第145話 ファッションヤンキー、報酬を受け取り

 犀繰のシートの上で気絶していたフェリーンは程なくして意識を取り戻した。不幸中の幸いというべきか、吐いてはいなかった。お年頃の女の子の尊厳と犀繰のシートは守られたのであった。まぁ気絶して痙攣してる時点で恥ずかしさを覚えるには十分だろう。実際、目を覚ましたフェリーンは耳まで赤く染め俯いている。

 やっばい、これどう話しかけたものか……どうフォローするか悩んだところでシャドルからの助け船。


「オウカー、この子誰?」

「おぉ、フェリーンって言ってのぉ。お前が会ったコーネストって爺さんが攫われたって言っとった譲さんじゃ」

「攫……われ?」


 聞き覚えが無いと言わんばかりに首を傾げるシャドル。こいつ、まさかあんまり話聞かずに来たな?そのおかげで助かっているから感謝すべきなんだろうけども。

 そこで、フェリーンもシャドルの存在に気付いたのか、未だ朱が残る顔を上げてシャドルを見る。一瞬、警戒するように目を細めたが、ポケ―っとしたシャドルの顔を見てすぐに警戒を緩めた。


「龍の眼を持つ御方、こちらの方は?」

「名前いっとらんかったのぉ。俺はオウカでこいつはシャドル。ダチじゃ」

「よろしくぅ!」

「は、はぁ。宜しくお願い致します」


 迫るような挨拶に面を喰らったフェリーンだが、何とか挨拶を返すことは出来た。

 シャドルにはダリグリカ討伐の手伝いをしてもらい、彼女のお陰で勝つことが出来たことを伝えると散らばったダリグリカの素材を一瞥するとシャドルに対して深く頭を下げ感謝の意を述べ、シャドルはこれを「別にオウカを助けただけだしー」と笑って流した。


『姉貴、こちらに向かってくるものが見える。姉貴に依頼をしたヒューマだ』

「おー、コーネストの爺さん等こっちに来たんか」


 見ると、確かに少し離れた場所から集団がこちらに向かって歩いてくるのが見える。私の目ではそれが限界なんだけど、犀繰がそう言うならコーネスト達で間違いないんだろう。ただ、乗り物もなく本当に歩きなので時間はかかる。なので、彼らがこっちに到着するまでの間、ドロップアイテムの分配を決めることに。


「ええんか?助けてもらった身じゃけぇ別にお前が取り分多くてもいいんじゃけど」

「珍しいボスと戦えただけ私としてはOKだよ?」


 勿論それだと私の気が収まらないので6:4、私が6でシャドルが4でケリがついた。一緒にドロップアイテムを見ていたフェリーンが時たま何か言いたそうにしていたが、何だったんだろう。別に欲しいという訳でもないみたいだったけど。

 おっと、分配が終わったところで丁度コーネスト達が到着したみたいだね。


「フェリーン様!!ご無事で何よりでございます!!」

「あぁ、コーネスト、クライシー、タンリオン、ベネデット、ジスレニス。あなた達も無事でよかったです。」


 コーネスト以下フェリーンの護衛たち、着くなり即臣下の礼を取り、フェリーンもそれに応え微笑みを浮かべ護衛達を労った。

 その一連の流れで彼女が並々ならぬ存在であることがよく分かる。本当に何者なんだろうと思ったところで、コーネストが立ち上がると私たちに向き直り、深く頭を下げた。


「渡界者の御二方。よくぞ、フェリーン様を救ってくれた。この御恩は忘れぬ」

「おう、誘拐犯らはそこらに転がしとるけぇ好きにしてくれや。それこそ煮るなり焼くなりのぉ」


 実はダリグリカになったドラゴニュート以外の誘拐犯達も生きてたんだよね。気絶させて放置していたけど、運がいいのか悪いのか、あの激戦の中生きていた。戦いが始まった時点で生存は諦めていたからまぁ良かった。精々雇い主を見つけるために利用してくれればいい。


「うむ、奴らには聞きたいことがある。身元は預かるとしよう。――それで報酬なのだが……おい、彼らにあれを」


 コーネストが後ろの護衛達に声を掛けると2人の護衛がそれぞれ私とシャドルにずっしりとした重さの袋を丁寧に渡してくれた。中身を確認すると大量の金貨。シャドルの物も同じものだろうけどこんな大金すっと渡せるとは……まぁすぐに所持金に吸収されるから重さを味わうのは一瞬なんだけどね。


「おう、確かに受け取ったわ。で、この後は大丈夫なんか?」

「……実のところ不安はある。故に、頼みがある。我らはこれよりトレトゥスに向かう所だったのだ。道中護衛を頼めないだろうか。無論、何事もなくとも報酬は払おう。」

「ふむ。どうせ俺はトレトゥスに行く予定じゃったけぇ構わんわ。シャドルはどうする?」

「ちょい待って!」


 そう言うとシャドルはウィンドウを開き何やら操作し始める。待つこと数分。シャドルも護衛クエストに参加することになった。操作していたのは、いつものパーティメンバーに緊急の用事がないか確認したらしい。私達2人の了承を得たコーネストは安心したように息を吐いた。


「感謝する。こちらも腕に自信がないわけではないのだが、やはり先の襲撃もある故な。」

「オウカ様、シャドル様ありがとうございます。――そうでした。私の自己紹介がまだでしたね。」

「っ!フェリーン様、それは……」


 おん?自己紹介しようとしたフェリーンをコーネストが止めた?しかし、止められたフェリーンは頭を振りコーネストより一歩歩み出ると、微笑み頭を下げ告げた。


「私の名は、フェイルリーン・ハウトゥーグム。黄金龍様に仕えし姫巫女です」


 何かまた爆弾放り込まれた気がするんですがそれは

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