#Functionyou;dI've-Ⅱ "mEMOry"
唯月希
>Ⅰ
まるで、春の終わりに。
そよ風に吹かれて飛んできたタンポポの綿毛が、頬に触れた様な。
鳥が落とした羽が風に揺れてその先端が肩を掠める様な、そんな感覚。
まだ調味料を口に入れてはいけない幼児が食べている離乳食で食事を共にした様な時に感じる自然の様な、そんな母の優しさの様に。
そんな、本当に、些細な、見逃しても、仕方ない様な、そんな、一瞬の世界に、僕の心は、気持ちは、理性は、きっと欲望も巻き込んで、塗り替えられた。
その言葉だけで、僕は恋に落ちた。
恋を、花に例えるという手法はきっと常套手段で、慣れ親しまれているものだろうし、それがありきたりな表現であることは、分かりきっていることなのだけど、でも、僕はあまり言葉を多くは持たないから、テンプレートでも勘弁してほしい。
ずっと、地中で眠っていた。けれど確実にあった恋の種子が、その瞬間に生き返った気がしたんだ。
それは、全身浸っていた冷たいプールが、一瞬で45℃の温泉になってしまった様な、そんなまるで人生では体験できない様な、そんな衝撃。
あの日、きみは、それまでの僕を殺した。
っていうと、言葉が強いけど、それぐらいの衝撃が確かにあったんだ。生まれ変わるっていうのは、一度殺されないとありえない。だからきっと、きみに殺された自覚のある僕は、同時にきみに蘇生されたんだ。その1秒前の自分が、まるで嘘みたいに、生きている心地を強制的に更新された様な気がした。
一体何があったのかって、言えば。
そんなのは、僕の中では語るまでもないのだけれど。
同級の中でも仲のいい数人で学食で話している時、僕とは離れた差し向かいにいるきみが、言った言葉。
『あたしは、好きだけどだなぁ』
それだけで、他の友達が視界から消えるくらいに。
きみに、"好き"と言ってもらえる自分になりたいと思った。
気持ち悪いと思う人もいるだろう。っていうか、そっちの方が多いと思う。けれど、その優しさの塊みたいな”好き"というきみの言葉、声、声色、感情が、僕の誤解でなければ、もし自分に向いたら、自分にだけ響く言葉で告げられたら。
僕はその時に、なにを思うのかすら、想像ができないくらい。想像してしまったら、壊れてしまうくらいに。
そこまで背負っているつもりはない僕ですら、これぐらいの歳になれば多少自分の客観視はできる。
まるで使命感だけで生きてきた様な僕の命は、きっときみに微笑まれたら、それだけで生きてきた価値があるのだろうと。
拗らせていようが病んでようが、もうなんでもいい。恥も外聞も知ったことか。
けれど、他人に漏らすことはないこの想い。
僕、
そして、僕がその想いを燻らせること半年。
やっと、唯一の"他人"とは言い切れないその人物に、その感情をどう受け止めればいいのかがわからなくなったことを、つらつらと伝え始めた。
きっとこの世で、一番僕を裏切ることもなく、一番僕が裏切ることのない、唯一無二の、血縁。
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