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裏街は表から見れば違法であり、汚らわしくて古臭い。害悪な老人たちと社会不適合者の集まりだと思われている。
裏街は裏から見れば違法であり、汚らわしくて古臭い。博識な老人たちと社会離脱者の集まりだと思っている。
人間らしさが何かわからなければ、この街に浸ってみればいい。お金に疲れたのであれば人間のための社会へ戻ってくるといいだろう。表に存在する学校も会社もここにはないのだ。ずるしても真面目にも生きていける気がするのは気のせいじゃない。
それがこの街。
裏街に来ることを推奨はしないが歓迎はする。褒誉されることはないが、拒絶されることはない。
学校に居場所がないって言うなら、少なくとも寝床ぐらいは提供してもらえるはずである。
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俺が膝枕の女子高生を調べ始めたのは軍があの店を狙った理由を知りたかったからだ。裏街に突如現れてでかい顔を始めた奴らの目的は何だ。ただ正義を振りかざすのが目的ではないだろう。正義を武器としたい兵士を使って成し遂げたい目標。それが分かれば刑事の言っていた『いつもの俺』に戻れる。無駄な武勇伝と知名度を向上させたい悪ガキを追い払う日々に戻れる。
彼女は表側に存在する不可ではないが、さりとて可でもないモラルの公立高等学校に通学していた。早朝にコンビニでコーヒーを決めている教師からくすみ取った資料を見る限り、彼女は不登校どころかむしろ皆勤賞。成績も中盤を蹴とばすことのできる定位置を維持。問題は彼女ではなく、彼女のクラスに存在するということであった。教師の表側の資料を戻したあと、まだ珈琲を決めまくっていたので、謎の裏資料を閲覧していた時にそれを知った。それは常識からかけ離れた俺でも胸糞が悪くなるような状況であり、それを黙認することしかできない教師は何を考えているのだろうと思った。自分のことしか考えていないのかな? 資料もとい報告書には時折対象生徒を指導していると書かれているが、実際はどうだろう。だって犯行現場は校舎裏でも、トイレでも、体育倉庫でもない。放課後や昼休みの教室である。不特定多数の生徒の目が存在する白昼堂々たる犯行。
目的と標的が定まれば、それこそいつもの俺である。よって、その日の内に行動を起こすことを即断即決した。
***
正午零九分。定刻よりもはやく授業が終了した某高等学校の某教室には昼食を買いに行く生徒、昼食の弁当を広げる生徒、居眠りを続行する生徒と一人の女子生徒に詰め寄る十名弱の男女の集団がいた。男だけではない。女子も集団の半分を占めている。
彼ら彼女らは女子生徒を自分の椅子の上に立たせ、そしてこう言い放った。
「じゃあ、パンツ脱いでください!」
男子生徒が元気に言う。
「いやいや。もう上からでいいっしょ。胸出せよ」
女子生徒が高圧的に迫る。
女子生徒は無言でくたくたの白生地のパンツを脱ぎ、自分の机の上に置いた。周囲から雑音と無作為な目線が漏れる。次に着用しているブレザーを外そうとボタンに手を掛けた。ワイシャツ姿になるまで集団は好きなことを好き勝手に言い、何度か彼女に手を出していた。ワイシャツのボタンにも手を掛けたので、俺は行動を始めた。
「うをらぁっ!」
公立高等学校のガラスは思ったよりも硬度であったが、割れないこともない。ガキのいたずらでは割れることのない強度を持つが、本気で壊すつもりのガキならば可能である。手持ちに凶器がなくとも、一定の長さと質量があればそれは狂気なる凶器に成りうるのである。
突然の出来事に学生のガキどもは静かにひるんだ。各々の自分が必然的に必死になる。己の無傷を確認した後、その場の全員が新手のガキを目にする。部屋の外部も音を頼りに、当事者にならない程度にこっそりと観察を始める。
大注目のチュウカは気分が良くなった。
人に注目される、認められるって言うのは案外おもしろいものだと毎回感じるぜ。
「よう、ねぇちゃん。また会ったな」
チュウカが着地した机には散らばったガラスがあり、その向こうにまぬけな男子のふぬけた顔があった。チュウカは目標めがけて女子高生のパンツを蹴とばした。布一枚と欠片数枚が学生の頭に乗っかる。この間、風俗女子高生は呆気に取られてただチュウカを見るだけ。他も同じく。誰もが言葉を忘れたようであった。だから俺は声以外の音で笑った。
「おい、そこのでかいやつ」
俺はバスケ部とかバレー部で活躍しそうな、ひょろりと高身長且つほくろの多いやつを呼びつけた。周囲は彼を目で追いかけ、話の行方を牽制する。
「お前の母親、軍のお偉いさんだろ。センシャとか率いてるやつだ。たしか名前が――」
「おい! そこで何をしている!」
ここで教師の登場。思ったより遅かったな。びびったか?
「でかいの。いいか。軍にこれ以上
俺は隣の机を偽中華包丁に引っ掛けて出入り口にいる教師に向かって投げ飛ばした。
「俺は手段を選ばないし、話が通じる相手でもないぜ」
俺は割れていない方のガラスを拳で叩いて粉々にし、外への空間を広くした。再びガラスの割れる音に悲鳴が混じった。チュウカは武器を背に収めると、空いた両手で風俗女子高生を引き寄せ、そしてお姫様状態にした。女子ならば一度は憧れるってどこかの無駄な雑誌に書いてあったから、たぶんそうなんだろうよ。さしずめ俺は王子様か? ケケ。
「それと、悪いがこの女は俺のものだ。お前らのものじゃねぇ。じゃあな」
そしてチュウカは飛んだ。再び悲鳴が後ろから漏れる。チュウカは飛び出してすぐに真後ろに回転。校舎の壁に突き刺した雨どいに足場を移す。そのまま複数回これを繰り返して屋上まで登った。足をつけた屋上には腐りかけた水たまりが一つあった。あとは形の変わった煙突。ボイラーみたい。
「あの、あなたはいったい……」
「なんだ? 何か不満でも?」
俺の腕の中にいる女子高生は風俗嬢でも、同級生の憂さ晴らしの相手でも、もはや女子高生でもない。
「いえ、べつに」
ありがとうの言葉が聞こえないただの人質である。
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