ぐ見た。


「分かったっス。自分、強くなって姉貴の後ろに立てるようなヤンキーになるっス!」

「おう、やってみぃ」

「アネキ、最後にお願いがあるっス!アネキのその"眼"で、自分を睨んで欲しいっス!」

「おう」

「多分、自分は耐えれないっス。でもアネキは気にせず振り返らずに行って欲しいっス……お願いします!」


 私は黙って頷き、要求通りに暴龍眼を発動させる。確か、暴龍眼のテキストにはこう書いてあったはずだ。


――心の弱きものは彼の者の目を覗くことなかれ。金の威が心を吞み込まんとするだろう。――


 ……待ってリアンこれ大丈夫なの?至近距離だよ?思いっきり私の目覗ける距離だよ?だけど今更やめることは出来ない。数秒、私とリアンの視線が交差し……リアンの膝が崩れた。

 一瞬助け起こそうとした自分を恥じた。リアンは間違いなくそんなことは望んでいない。私は無理やり口を閉じ、何も言わずトレトゥスの門へ向かって歩き出す。一切リアンの方を向かずに。

 少しだけもやっとした別れにテンションが下がる私の耳に小さく本当に聞き逃しそうなほど小さな声が聞こえた。


「へ、ヘヘ……やっぱりアネキは凄いっスね」


 リアンの声だ。

 暴龍眼を見たものは、恐怖する。あの暴走状態であったダリグリカでさえ怯ませるほどだ。それを受けてなおリアンは笑っていた。出会った時やゴブリンと対峙した時の頼りない姿と比べて間違いなく強くなった証拠だ。

 あはは、これはこれは


「俺も気張らにゃすぐに追いつかれるかもしれんのぉ」

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