第55話 ファッションヤンキー、ロリドワーフの所へ

「情報屋、フィギュアいる?」

「いらない。リンゴだけで十分。」


 さいですか。正直なところ、私だっておっさん顔した人馬一体モンスターのフィギュアなんていらないんだけど、レアものっぽいし一応持っておこう。パックンさんにあげるというのもありかも。

 というわけで、フィギュアを最後にブトーレントルーパーのドロップは全て回収完了。

 さて、木刀を作ってもらいにパックンさんの所に向かうその前に――そろそろ10分経つからポートガス街道に戻って、と。


「情報屋、情報料忘れんでよ?」

「モチのロンさ。知られたくない情報とかあるか?その情報分の金は支払わないけど絶対に売らなし、話さないぞ。」

「強いて言うんなら俺が売ったことじゃのぉ。」


 そのうちブトーレントルーパーに遭遇するプレイヤーは現れるだろうし、いっそのこと全部の情報売ってしまった方がいいでしょ。こういったものは早い者勝ちなんだし。もし、私が情報を売ったことを知られれば、情報以上の事を教えろだなんだと、変な輩が沸いてくるかもしれないしそこは匿名にしておこう。


「安心しろ、仮に売っても情報提供したプレイヤー名は明かさないからさ。えーっと、ブトーレントルーパーの存在に行動パターン。おおよその体力にドロップアイテム……ま、色も付けて20000Gってとこかな?これでいいか?」

「おお、それで頼むわ。」

「了解。それじゃ即払いな。」


 こうして情報屋から情報料を戴いた私は今度こそパックンさんの所へ……フレンドリストを確認。よし、ログインしてるね。

 いきなり会いに行って武器作ってくれは迷惑だろうからアポイントメールを送ろう。よし、ちょっと時間かかっちゃったけど送信完了!


"パックン様よりメッセージが届きました。"


 早っ。送って1分も経ってないんだけど!?えーっと……


"いいわよ、ウーノの街の噴水公園で待ってるわ。"


 依頼を受けてくれるようで助かった。もし断られたら知らない人に頼みに行くところだったよ……持つべきものはフレンドのドワーフの鍛冶屋さんだね。

 一応情報屋に私についてくるのかと確認したところ、あっちもあっちでこれから人と会う約束をしているそうなのでここで別れることになった。ただお前、人と会う約束してたのに私を付け回していつ終わるか分からないブトーレントルーパー戦を眺めていたのか。



「来たわね。」

「すまんのぉ、頼み聞いてくれて。」

「いいわよ、みんなイベントに掛かりきりで依頼とか入ってこないから暇だったのよ。」


 出会った時のように噴水公園で露店を開いているパックンさんはいささか不満げであった。

 周りを見渡してみると、確かに前来たときは、露店で賑わっていた噴水公園も今はまばらだ。……でもそれならパックンさんも冒険してプレゼントボックス探せばいいのに。何故頑なに露店を……


「で?木刀作ってほしいんですって?」

「そうなんよ、ええ木材が手に入ってのぉ。」

「メッセージでもそう言ってたわね。でもアイテム名を言わなかったあたり、かなり自信がありそうね?」


 楽しそうに口角を上げるパックンさんは幼女のような見た目なのに、大人の、それも悪めな大人みたいだな……その顔でしていい表情ではない。やるなら私みたいな強面でしょ!

 というわけでブトーレントルーパーの木材をパックンさんの前に差し出す。ここで引っ張っても怒られるのがオチだからね。さっさと見せるに限るね。

 木材を受け取り、物珍しげに眺め、パックンさんは撫でるように表面に触れる。


「黒い木材?ふぅん、あんたが好みそうな色ねぇ。鑑定してもいいわよね?」

「そりゃ勿論。」

「ブトーレントルーパー?聞いたことの無いトレントね。えーっと、何々……?は?え?」


 あ、テキスト読んでるパックンさんの声が次第に小さくなってく。分かるわーこれ絶対に後半の文でビックリしてるよねー私もそうだった。

 おっと、木材と私を交互に見てらっしゃる。これはあれだな?「お前これ本当にお前が取ってきたの?」とでも言いたいのだろうか。


「俺が取った。」

「それは信じるとして!アンタこれ、絶対に売った方が得だと思うんだけど。私が作るの失敗するとか思わないの?」

「え?失敗するん?」


 私、パックンさんの事何でも作ることのできる最高の武器職人だと思ったんだけど!?滅茶苦茶頼りにしてるんだけど?


「馬鹿言いなさい!失敗なんて……無いわけじゃないけどね。でも、本当にいいの?一財産築けるんじゃないの?」

「それぐらいの品使った方がインパクトあると思わん?」

「思わなくもないけど……はぁ、分かったわよ、作るわよ!頼られて無碍にも出来ないし!ただし、失敗しても文句言わないで――あー、少しは言っていいわ。」

「言わんけぇ頼むわ。」


 いつも強気なパックンさんにしては珍しくごねたけど、最終的には引き受けてくれるというのでお願いした。依頼料は木刀が出来た時に渡すことになり10000~15000G用意していれば大丈夫らしい。それくらいの金額なら丁度情報屋からもらったし財布が痛むことは無いね。

 おっと、そうだったそうだった。忘れる前にお土産として枝も渡しておかないとね、今後ともヨロシク的な意味も込めて。

 タダであげようとしたらジャンプして脳天にチョップされました。「タダで渡すもんじゃない!」と。いや、でも本当にお世話になってるし……押し付けるように渡したら渋々受け取ってくれた。


「はぁ……精々楽しみにしてなさい。最初の木刀なんて目じゃないもの作ったげるわよ!」

「じゃ、よろしゅう。……あ。フィギュアいる?」

「それはいらない。」


 ですよねっ!

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