第100話 公演

 まさか今日教会に泊まる事になるとは思わなかった。

 まあ、私が服を水浸しにしたことが事の始まりなので文句は言えない。


「うおーん!」


 急に変な叫び声を上げる子供達は、そこら中を寝巻きで駆け巡っている。


「だめだよ!もう寝る時間だから暴れちゃ」


 女の子が男の子達に声をかけても無駄なのを見るに、子供って元気だな〜と思う。

 それを見かねたヤヨイちゃんが手を鳴らして「ちゅうも〜く!」と叫んだ。

 皆彼女の方を向いて目を丸くしているので、可愛く思える。


「今日はカリンお姉ちゃんに来てもらっているので、せっかくだし何か魔法を見せて貰いましょう!」


(...はい...?)


 えええええええええ!!!!!〜〜〜。

 心臓がバックンバックン動き出し高鳴る。

 まさか人前で魔法を遊びで見せびらかす日が来るなんて思っても見なかったので少し緊張するが、子供達に溢れんばかりに期待の眼差しを送られているので断れるはずもない。

 最近覚えたばっかの魔法だが何もしなくては賢聖の名が廃る。

 私は目を閉じて子供達の前に立ち詠唱を始める。


(子供達が喜びそうな派手で面白い魔法...だったらあれかな...)


 私が選んだ魔法は...。


「綺麗...」


 子供達は口々にその言葉を発する。


「触って見る?」


 私がそう呟くと女の子はうなづきそれに触れてきた。


「冷たい!、けど可愛い!」


「ふふっ、だって氷でできてるからね」


 私が選んだ魔法は氷で、作ったのはリスの造形だ。


「ちょっと待っててね、こんなこともできるから」


 私は所々を炎で溶かし徐々に造形を変える事により、まるで生きているかのように氷を自在に操る。

 私の手際の良さに子供達は喜びの声を上げる。


「カリン姉ちゃんすごい!」


 これくらいの魔法で喜んでくれるとは...、やっぱり子供って単純だな!。

 そんな事を考えながら私は魔法を続け、ちょっとした劇のような物を展開してあげる。

 自分のオリジナル話だが、子供向けに改良し童話のよう仕上げて見た。

 これが割と好評で、子供達どころかヤヨイでさえも見入っている。

 今この場には私の劇場が出来上がっていた。

 氷の魔法でキャラを作り、私がそれに声を当てて命を吹き込む。

 物語が進むにつれて私自身も何かに取り憑かれたように気合が入る。

 こういう創作物を作っている時の私は普段とは違う顔になる。

 ラノベにハマった時から、私は物語を創造する事に興味が湧いていたので、自分で何度も作ろうとしたが、アクセス数は全く伸びず、結局自分には才能がないのだと自覚してしまうだけだった。

 だが、今だけは違う。

 目の前にいる人たちは私の紡ぐ物語をちゃんと聞いてくれている。

 それが創作者にとってとてつもなく嬉しいことだと子供達は気がついてるのだろうか?。

 1番創作者にとって辛いこととは、誰にも見向きもされずただ消え去る事なのだ。

 たかが1人、されど1人、その1人が積み重なり人気タイトルが生まれるのだと私は思う。

 私の物語を真剣に聞いてくれる子供達を見ていると、不思議と創作意欲が増してくる。


(...、なに...この感じ...とても...楽しい!)


 私はいつの間にか笑顔を見せていた。

 最初は嫌々やっていたはずなのに、今、私は自分の意思でこの話を作り続けていた。

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