第8話 先生と授業

「はーい!、全員注もーく!!」


 先生が入ってくると、皆自分の席に着いた。

 先生は何事もなかったかのように教卓を元の位置に直している。

 このくらいは日常茶飯事なのだろうか?

 私は自分の席がわからずに慌てふためいていると、ヤヨイが指をさして席の場所を教えてくれた。

 彼女のお陰で恥をかかずに済みそうだ。

 全員が座り終えると、先生は口を開く。


「今日から、カリンさんが登校してきていますが、まだまだ病み上がりの様子...、皆さん!優しく接してあげるのですよ!」


 先生からそう言って貰えると助かる。

 これなら、少なくとも今日1日は楽ができるだろう。


「それではカリンさん、朝の会の号令を」


「はい?」


 前言撤回、いきなり意味不明の単語が出てきた。


(号令って何!?、起立、礼、着席、的ななにか!?)


「え...えーと...」


「どうかしましたか?」


 先生が私を疑わしく見てくるが、本当にわからないのでどうしようもない。

 私の様子を見かねたのか、前の席の人物が手を挙げた。


「先生!、カリンさんはどうやら記憶障害にあっているようなので、ここは僕が号令をさせてもらいます」


 フレイ君が私に助け舟を出してくれたので、心の中でお礼を言う。


「今から、1時間目の国語の勉強を始めます、礼!」


(思ったより普通!!、てか日本と変わらんやん!!)


 ツッコミどころが満載で、ここが異世界だと言うことを忘れてしまう。

 そして、何事もなかったかのように授業が始まる。


「ではみなさん、アイテム欄から国語の教科書を出してください」


 (はっ!?、アイテム欄って何!!?、いきなり異世界感出ちゃったよ!)


 私があたふたしていると、隣の席のヤヨイちゃんが丁寧に教えてくれたので、なんとかアイテム欄?とやらの使い方がわかった。

 ゲームのメニュー画面のような物をイメージするとウィンドウのような物が出現する。

 そしてそこからアイテムと書かれた部分に意識を集中させるとアイテム欄が開かれる。

 そこから国語の教科書を選ぶと、突然目の前に教科書が出てきたのでびっくりした。

 皆カバンも持たずにどうやって教科書を持ってきているのかの謎が解けた。

 私が教科書を開いていると、すでに授業は始まっているようだった。

 授業は基本的に日本にいた時と変わらない退屈なものだ。

 先生が黒板に書いたものをノートの写す作業。

 つまらないが、ちゃんと聞かなくてはいけない、私にとっては重要な情報の塊なのだから。

 ただ、小学生低学年レベルの基礎的な授業のようで、異世界人の私にもなんとか理解できる。

 むしろ子供に転生できてよかったと思えた。

 大人に転生して、いきなり文字も読めない所からスタートしたら速攻で詰んでいただろう。

 子供時代からの再スタートなので、どちらかというと転生といよりも、やり直しと言った方がしっくりくる。

 とはいえ、前世でも私は中3なので、充分子供なのだが...。

 授業の時間も日本のそれと遜色ない。

 本当に異世界なのかと少し不安になる...。

 1時間目が終わると10分の休息を挟んで次の授業。


「え〜と...、次は...、科目魔法...?」


 いきなり異世界感を出してくるので、本当に疲れる。

 とりあえず皆体操着に着替えているのだが、男子の前で下着姿など見せられるはずもなく、自分だけはトイレで着替えることにした。

 今思えば、子供のころは平気で裸になっていたなと思う。

 残念ながら、子供とはいえ自分の胸や下着を見られるのは恥ずかしい。

 大人になるってことは羞恥を覚えることでもあるのだなと、この時ばかりはしみじみ思った。

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