第3話 前進
勉強を教えてくれると言って、どこかへ行ってから
徐々に時が流れていく。1分、2分、3分~
最初は細かく時計を確認していたけど、
それが長時間となれば、話は別だ。
呼吸とため息が混ざりながら
「はぁ、もう何分たっただろうか?」
時計を見ると、待ってて
といわれてから30分以上たっていた。
(何をそんなに時間をかけることがあるのだろう?)
その果てしなく続くと思った時間と不安のさなか
僕の脳裏にある言葉が駆け巡った。
「僕、もしかして騙されてる?」
「いや、いや、そんなわけ。」
(でも、最近物騒だし何かされるのかも?)
表情がこわばり顔が徐々に青ざめていき
汗が止まらなくなり
とめどなくわきつづけ,
僕自身が不安という悪魔に取りつかれたようだった。
そんな時だった
「待たせたね。」
(やっと来た)
僕「おじさん遅いよ~、待ちくたびれた」
おじさん「ごめん、ごめん」
僕「それより今日どこ行くの?」
おじさん「君、勉強で挫折したでしょう?だから本屋に行こうと思ってね。
準備してたら遅れちゃった」
(あれ? おじさんに言ったけ?まあ でも他人と思えないし、ポロっとどっかで言ったんだな)
その日 二人は本屋に向かった。
おじさん「大体参考書の、進み具合を把握したいんだが?」
(登校拒否は1年からだし、ほとんど忘れていた)
僕「ごめん、おじさん 復習もかねて
僕が持ってる参考書から教えてもらっていい?」
結局、家にある教科書や参考書をもって日を改め、公園に集まることになった。
数日後 約束の時間
大きめの、カバンに1年の時の何冊かの本と
筆記用具を詰め込んで公園に向かう。
(俺は、何を今さらやってるの? 今まで勉強から逃げてきたのに、
なぜやろうとしてるのか、解らない)
公園にいるおじさんと合流した。
おじさんは公園の奥の方に設立された、
屋根付きで、机とベンチのある場所で座っていた。
(そこは僕が小さい頃みんなと勉強した思い出の場所だった。)
彼はよれたストライプ柄のティーシャツに
似合わない焦げ茶色の渋いハンチング帽
おじさんは俺が持ってきた本を、パラパラめくっては「すごいねえ。もお、こんなとこいってるんだあ。と、いってはそのページを少しにらんでは、後ろのページに移行する。
しばらくすると「わかった。じゃあ、このページから解いてみて。」
「えっ、いきなりかよお」解けないと、ヒントをくれる。
それに、よって少し簡単な問題になる。気がつくと、1時間は経っただろうか。「きょうは、このぐらいにしようね。この本、預かっていいかい。1度には、できないからね。」
(すごい、あれから3か月は経っただろう。超しごかれたおかげで1年の範囲の主要科目はクリアした。塾の先生でも超優秀なほうだろう。)
それにつれ、生活態度も変化した。母さんとの会話は、増えてきた。
「その、おじさんって何者?」
「釣り好きの、おじいさん」
「それにしても、すごいねえ。」と、二人して共感。親子の会話の疎通ができるように、なってからなぜか、洗濯物と週3日の夕食当番に、なってしまった。
「なんか、そのおじさんは懐かしいというか、俺に似てるんだ。」
「あんたの父さんは、3人いるから」と、真顔でいう。
「えええー」
「冗談に決まっているでしょ」
「未来のあんたが、挫折したあんたを助けに来たんじゃない」SFずきな、母さんが言いそうなことだ。
半年後
三者面談が、家で行われる。
久しぶりの担任、こんな顔してたっけ。そうか、2年になってから一度も学校に行ってないんだ。
「担任の潮崎 五郎と、言います。お母さん、今日は私どもも今までは、見守ってきましたが、3年生になると、より一層科目の進みも出てきますので、他の学校に編入していただくか。辞めていただくことに、なります。」ほかにも、たらたら、だらだら、回りくどく喋っていたが。眼鏡のフレームを、時々こすりながら。その、奥の眼球は覚悟を決めた感があった。
「はい、先生方にもご迷惑をおかけして今後のことも息子といろいろ話あったのですが。もうすこしで、2年生も終わりですが少し顔を出して3年生を迎えて行こうと思います。」
「えっ」先生の顔が意外そうだった。眼鏡のフレームが、いっそうせわしくこすられる。
「正気ですか、お母さんわが校は県内1の進学校なんですよ。1ヶ月休んだら、もうついてくのが大変なんです。あまりいいたくありませんが、息子さんは、1年の1学期もまともにきてない状態なんですよ。」
「先生、少し待っててください」と、母さんは部屋を出ていく。
「正樹くん、お母さんの気持ちはわかるよ。せっかく入った名門校を辞めさせたくない気持ち。だけど、今さら学校行っても惨めな気持ちで退学に追い込まれるだけだ。」母さんのいない間に僕を説得しようとしてるらしい。母さんは、4,5冊の問題集と、お菓子を持って入ってきた。どうぞ、と、お菓子を進める。
「どうぞ、お構いなく」
先生は、しぶしぶ参考書を手にとり、パラパラめくって「これ、正樹くんが?2年の範囲ほとんど終わっているじゃないですか?」
「ええ、主要3科目だけですが、初めは私も、先生と同じこと考えました。このまま、籍だけおいでもどうかと。ですが、ある方と知り合って、勉強を教えてもらうようになってからめきめき、勉強が進んできて。それと、並行して私とも距離が近くなっていろいろ話せるように、もとのようになってきました。」笑顔の母さんに反して、信じられないといった表情に、変わってきた。
先生はメガネを上にあげ、他の参考書にも目を通すと少し間をおいてから「この参考書、借りていってもいいですか?一度、学校側で話をしてから再度連絡します。私の一存では、何もいえませんので。」最初の気負いを、そぎおとされてから急いでこの場から離れたいような感じにもとれた。先生は、参考書を持って来てから、15分もせずに帰っていった。
母と僕は互いに笑いあう。「まあ、あの参考書をみた限りでは、学力が皆と違うとは思わないでしょう。まあ、後は学校側にまかせて、万が一辞めなくちゃいけなくなったら、正樹の好きな学校へ編入すればいいから」
「わかった。まあ、なるようになるだな」
先生が、帰ってから1週間後電話が鳴った。「はい、林田ですが」「正樹くん?潮崎だけど、お母さんは、みえる?」「そう、じゃあ。要件だけ伝えるね。校長はじめ皆で、検討したところこのまま、続けても学力は問題ないだろうと、いうことになったんだ。来週からでも来れるなら顔出して。これからは、学校でその都度話あっていけばいいから。」「はい、わかりました。よろしくお願いします」(やったあ)思わずガッツポーズ。
仕事から帰った母さんに、伝えると泣いた。
「大げさだな」
「だって、このまま何年も引きこもりってことも、ありえたから。」(なんか、申し訳ない。自分のことしか考えていなかった。)
続き
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