第106話 パンケーキ

 まず最初に牛味噌ステーキが運ばれて来た。

 肉の焼ける音がするので、どう考えても喫茶店らしさはないのだが、肉の焼ける匂いがとても香ばしい。

 兄さんは待ってましたとばかりにかぶりつく。


「美味そうだな!、頂きます!」


 兄さんはナイフとフォークをしっかりと使い食べて行く姿はまさしく騎士なのだろう。

 食べ方に関してはお手本のように綺麗なのでびっくりするが、父さんの食べ方を見るとさらに圧倒される。

 食べ方がとても美しく、それ自体が芸術品のような価値さえ感じられるほどだ。

 この親子やべーな!、そう思っている私もその一員だと考えた時になんか負けた気がした。

 私にはあんな綺麗な食べ方は出来ない、家族皆の育ちが良いせいで私の中に劣等感のような物が生まれる。


(私にはあんな食べ方真似できないな...)


 前世では一般人だったので食べ方なんて気にしたことも無い。

 あくまでここは喫茶店なのだが、やはり周りの人が綺麗な食べ方をしていると目を見やってしまうのだった。

 彼らが肉を食べている様を見学していると、兄が「カリンもちょっと食べるか?」と使ってないフォークに一切れ肉をつけて差し出してくれたので、その行為に甘えることにした。

 さっきから香ばしい肉の匂いが鼻を刺激し続けていたので、少しだけお腹が空いたような錯覚に陥っていたのだ。


「ありがとうにーに」


 そう言いながらフォークを受け取って一口食べて見る。

 肉汁が口の中で弾け飛んで旨味に変わる瞬間に私の頰は緩んだ。


(何これ...美味しい!)


 口の中で肉の塊をゆっくりと噛み砕き味を染み出させながら味わうと、さらに旨味を出す。


「美味しい...」


 喫茶店で肉料理を食べることになるとは思わなかったが大満足の味である。

 私の満足そうな表情を見た家族たちは静かに笑っている。

 思えば家族でこういう店に来たのはいつぶりだろうか、前世では中学に入ってからというもの、家族とはあまり食べに行かなくなったのを思い出した。

 家族といるよりも友達といる方が楽しかったので、必然的に友達と食べに行くことの方が多くなっていたのだ。

 そう思っていると、私の注文したパンケーキが母さんの頼んでいた物と一緒にやってきた。


「ご注文は以上ですか?」


 店員さんが笑顔でそう言ってきたので母さんが「はい、大丈夫です」と答えた。

 店員さんは普通の返信に胸をなでおろした後で次の注文を受けに行っていました。

 母さんみたいな人が来たらウェイトレスさんは大変だろうなと思う。

 さてと、私はパンケーキに目をやるとまずそのボリュームに驚いた。

 お皿一杯に盛られたパンケーキが二枚程重なってあるのだが、その周りを生クリームで囲んでいて、さらに中心にはサクランボがソフトクリームの上に載っている。

 おまけにとばかりにフルーツを沢山乗せているので、まるでフルーツタルトのようである。

 思っていたよりも完成度の高いパンケーキを見ると女子の私が顔を覗かせる。

 ここにスマホが無いのが残念でならないが、無いものはしょうがないので諦める。

 見ているだけで幸せになりそうなそれを見ながら、勿体無いと思いつつも手をつける。

 ナイフとフォークを上手に使いながらパンケーキにソフトとフルーツを乗せて頬張った。

 フルーツの酸味とソフトの優しい甘さが癖になりそうだ。

 やはりというべきか、これも美味しい。


「...、美味しい...!」


 どう考えても一般的な喫茶店で出せる味を超えていると思うのだが、そこには突っ込まない。

 恐らくだが、魔法的な何かを使って味の底上げに成功しているのだろうと勝手に思い込んだ。

 でなければこの味を一般店で出せるわけがないと思うからである。

 あまりお腹は減っていなかったはずなのに、気がつけばもうパンケーキを食べ終わっていた。


(もう食べ終わっちゃった...)


 少し残念そうな顔をしていると、母さんがふふっと笑いながらチョコケーキを分けてくれました。


「えっ!?、良いの!?」


「ええ、いつもカリンちゃん頑張ってるから、今日くらいはご褒美を貰わないとね」


「ありがとう!母さん!」


 半分に分けられたケーキは苦く大人の味がしたのだが、それでも少し甘く感じたのは母の愛情のお陰だろうか?。

 どう考えても子供向けの味ではないが、これはこれで美味しい。

 さっきから美味しいしか言っていない気がするが、美味しいくらいしか私には表現する言葉が思いつかないので許してほしい。


「満足していただけましたか?、エルカ様」


 さっきのウェイトレスとは違う人が母さんに声をかけて来た。


「久しぶりメルラ、突然貴方から手紙が届いてきたからびっくりしたわよ」


「すみません、ようやく旅を終え帰ってきたものでして、貴方様とフォロス様にはお世話になりましたから、これはほんのお礼と思っています」


 礼儀正しい桜色の髪をした彼女は、パティシエのような服を着ていた。

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