第66話 ファッションヤンキー、付けてもらう
言いがかり事件の翌日、私は何の躊躇もなくAFWにログインした。いや、あの程度の出来事でログインするのを躊躇するほど私のメンタルは弱くないよ。二度とあんな絡みはごめんだけど、これからもあるんだろうなぁ。ま、いいか。別に悪い事してなきゃいいんだし。
さてと、何をしようか……ん?前方に見える現代チックなエルフは、竹輪天さんだ。お、向こうも気付いた。
「久しぶりじゃのぉ。」
「あぁ、久しぶり。服の調子はどうだ?」
「色々助けられとるわ。」
これはお世辞抜きでね。服に内包してあるスキル、存在強調や踏ん張り所もさることながらその見た目のインパクトとか私のプレイにとても貢献してくれている。今のところ過剰にダメージを食らうなんてことは無いし、まだまだ現役だろう。
っとそうだ。
「そういえば竹輪天さんに頼みがあってのぉ。」
「服に関してか?」
「そうそう、これなんじゃけど、背中の所に付けられん?」
そう言って私が竹輪天さんに渡したのは、プレゼントボックスで手に入れた最初のアイテムの黄金龍のワッペンだ。
ワッペンを受け取った竹輪天さんは興味深そうに眺め、考えるように顎に手を当てる。待つこと数十秒
「可能だろう。ワッペンを付けるだけならそう時間もかからない。ほら、学ランを貸してみろ。」
私、裁縫はしないんだけど本当にそんなに時間かからないものなんだろうか。まぁ、竹輪天さんがそう言うならそうなんだろう。言われた通りに学ランを渡すと――
うん?今なんか竹輪天さんの手がぶれた様な?あれ?
「ほら、出来たぞ。」
「お、おう有難う。」
そんな声と共に差し出されたのは、それはもう綺麗にワッペンが縫い留められた学ラン。いや、早すぎでは?ゲーム補正なのかな……?うん?待って、ワッペンこんなに大きかったっけ?手のひらに収まるほどだったはずなのに背中の部分にでかでかと存在している。
ワッペンの巨大化に首を傾げた私に気付いたのか、竹輪天さんは「あぁ」と声を漏らした。
「俺のスキルで服のデザインを拡大縮小引き延ばしとか、好きにいじることが出来るんだ。やはり不良というには龍もでかくなければと思ったんだが……不味かったか?」
「いや、ビックリしただけで大きくなったのは滅茶苦茶嬉しい。」
「そうか、ならよかった。」
そんなスキルがあるのか……あまり戦闘に役立ちそうにないスキルとは思っちゃダメだよね。その人にとってのプレイスタイルがあるんだし。そもそも私にブーメラン刺さるし。
ところで黄金龍のワッペンが付けられたことで学ランのステータス向上とかしてないのかな?ちょっと期待しちゃう。
漢の学ラン+黄金龍のワッペン
テッシカイコと呼ばれる魔物が吐く鉄同様の強度を持つ糸から編み出された黒い学ラン。背中には黄金の桜の花びらと黄金龍が刺繍されており、互いを引き立てている。見る人によっては感動を覚え、また見る人によっては畏怖を覚えるだろう。漢の~と書いてあるが、女性も装備可能。使用者・装備が整うことで更なる力を発揮する。
HP+10 DEF+6 衝撃耐性
あ、はい。フレーバーテキストが少し変更になったくらいでそれ以上何かが変わったわけではなさそうね。そもそも黄金龍のワッペンがフレーバーテキストだけだったからね、仕方ないか。格好いいならそれでよし!
ちなみに縫い付け代は100Gでいいと言ってくれた。ありがてぇ……!
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その後も私と竹輪天さんは何気なしに世間話を繰り広げていた。
前回聞いてなかったが、竹輪天さんの職業は裁縫師らしい。それ、モンスターとかどう倒すのって聞いたら普通にナイフ装備してるんだってさ。まさかそれで糸斬ったりはしないよね?しないんだよね?
なんて話をしているとふとある事に気付いた。
「のぉ、竹輪天さん。何か、騒がしくないかのぉ?」
「ふむ、そうだな。それも……プレイヤーではなく、住人が慌てふためいているという感じか?」
その言葉通り、どこかせわしないのは住人たちだ。プレイヤーはむしろ、バタバタとしている住人を茫然と眺めている。今まではこんなことは無かったと思うんだけれど……?
不思議に思っていると急にけたたましくサイレンのような音が鳴り響き、続けざまにウィンドウがプレイヤーの目の前に表示された。
"ワールドクエスト発生!ワールドクエスト発生!ポートガス街道の外れにて大量のモンスターが進軍しているのを1人の渡界者が発見。以上の報告を受け取った冒険者ギルドは件の軍勢を確認。軍勢はウーノとドヴァータウンに向かっていると考えられる。このままだと双方の街は魔物に蹂躙されてしまう。渡界者は是非ともモンスターを止めるため、協力してほしい。(なおこのクエストは参加しないこともできます。)"
何か始まったんですけど!?
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