第24話 ファッションヤンキー、闘技場へ

「PVPはいいんじゃけど、このまま街の中でやるん?」

「出来ないことはないけど、そんな事したら通報ものよ?」


 ですよね。街の中で突然戦闘なんか始めてしまったら住民であるNPC達は不安に思って街を守る警察的な人に通報しちゃうだろう。私だってそうだよ。

 ならどこでやるのかと聞けば、専用の闘技場があり、街中であればメニュー画面からいつでも移動できるのだとか。シャドルに教えてもらいながらメニュー操作をしてみると、確かに"闘技場移動"という項目があるのでタッチ。

 するとどうだろうか、目の前の景色がいきなり街から体育館の休憩室のような場所に変わったではないか。はぁ、ここが闘技場なのね。

 あれ?シャドルは当たり前だけどパックンさんもいるの?


「闘技場で行われるPVPは観戦可能なのよ。ソーサラータクトの実運用を確認したいしね。それよりいいの?」


 そう言うと、パックンさんは私から視線を外し周りを見渡す。

 私もそれに釣られ、周囲を見てみると……うん?何かこっちに視線が集まっているような?そんでもって何か聞こえるような?


「お、おいアレってシャドルか?」

「何そんなに驚いてんだよ、シャドルちゃんは結構闘技場よく来るぞ?パックンが一緒なのは初めてだけど。」

「それよりあのデカいの誰?見たことないよ?」

「2人の知り合い?でも顔怖くない?」

「あン?」


 顔が怖いという単語に反応してその声がした方向に顔を向けると男ドワーフに露骨なまでに視線逸らされた。お前も結構違うタイプの顔の怖さしているぞ?

 そんなことは置いておいて……視線集まっているのはあれか、2人の人気故か。それに乗じて私も注目を浴びていると。


「今頃アンタ、掲示板に書かれてるんじゃないの?」

「ハッ!望むところじゃけぇ。晒され怖さでヤンキープレイできんわ!」


 本当は、叩かれたりしそうで怖いから掲示板は見ないんだけどね。ヤンキーRPは嫌でも目立つしアウトロー的な存在だからウケは良くないだろうし。

 ちらりとシャドルを見ると笑顔で周りに手を振っている。この子、そもそもが可愛いし、何気なくこんなことするから学校でも人気あるんだよね。少し待っていると、手を振ることに満足したようだ、長いよ。


「よし、じゃあオウカやろうか!」

「そうじゃのぉ、やるか。」


 この後どうするかと言うと、闘技場の受付NPCに話しかけて対戦人数・使用アイテム・レベル設定・勝利条件・戦闘時間を選択するのだとか。私はよく分からないからシャドルに任せよう。変な設定にはしないだろうし。

 シャドルが選択した設定は、1対1・使用アイテムは回復アイテム禁止それ以外はOK・レベルは私に合わせてお互いレベル10・勝利条件はどちらかの体力が0になるか、降参した時・戦闘時間は無限という感じらしい。

 闘技場でのPVPで消費したアイテムは、終了後に戻ってくるそうなので、気兼ねなく使ってもいいみたい。よし、初手は決めた。


「じゃ、闘技場内に移動するよー」

「おう。」

「私は観覧席で見てるから、頑張んなさいよ。シャドルはちゃんとソーサラータクト使ってね?」

「オウケイ!」


 目の前に"シャドルとの対戦のため闘技場内に移動します。準備はよろしいですか?"とのウィンドウが表示されるので迷うことなく、YESを選択する。

 瞬時のうちに景色が再び変わり今度はテレビで見たローマの闘技場のような場所に転移した。円形のフィールドにそれを囲む高い壁。その壁の上にはパックンさんが言っていた閲覧席があるのか、人の姿が確認できる。私の少し離れた所にはおいっちにおいっちにと準備運動に勤しんでいるシャドルがいた。うん?魔法職なのに準備運動?

 いや、もしかして戦う前のルーティンみたいなものかもしれないね。そうだな……私は片腕でも回しておこう、意味はないけど。


「準備運動終わりっと!……ねぇオウカ!」

「何じゃあ!」


 お互い離れているため、自然と話すために声が大きくなる。


「会えた感動で言うの忘れてたんだけどさ、その恰好すっごく似合ってる!」

「じゃろうが!俺のお気に入りよ!」


 ニッコリとシャドルが笑い、私もそれに釣られて笑みを浮かべてしまう。


"シャドル・オウカの戦闘準備を確認しました。カウントダウンを開始します。10・9・8・7……"


 パックンさんは、シャドルの戦い方は魔法職の常識をぶち壊すだのなんだと言ってたけどどういう意味なんだろう。

 おっと、そろそろ始まるか。切り替えないと!


"3・2・1・スタート!"


 甲高いホイッスルのような音が鳴り響き、それが戦いの開始を告げる。

 シャドルはパックンから貰い受けたソーサラータクトを構える。対する私は……ゴブリン棍棒を投げた!


「え、ちょっ!?」


 突然、眼前に迫ってきた棍棒に目に見えて驚愕したシャドルは顔を身を屈めることでそれを回避した。チッ、奇襲失敗か。


「ちょっとオウカ!いきなり顔面狙う!?」

「じゃかあしい!文句があるならかかってきんさい!」

「そうさせてもらう!"フレイム"!」


 シャドルが言葉を発すると、タクトの先からバレーボールサイズの球体が発生し私目掛け発射された。

 そういえば、私AFW始めて初めて魔法見るけど、描写凄いなぁ。とりあえず、初めての魔法対面だからどう対処したものか分からないので木刀で殴ってみるか。


「オラァ!」


 掛け声とともに木刀を火球に向けて振り下ろす。火に木刀をだなんて思った?残念、トレントの木刀は燃えないのだ!実際に火にぶつけるの初めてだから不安だったけどね。良かった、いきなり炭にならなくて……

 さて、恐らくこれは様子見の一撃なのだろう。シャドルは……あれ?さっきまでいた場所にいないよ?どこ行った?


「後ろだよっ!」

「はぁっ!?」


 背後からシャドルの声!?それも近い?慌てて振り向くと奴がいた。ニッコニコと得意げに笑い、タクトを構えたシャドルが。

 アカン、これはちょっと対応できないっ!

 慌てて体ごとシャドルの方へ向き直そうとするが、それよりも早くシャドルの魔法が発動した。


「"フレイム"!」


 回避行動も防御体勢も取れない私の顔面に火球が命中し、少し仰け反る。こいつ、狙ったなぁ……?いや、最初に顔面狙ったの私だけど。

 視界が炎一色になって見え辛い!何とか手で払った時には……すでにシャドルは私の懐に潜り込んでいるじゃん!


「すっきだらけー!"リスクバリア""フレイムボム"!」


 シャドルが魔法名を唱えると急接近したシャドルと私との間に先ほどよりも小さな火球が生まれ――爆発した。

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