「どらぁ！」

「ウホァ！」

　まずはお互い挨拶代わりに拳を叩き込む。しかし、攻撃が届いたのは同時ではなく――僅かにコング・コング・コングの方が早かった。奴の拳が私の腹に直撃した瞬間、私の拳が奴の顔面を捉えた。

　結果として、私はダメージをこそ負ったが、前回よりも低いダメージ且、"踏ん張り所"で後退することなくその場で耐えきった。その代わりコング・コング・コングは後方へ大きく吹っ飛ばされ、木へと激突した。

　これには攻撃を仕掛けた私もビックリだ。私の頭の中ではお互いの一撃で少しずつ後退してお互いニヒルな顔で「へっ、やるじゃねぇか」的な感じで笑みを交わす展開だと思ったんだけど……ゴリラそんな余裕無さそう。

「えーっと、そのなんじゃあ……こいやぁ！」

「ウホオオオオオオオオ！！」

　吹っ飛ばされたコング・コング・コングは力強くドラミングするとナックルウォーキングで私に迫る。

　ふむ、相手が突進ということならばこちらも突進で返さねばなるまいよ。という訳で私も奴に合わせて猪突を発動。幸い、戦っているこの場所は開けているので曲がることのできない猪突でも、コング・コング・コングにぶつかるぐらいは問題ない。――ただまぁ、そのまま体の正面からぶつかるのではなく、ショルダータックルの構えになっているんだけど。この方が効きそうだし。

　コング・コング・コングの突進と私の猪突。体格で言えばコング・コング・コングの方が上。だが、先程の殴り合いからして単純な力では今や私もゴリラに迫るほどだろう。――待って私これ下手したらゴリラ女とか呼ばれそうなんだけど。そんなのやだよ、ヤンキーって呼ばれたい。――そんな私の肩とコング・コング・コングの拳がぶつかり合う。強い衝撃こそ走ったが、耐えられないほどではない。私は強く地面を踏みしめ私の顔よりも大きいゴリラの拳を受け止める。対するコング・コング・コングも苦悶な表情を浮かべつつも拳に力を籠め、振りぬこうとしている。

「オッラァ！」

「ウホォァ！」

　掛け声とともに、お互い力を籠め相手の力を上回ろうとした瞬間、私の肩が、相手の拳が互いの後方に弾かれた。私も奴も、突然のことにバランスを崩しかけるが、すんでのところで私は持ち直す。コング・コング・コングはというと、視線こそ私に向いているが、バランスが取れないようで腕をバタバタと振るわせ慌てている。

　当然、こんなチャンスを見逃すわけがない。思えば、コング・コング・コングと遭遇してから殴ってショルダータックルで、未だ不動噛行で攻撃仕掛けてなかったよね？と、いう訳なので……

「しっかり味わえよぉ！？」

　渾身の力を込め、バットを振るように不動噛行を奴のどてっぱらに叩き込む。そしてそのまま、振りぬく！手ごたえ十分、ホームランですよこれは！

　かくして巨大ボールと化したコング・コング・コングは水平に吹っ飛び、再度木に激突……いや、木折れた！？そして地面と水平ならホームランじゃなくてライナーじゃんこれ。

　大ダメージ当てられればいいなとは思っていたけれど、よもやあんなに飛ぶとは思わなんだ。しかもあんな巨体にフルスイングしたっていうのに不動噛行は傷1つないんだけど、どんな強度してるのさ。

　さて、コング・コング・コングはどうなったかな？いいダメージは入ったと思うのだけれど……うん？何かアイツピリッとしてない？

「ウボ、ウボボ、ウボボボアアアアアアアアア！！！」

　咆哮と共にコング・コング・コングが起き上がる。次に奴が取った行動はドラミング。厚い胸板を力強く叩き、雷が落ちたような強烈な音を鳴り響かせる。そしてその雷のような音は比喩ではなくなり――コング・コング・コングは、その身に電気を帯び始めた。

