第150話 もう夜なのよ!!

 時間がどんどんと経ち、ついに月が空に現れ星々が踊る時間帯になっていました。

 イライラが募り過ぎた私は思わず叫んでしまいます。


「もう夜なのよ!!」


「姉さん...、確かにもう夜ですね」


「エルカはそれでいいの!?、ようやくパニラが見つかったと思ったらもう夜だったのよ!、時間を無駄に消費したと思わないの!?」


 ふ〜ふ〜と息を荒げている私に対し、長時間座っていても苦悶の表情一つ出していないフォロスがようやく重たい腰をあげ、私にこう言ってきました。


「プラム、貴殿は少々辛抱が足らなすぎるのでは?、妻の方が年下なのに、これでは貴女の方が子供っぽく見えるのだが」


 ぐうの音もでない私。


「ぐぬぬ...、ガキの癖に正論を...!」


「私は確かに貴殿に比べられればガキと言われてもおかしくはないが、必ずしも年の功イコール偉いと言うわけではないからな」


 冷静な態度でそう返されたので少し怒りそうになる。


「言うじゃない...、剣を抜きなさい...!」


「ほう...、こちらとて自信はないが、貴殿と腕を比べられると言うのであれば是非もない」


 私と彼が構えた時、それを仲裁するように王様とパニラ様が現れました。


「皆さまに迷惑をかけてしまい本当に申し訳ない!、ほらパニラも謝りなさい」


「皆さまの貴重なお時間を割かせてしまい本当に申し訳ありませんでした」


 彼女の謝る姿を見た私は、無性に腹が立ったのですが、一応形では謝っているので許すことにしました。


「ふん!、お子ちゃまの癖に私達の時間を無駄に消費したのだから早く話を進めて頂戴!」


 私は戦闘態勢をやめて席に座りました。

 それを見た彼も、大人しく剣を収めて席に座る。

 エルカのやつはあははと半笑いを浮かべていました。

 私とエルカとフォロス、王様とパニラでようやく役者が揃ったかに思えたのですが、席が一つ空いていることに不信感を覚えます。


「その席は何なの?、一つ余っているように見えるのだけど...」


「これはこれは説明を怠ってしまい失礼いたしました、この席はレイン殿の席です」


「レインか...、まさかあいつも警護に来るとはな...」


 私もそれを聞くと違和感はなくなっていた。

 レインとはエルカやフォロスと同じく聖人であり、拳聖の名を冠しています。


「ふ〜ん...、で勇者の奴はなにしてるの?」


 それを私が聞くと王も困ったような表情を浮かべていた。


「...その...、勇者殿は今どこにいるかも分からず呼べない現状であると伝えておきましょう...」


「まあ、そんな事だろうと思ったわよ、まあ姫の警護くらい私だけでも充分と思うのだけど、今回はなぜ三聖人全てと私を警護に当てようとしたのかしら?」


 今回の件で1番不信に思ったのはそれだ。

 以前の年までは聖人など呼ばず、城内の兵士達だけで賄っていたはずなのですが、今回に関しては何故私達を集めたのかを問い詰めたかったのです。

 それに対する答えはこうでした。


「実は...、そろそろ我が娘パニラを時期王候補として発表したいのですよ、まだ7歳の娘ですが自覚を持っていただきたく為にも聖人様方に参加していただきたいと思ったのです」


 なるほど...、要するに我が姫は重要ごとに聖人3人が付き従うほど聖人達に重要視されていると民衆に思わせたいのだろうと考えた。

 警護だけであれば城の兵士達だけで充分だろう、ローシュなどフォロスが直々に鍛えた熟練の兵士達は相当優秀だ。

 一部隊だけで他の国の騎士団とだって渡り合えるだろう。

 それほどまでにこの国の人材は優れている者が多い。

 それを聞いた私は思わず鼻で笑ってしまった。


「はんっ...、そんな事なら私は降ろさせて貰うわ、警護だけなら過剰戦力すぎるわよね?、私と聖人3人にクティル王国屈指の精鋭部隊とか、何?他国と戦争でも行うつもりなのかしら?」


 私は思わず王を睨んでいました。

 娘の見栄の為だけに貴重な時間を浪費させないでほしい。

 こうしている間にも輪廻教の奴らが陰で暗躍しているかもしれないし、奴らを探す方法も見つからない以上、魔神と共に現れた際の対策も考えなくてはいけないからだ。

 イライラしているのをみたエルカの奴が、私を宥めるように肩に手を置いてきました。


「姉さん、ここは力を貸してあげましょう、それがクティル王国の繁栄に繋がると私も思うわ」


 彼女の純粋な瞳に押された私は、今回だけは参加する事にした。


「エルカがそう言うなら...、ただし今回だけだからね!」


 念を押すように王を見つめると、彼は汗をハンカチで拭きながら安心したようなため息を吐きました。


「感謝しますパニラ殿」


「ふんっ、別に王様の為じゃないし、ただの気まぐれよ」


 私に深々と頭を下げる王を見て少しだけ愉悦を感じる私だった。

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