　私はソファに寝そべり本を読んでいたのだが、ゆっくりと本から目をそらした。

　窓の外を見て見ると、夕日も陰り切ってしまっていて夜の顔を覗かせている。

「エルカのやつ...遅いな...」

　私は時計を静かに見ると、もう夜の8時を過ぎているのに一向に帰ってくる気配がないなと思った。

「...」

　少し心配になる。

　彼女の実力は知っているが、やはり奥さんの安否は夫ならば心配になって当然だということだろう。

　私が重い腰を上げようとした瞬間、彼女から直接脳内に念話が届いた。

「この感じ...、エルカか？」

「は〜い！あなたのエルカですよ〜」

「...」

　相変わらずの様子に少し安心するが、やはりその年でこのキャピキャピ感のある喋り方は自重して欲しくはある。

「で、どうしたんだこんな時間に、もしかして何かあったのか？」

　私は眉を潜めながら彼女との念話を続ける。

　念話とは高位の魔法使いが行える魔術のことで、平たく言えば電話の様な物である。

　どんなに遠くとも一度繋がって仕舞えば会話ができるのだ(かけた術者のみコールが可能というデメリットを除けば非常に優秀な魔法である)。

「実はね、カリンちゃんが食事中に水を撒いちゃってずぶ濡れになっちゃったの...、それで今教会のお風呂でのんびりして行こうと思っているから、今日の晩御飯作れなくなっちゃったのごめんなさい」

　彼女の謝る声を聞いた私はため息を吐いた。

「そんなことか、飯なら大丈夫だ、作ってもらえないなら自分で作れば良いだろう？」

「...せっかく家族が揃っていられる貴重な時間なのにごめんなさいね...あなた...」

　私は笑って返す。

「ふっ...、子供でもあるまいし、今更そんなことを心配されるとはな...」

　数秒相手から寂しそうな声で彼女は呟いた。

「ごめんなさい...、明日はあなたの好きな物を用意するわね！」

「ああ、楽しみにしてるよ」

　彼女との念話はここで途切れた。

　私はぐぐ〜っと体を伸ばして厨房に向かった。

「久しぶりに自分で作るか...」

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