第113話 それぞれの休日・プラム

「いい風...」


 私はそよ風の踊る町に1人佇んでいた。

 午後の穏やかなワルツが聞こえてくるような優雅な町並みに心を躍らせながら町を歩く。

 最近は子供達の相手をしているので心が疲弊していたので、久々の休日はゆっくりと町を歩くことにしたのだ。

 特にテスト問題を考えるのは地獄だ。

 あの子達のレベルにまで脳の機能を落として考えなくてはならないのがとんでもなく苦痛なのだ。

 今日は子供のうるさい声もしないので、束の間の休息を楽しんでいると。

 いつの間にか城の方まで歩いてきてしまった。


「...、こんな所まで来るつもりなかったんだけどな...」


 子供達の相手をしなくていいので、つい嬉しくなって歩き続けてしまった結果がこの始末であった。


「まあいいか、たまには無駄に時間を費やすのもまた一興...」


 自分に酔っていると、見慣れない白装束を着込んだ女に声をかけられた。


「すみません、実は私この町に疎くて、お嬢さんクティル魔導小学校はどの方角にあるか知っていませんか?」


 ?、学校になんの用だろうか、まあ教えるくらいなら問題はない。


「あっちの方角」


 私は指をさして子供らしく振舞う。

 いつもなら子供扱いされた時点でさっさと去るのだが、今はそんな気分でもないし穏便に済まそうと思う。

 流石にこれだけでわかる人ではなかったようで、苦笑いをしながらこう言った。


「ごめんなさい、それだけじゃわからないかな...、学校まで一緒に歩いてくれないかな?」


「...、まあいいけど...」


 私が背を向けて歩き出した瞬間!。

 彼女が白刃を私に向けて斬りかかってくるのが本能的にわかっていたので、空気中に散布させていた氷の粒を凝固したもので防ぎました。


「私の殺気を見破るなんて流石ね...、氷の雪姫プラム...」


「その名前を知ってるってことは輪廻教の者ね、私を消しに来たのかしら?」


 以前私は潜入の為輪廻教と呼ばれる魔女の親衛隊の一大部隊に潜入していたことがあるのですが、その時についた私の異名が氷の雪姫なのです。

 あくまで教徒内でのあだ名のような物だったので、それを知っているということは以前の教徒の誰かという事になるので、裏切り者の私が憎いのでしょう。

 親衛隊は大人しくなりましたが、まだまだこういった異分子が残っているという事実は受け入れなくてはいけません。


「さて、それはどうでしょうね〜」


 冷ややかな空気が辺りを包みこむ中、彼女は笑みを浮かべながら私に接近してくる。

 早い!。

 私が見たなかでもトップクラスの加速性能を持った彼女のフードが少しずれた為、素顔がわずかに見えた。

 その事に気がついて一瞬だけ気をとられたがすかさずに反撃を試みる。

 辺り一面を氷のフィールドに作り上げ、極地的に極寒の大地を創造した。

 それを見た彼女は接近するのをやめて距離をとる。

 流石に氷のフィールド内で戦うという愚かな行為はしないようだ。


「...流石あの人の血筋ね...、1人じゃ敵わないかな...」


 その言葉に違和感を覚えた私は口を動かす。


「ちょっと待ちなさい!、あの人って誰のこと!?」


「もうちょっと遊んでたいけど、捕獲に失敗しちゃったから逃げるわ!、後待たないからね!」


 彼女は目にも止まらぬ素早さで逃げ去った。


「逃がさない!」


 私が空中に飛び上がって上空から彼女を氷の槍で突き刺そうとすると、どこからともなく火の矢が放たれ矢は消滅しました。


「新手!?」


 私が火の矢が飛んで来た方向を見やると、そこには白装束を着込んだ何者かがいましたが、距離が遠すぎる為、顔は分かりません。


「くっ...!」


 炎の矢が無数に降り注いで来たので防御に専念する他ありません。

 その間に彼女は逃走し逃してしまいました。


「...、逃した...」


 私は1人ポツンとその場に立っていたのですが、気になることが一つありました。

「あの人」という単語がどうしてもわからないのです。

 以前は悠久の魔女が存在していたので、教徒内で「あの人」とは彼女の事を指していたのですが。

 無論、今では魔女は封印され存在していないので今は誰のことを指すのかわからないのです。

 それに血筋とは一体どういう意味なのか私にはわからなかったのです。

 普通に考えればなんとなくわかるはずなのですが、私には血筋という単語がどういう意味あいを持つのかがわかりませんでした。


(...、ここで立ち止まっててもしょうがない...、一度あの子に相談して見ましょう...)


 私はそう思い、異空間に急ぐ様に飛び込みました。

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