第56話 ファッションヤンキー、2本目の木刀を得る

 じゃあ私はこれで……と踵を返したところで学ランをグイっと引っ張られた。振り返ると、引っ張った犯人であるパックンさんは「何やってんだこいつ」みたいな目で見てくる。

 何故引き留めるのか疑問に思ったけど、そういや武器って割とすぐにできるんだった。なら、ここで別れて出来るの待ってから会うよりかは、一緒に生産ギルドに行ってその場で見せてもらった方が早いと言うものだね。ここは素直に謝って生産ギルドに向かうとしましょう。


「パックンは今回のイベント、箱開けたん?」

「えぇ、もう3個開けたわ。」


 鍛冶ギルドへの道を進みがてら、パックンさんと世間話をしていたのだが、まさかのイベントのプレゼントボックス全開封済み。

 うそん、私まだ1つしか開けてないのに……!?いや、私が遅いのか!?


「ウーノの街に落ちてたのを開けたんか?」

「2個まではね。あとの1つはちょっと頑張ったわ。」

「ふーん、中身は何だったん?」

「鉄の火斧にティーセットに初級ポーション。」


 何その組み合わせ!?鉄の火斧と初級ポーションは分かるけど、ティーセットって何さ。あれだよね、言ってしまえば洋風の急須とカップ!私の龍のワッペンもあれだけどパックンさんのも相当だね?

 見てみる?とパックンさんに渡されたティーセット……のうちのティーポットは本当に紅茶を入れる以外何の用途も無さそうなティーポットでした。でもこれ、パックンさん的には結構嬉しかったらしい。


「現実世界ではこーんな高そうなティーセットなんて手が出せないからねー。ふふ、使用後の手入れも必要ないし。」

「正直意外じゃのお、パックンは水がぶがぶ飲むタイプかと。」


 職業的な意味で、鍛冶作業した後に汗ダラダラの状態でキンッキンに冷えた水を呷る様が目に浮かぶんだけどな……腰に手を当ててさながら風呂上がりのおっさんのように。


「馬鹿、こちとら花も恥じらう乙女……ごめん、今の無しね。私だって紅茶くらい飲むわよ。アンタは飲まないの?」

「俺はもっぱら緑茶派じゃのお。」

「フフッ、あんたはそれっぽいわね。」


 ヤンキーに緑茶要素があるのかちょっと疑問だったけど、少なくともヤンキーファッションでティーカップに入ったお紅茶を飲むのは似合わないね。百歩譲ってペットボトルのゴゴティー位だね。

 


 そんな他愛のない話をしていると、いつの間にか生産ギルドに到着。中に入るや否やパックンさんは作業場へと駆けこんでいった。

 さて、こうなってしまうと私は少しの間暇な訳で。椅子に座ってボーッとしていた時、あるものに気付いた。鍛冶ギルドの一角、本当に角っこの所に鍛冶屋の雰囲気にはそぐわない箱、プレゼントボックスがちょこんと置かれている?

 私だけに見えているわけではないよね?私以外にもプレゼントボックスに視線が向いている人はいる。いるが、すぐに目を逸らしている。まぁ誰でも入れて何の苦労もなく手に入る場所にあるものだから外れだと思って避けるのも仕方のないことだよね。

 だから少し惹かれた。あまりにも触れられない、無視され続けても背景になりかけているそのプレゼントボックスに。私は近づき……躊躇うことなくそのプレゼントボックスを持ち上げた。ただ、それだけなのに周囲がざわつき始めた。


「マジか!あのプレゼントボックスならぬ生産ギルドのパンドラボックスを開けようとするやつが――!?」

「あれは噂のヤンキー!?あいつ、さっきパックンちゃんさんと一緒に入ってきたよな?」

「言うて外れでしょ?」

「分からんぞー?超レアアイテムだったら俺たちは大損していたということになる。」

「そしてその後に絶対『取っとけばよかったー!』って後悔するんですね分かりますん。」


"このプレゼントボックスを取得しますか? 注意!取得した後プレゼントボックスを捨てることは出来ますが、取得した数は減りませんので注意してください!"


 私の腕の中のプレゼントボックスに注目が集まるのが分かる。このまま降ろしたらどうなるかな?なんて考えもしたけどここまでギャラリーをその気にさせておいてその仕打ちはあまりにもなので、即開封!


「「「「「あああああああああああ!!!??」」」」」


 いや、そんなに叫ばなくても……お?金色の、光?これは、大当たりの予感……!?

 箱の中に手を突っ込み中身を取り出す。その中身は――1枚のチケットだった。


"スキルチケット 猪突 を入手しました。"


 お、おお?スキルチケット?聞いたことは無いけどこれを使用したらスキルを習得できるとかそう言うの?

 演出もさることながら結構いいアイテムなのではないだろうか。ほら、それを裏付けるように


「はぁ!?あれスキルチケットじゃん!」

「うっそだろ何であんな所にあるんだよ!コング・コング・コングが持ってるプレゼントボックスにあるんじゃねぇのかよ!」

「取っとけばよかったー!……ハッ!」

「おーいオウカー出来たわよーって何よこの騒ぎ。」


 周りからは阿鼻叫喚の叫び声。ふっふっふ、やはりこれはレアアイテムだったみたいだね。スルーし続けた己を恨むがいいさ。

 っと、聞こえ辛かったけどパックンさんも戻ってきたみたいだ。


「ちょっとそこのプレゼントボックス開けたんよ。」

「えっ、あのプレゼントボックス開けたの?中身は何だったのよ?」


 彼女もこの生産ギルドをよく利用するからあのプレゼントボックスの事は当たり前だが気付いていた。利用するたび視界に入るからいろいろ気になっていたらしい。中身がスキルチケットだったと伝えると驚いていた。


「アンタ、中々いい運してるわねぇ……まぁいいわ。ほら、木刀よ?」


 そう言って渡された木刀は、うん、ちゃんと真っ黒だ!漆黒の木材での製造に成功してくれたみたいだね。

 今まで持っていたトレントの木刀よりも少し長めの木刀はすでに持ち手の所に"桜花"と銘が刻まれていた。んふー、格好いいなぁ!

 えーっと武器名はっと


――ブトーレン刀――


「名前ダッサいのぉ!」

「よね!そうよね!?流石にアンタもダサいと思うわよね!?でも安心して!私の鍛冶スキルで"名称変更"ってのを最近習得したから変えられるわよ!」

「よ、良かった……」


 トレントの木刀はまだトレントって名前があっさりしてたからスラっと言えるし違和感もなかったけどブトーレン刀はちょっと……!はずい!

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