第2話 母の気持ち
タイムカードを機械に挿入しながら
気持ちを、仕事モードに切り替えた。「よしっ」
やる気がない自分の体をその言葉で無理やり振るい立たせた。
食品会社の工場に勤めている
工場は衛生管理にとても厳しかった。
それは着替えから始まる。
私はこうやっていた。
とりあえず着替え、
髪の毛を上にあげネットをかぶり、
その時にはみ出てないか 入念にチェック
これは忘れてならない項目だ。
その上に帽子を被る。制服の上からコロコロで、前も後ろも髪の毛もひたすら取る。自分で、届かないところは、他の人に取ってもらった。
さあ、仕事に入ったら余計なことは考えていられない。
ひたすら、弁当箱の仕切りに担当のおかずをいれていく。少し、こぼれて入れ直したくても。つぎの人が、弁当箱をさらっていく。立ちっぱなしで足が棒のようになる。休憩時間になった。
30分の休憩が私にとっての至福の時間だ。
「ふぅ~今日も私 頑張りました。」
休憩室にある椅子に深くこしかけ、天井を眺めていた
突然声が上から降ってきた、「どう、正樹くんは?」
「ん?」声のするほうに顔を起こし
ジーと見つめた。(ん~っと)
顔のぉ 特徴は?、、
(丸顔でぇ~ 目が?細い、、、色白でぇ?女性で?)
「あっ、あら あら 洋子さんじゃないの~」
この女性は祥子さんといって
正樹の小学校の頃の同級生のお母さんだ、
ある日の朝、正樹ががっこうを休みがちになったのがきっかけで、引きこもりになった。どうしたらいいのか、悩んでいた時にも相談にのってくれた仕事も気分転換と生活の足しになるからと、二人で面接に行き今まで二年半余り頑張ってきた。
「うん、相変わらず。廊下に出した食事は、ほとんど食べてるけど、本人とは話もできないし。どうしたらいいものか」「亮君は?高校生活楽しんでる?」「まあ、頭が悪い分、好きなサッカーが気楽に出来るところ選んだから。部活で、汗だくで夕方遅く帰ってくるわ。」「羨ましいわ」「何、言ってるのよ。正樹君が現倫高校受かった時に。なんて、出来が違うんだろうって羨ましかったわ」と、いつもの会話になる。これといって進展もないから同じような会話が続いている
正樹は周りに天才と持ち上げられ、
小学校から成績が常に上位だった。中学で、受験した時も先生方の期待にこたえた。きっと、走りすぎたのね。
私も鷹がトンビを産んだって舞い上がっていた。申し訳ない。きっと、一人でぎりぎりまで耐えていたんだ。
最近、更年期障害で、疲労感やだるさがとれない。まあ、年寄りになってきた証拠かあ。朝、起きづらい。夜中に、何回か起きてしまうので。その反動でもある。
休みは、家にいても疲れがとれない。
ある日、正樹の食事を、下げようと部屋にいったら、戸が開いていた。(汚い。)中に、入って床に散らばった服や、菓子袋を拾っていると。怖い顔で、入り口から睨んでる正樹と目があう。
「勝手に、何してる?」
「たまには、掃除しないとね。」
「だから、勝手なことやめろってさわんな。」腕をつかんで、部屋からだそうとした拍子に「こんなに、散らかってるんだから。衛生にも悪いし、身体にも悪いでしょ。腕を振りほどきながら。「だから、やめろって。」さらに、声をあらげる。不意に、振り上げた腕に突き飛ばされて重心が傾き頭や、腕を壁に本棚に向かって、しこたま打ちつける。(うっう)しばらく動けないほどの痛み。やっと、身体を持ち上げて、正樹を探してみたら視界からきえていた。
あれから、一切みて見ぬふり。流石に異臭がしてくる。と、思ったら雑巾を手に、掃除をする気になったようだ。こんなことで、うれしがるなんて。でも、いつまでこんなことが続くのか。気持を、聞き出そうにも会話にもならない。
同じ年頃の高校生を、見るとキラキラしてみえる。羨ましい。どうすればいいのか?1年の2学期から、登校拒否になって、先生がみえた。(これから、どうしますか?編入という手もありますが。やっかい払いしたいのが、みえみえだった。)ズルズル引き延ばしてもついていけないのは、わかっている。でも、他の高校に編入しても正樹の気持ちが萎えている今は、どこに行っても同じような気がしている。
それにしても、もう2年生の2学期ももうすぐ終わる
1回も、2年生のクラスに顔をみせないまま。
夫が早く亡くなってからというものの
仕事から帰っても息子と顔を合わせる機会がない、
一人ではないと自分に言い聞かせる。
玄関横の干場から風に吹かれて洗濯物がひらひらしている。(あれ、今日洗濯物干していったっけ?ついでに、とりこもう。)バックや、荷物を玄関先に置き。洗濯物を、取り込む。(違う。この、干し方。)しわしわのシャツや、ズボンが無造作にほされている。傾いたズボンは、かろうじて一つの洗濯ばさみに支えられている。(えっ、もしかして洗濯してくれたの。)正樹の顔が浮かぶ。今まで、そんなことは1回もない。
玄関を開け階段を駆け上る。(こんな、元気まだ残っていた?)
「正樹、いる?」戸を、ノックする。もう、一度。寝ているのか。
それにしても、どういう心境の変化?ここは、踏み込んでいいものか。もう少し、様子をみたほうがいいのか。戸が、開いている。きれいに整理されて、何個もゴミの袋がかたまっている。異臭がするまで閉められていたのに。
なんだか、とてもうれしい。少し心が前向きになったんだろうか。
tuzuku
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