第12話 ファッションヤンキ-、あの人に頼ってみる

「待てやおい。何でぇお前がここにおるんなら。」

「ウホホ。」


 ウホホ。じゃないんだよ、このゴリラ。私はこれからパックンさんに会いに行って装備について相談しなきゃいけないんだよ。お前の相手はその後レベルアップしてからしてあげるからお願いします見逃してください。

 そんなことを心の中で呟いてみても勿論ゴリラ野郎には聞こえないわけで、すぐさま奴の拳が飛んでくる。だが、私だってやられっぱなしじゃあない!


「往生せぃやぁ!」


 奴の攻撃に合わせ、私も右腕を振るう。お互いの拳はぶつかり合い、奴の拳よりも一回りも二回りも小さい私の拳はいとも容易く押し負け――なかった。かと言って勝っているわけではなかった。最初こそ拮抗していたが徐々に押され始めている。これはまぁ、しょうがないでしょ。寧ろよく保ってるね、私の右腕。

 だが、このまま馬鹿正直に力比べをしているつもりはない。私は瞬時に右腕を引く。そうすることで、ゴリラの拳は空を切ることになりバランスを失ったその巨体は前のめりに倒れ始める。今がチャンス。

 私は懐に潜り込み、右手にメリケンサックを装備し、奴の腹に喧嘩術で力を上げた拳をぶち込んだ。


「オボォ!?」


 懐に入り込んだおかげで、奴の表情までは計り知れない。が、聞こえた声から察するに奴もダメージを受けてくれたことだろう。

 さて、と。我ながら中々格好よく一撃を決められたと思うんだけどね、この後のこと考えてなかったわ。迫りくる奴の腹。いやぁこういう瞬間ってスルーに見えるって本当なんだね。ま、今回はやられっぱなしじゃなくて、一矢報いたということで良かったんじゃないだろうか。いやまぁ、結局やられるんですけどね。


 プチっと



「という訳なんよ。教えてくれてありがとな。」

「マジでヤンキーになったのね……?冗談のつもりで言ったのに、本当に実装されてたのね。」


 死に戻りしてやってきましたパックンさんの露店。

 最初はお客さんがいる間に来たんだけど、私がパックンさんに挨拶した瞬間、蜘蛛の子散らすように逃げちゃうもんでパックンさんに怒られました。私は良識のあるヤンキー。反省して一旦離れてお客さんが空くのを待ちます。良識のあるヤンキーとは。

 そして今に至る。無事ヤンキーになれた私の報告を受けてパックンさんは複雑そうな顔をしていた。でも私からしたらヒントをくれた人なので結構感謝している。


「で、次は防具の方を強化したいんじゃけど……」

「あー、アンタ初期装備ねそういえば。でも残念だけど、私武器専門なのよね。」

「むぅ、ちなみに知り合いとかはおるん?」


 パックンさん程の生産職であれば、知り合いの一人や二人いるのではないか。何というか、色んなタイプの職人さんとつながってそうなイメージだ。


「いるわよ?でも、教えない。」

「ん?何でなら。」

「私が紹介するとなると、結構な上位プレイヤーになるのよ?そんな上位プレイヤーが最初の街にいると思う?」


 目の前にいるのですが、突っ込んだら負けなのだろうか。無言を貫き通していたら、パックンさんが口を尖らせ「ツッコミなさいよ。」だの呟いた。可愛い。


「上位プレイヤーだし、この街に来るのは簡単よ。でもね、あんた1人のために手間かけさせれるかと言えばNOよ。分かる?」

「道理じゃの。」


 結局、私とパックンさんは軽口叩きあうような仲ではあるが、仕事を依頼したのは1回だけ。上客でも何でもないただのお客だ。

 私がその上位プレイヤーさんのいる街まで行ければ話は変わるかもしれないが、パックンさん曰く私一人では無理とのこと。

 パックンさんのフレンドも当たり前だが、いくつか依頼を受けている最中なのだ。そんな時に、ウーノの街に来てねーは無茶ぶりだろう。


「という訳で、アンタは同レベルの生産職の知り合いを作りなさい?そしてその人に作ってもらいなさいな。私に頼らず、ね?アンタの目指すヤンキーは簡単に人を頼るの?」


 むぅ、それを言われると弱い。

 ただ、このままパックンさんにだっこにおんぶじゃいけないのは分かる。ただ、どう生産職探せばいいか分からないんですけど!?


「なら生産ギルドに行けばいいじゃない。あそこってプレイヤーも依頼出せるのよ?」

「マジか。」

「最初は気づかない人、多いのよね。受付に行けばある程度教えてくれるから行ってみなさい?」

「分かった。すまんかったの、無理いって。」

「いいわよ、別に。応援しているから頑張りなさい?」


 パックンさんの激励に私は右腕を上げることで無言で応え、生産ギルドに向かうために踵を返す。

 ……私が去った後に再びパックンさんの店にお客が殺到したのは言うまでもないだろう。

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