　間違いない、あれは前回戦った時も見た所謂発狂モード！……待って？早くない？言うて攻撃当たったのって2発よ？そんなに攻撃力あがってたの私？もしかしてこれ、あっさり終わっちゃうのでは？

　ともかく、あの状態のゴリラの電撃攻撃は恐ろしい。何せあれを食らってしまえば麻痺耐性のない私は痺れてしまい動けなくなるからね。出来れば食らいたくない。かと言って回避する力があるわけではない。ならばならばよ。

「ウボッホオオオオオオオオオ！！！」

「こっち見ろやゴリラぁ！」

「ボッ！？」

　奴が電気を纏った拳を地面に叩きつける瞬間、大声を出し、震脚を用い大きな音を出して奴の視線をこちらに向ける。狙い通り奴は驚いてこっちを見てくれた。そう、私の目を見たのだ。

　こうなってしまえば話は早い。私はすかさず、有用なスキルのはずなのに割と使うのを忘れる私の代名詞ともいえる"威圧眼"を発動させる。このスキルは、私と同等かそれ以下でなければ通ることの無いスキルだが、ゴリラは……よし、拳が地面に届く直前で目を見開いて私を注視して固まってる。チャンスだ！

「デッドボール喰らえや！」

　威圧眼の拘束時間は長くない。しかしとしてただ走っただけでは辿り着く前に奴の拘束が解け電撃を喰らわされることだろう。であれば、その前に奴を怯ませるということで、以前手に入れた堅泥団子を大きく振りかぶって、投げつける！と同時に走り出す！堅泥団子はゴリラの顔面にクリティカルヒット。いい子は絶対に敵対する者以外に顔面に故意的にボールを投げつけないようにね！

　堅泥団子の直撃を受けたコング・コング・コングは顔を抑えて悶絶する。そりゃそうだ、顔面のそれも目付近に当たったんだもん。悶絶しなかったらやばいよ。そしてそんな姿をさらしているということは、もう攻撃してくれと言っているようなものなので……無慈悲なのか、はたまた苦しみから解放してあげるという意味では慈悲的なのか分からないけど私はコング・コング・コングの頭部に不動噛行を振り下ろす。

　コング・コング・コングは――体力が0となり消滅した。

"ワンズフォレストのBOSS　コング・コング・コング　を討伐いたしました。"

"ボスを討伐いたしましたので10分間、半径20メートル間にモンスターは発生いたしません。"

　何というか……随分あっさり倒せるようになってしまったなぁ……あんだけ苦戦して3回目の挑戦で漸く倒せたコング・コング・コングが、計4回の攻撃で倒せたなんてちょっと物悲しい。まぁ強くなっているのは事実だからそこは嬉しいんだけどね。

　さってと、一応戦利品も確認しておかなくちゃねー。あー、コング・コング・コングってプレゼントボックス持ってることってあるのかな？今回のは持ってなかったけど、もしかしたら持ってることがあったりしてね？えっと……うん？

コング・コンガ・サンダ

コング・コング・コングが自ら手掛けた魂の逸品。コング・コンガは何かが足りない。そう直感したコング・コング・コングは一つの答えにたどり着いた。それは腹の底にグンッと来るような重みのある音だ。そんな音を実現させるためにはとコング・コング・コングは己の体をいじめ抜いた。いじめていじめて――そうして体力が低下した時、コング・コング・コングの雷獣モードが発動した。コング・コング・コングはこの瞬間を待っていたのだ。雷獣モードでコング・コンガを一から制作し――そうして出来上がったのがコング・コンガ・サンダだ。そのコンガの音は雷のように大気を揺らし、聞いた者の心すら揺らすだろう……あと内臓も。

「……何かよく分からんものが強化されとるんじゃけど。」

　とりあえず叩いてみよう。

　ドォォォオォォオォォォン！！！！

　うん、少なくともこれは演奏では使えないでしょ。