そして僕は君と共に

ぽいふる

プロローグ

 高校生活にも慣れ、新しいクラスやこれから起こるであろう様々な出来事に胸を躍らせる高校二年の春。その始業式の朝、俺は集合場所である自宅から数分ほど歩いた公園のベンチに腰掛けて、近くに咲いてある桜を見ながら友達の大野博光を待っていた。博は高校に入ってすぐに仲良くなり、この一年間のほとんどを共に過ごしていた仲で、気は早いかもしれないが親友と言っても過言ではないのではないかと思っている。

 ベンチに座ってから五分程が経った頃、遅れて博が公園に入ってくるのが見えた。そして公園に入ってきた博は俺に気が付いたのか、手を振りながら近づいてくる。

「よーっす紘!久しぶり!」

「よっす博!ってか、つい一昨日遊んだばっかだろっ!」

 俺は椅子から立ち上がり、ハイタッチして博を出迎える。博は叩かれた手をさすりハニカミながら俺の手荒い出迎えを受け入れた。

「へへっまーな!でも春休みほとんど部活だったから、なんとなく久しぶりに紘と会った感覚になっちまってな!」

「なーに言ってんだよ!ほらっ学校行くぞー」

「おう!って待てよ紘ー!」

 おちゃらけた感じに博の言葉を受け流した後、俺は公園を飛び出し学校に向かって走りだした。


 俺と博、世間話をしながら二人並んで学校の門をくぐると、まずは下駄箱前に張られているクラス名簿の確認をするため、そこに向かった。

「おー集まってる集まってる。今年も同じクラスだといいな紘」

「そうだねー。同じクラスだと俺もすごく嬉しいけどねー」

 そんな会話をしながら向かっていると、自分のクラスを確認するがために普段は止まることがない下駄箱の前に本校の生徒達が群がっているのが目に入ってきた。その中は喜びや悲しみの声で溢れかえっている。

 個人的には去年のほとんどを博と過ごしていたせいで、友達があまりいないから博と同じクラスだとすごくありがたいんだけど…。

 俺達はそんな人達の中を通り抜けて掲示板の前にたどり着くとお互いの名前を探す。俺の苗字は結城なので各組の後ろの方から見ていく。逆に博は大野なので上から見ていることだろう。

「お、俺のあった。3組だ」

「まじ!?俺も三組だった!」

 俺達は顔を見合わせ「いえーい!」と言いながら両手でハイタッチをした。

 どうやら俺の名前はクラスの一番後ろにあり、博は7番目ぐらいにあったみたいなので、秒の差で俺の方が先に見つけることが出来たみたいだ。

 俺は元々他にも、少なからず前のクラスの知り合いとかも探すことも考えたが、俺には博が同じクラスだとわかって安心したので、探すのをやめ下駄箱へと歩き出した。

「それじゃあ行くかー」

「おーう…他のやつ誰いるか見なくていいんか?」

「まあなーどうせこれからわかるからいいっしょ」

「ふーん。っそ、紘がそういうなら行くかー」

「なんだよその意味深な言い方ー!」

「まあまあ、いずれわかるよー」

 博は何か隠しているような感じにしていたが、俺は気にしないで歩き出した。博はあまり嘘をつかないタイプなので、どうせいずれわかることだと思ったからだ。


 クラスにつき自分の席に鞄を置いてから、博の席で世間話をしていると、前のドアが開いて担当の先生が入ってきた。

「はーい席についてー。ホームルーム始めるわよー」

 そう号令をかけると各々自分の席へと戻っていく。かくいう俺も博と「またな」っと一言だけ告げて自分の席へと戻る。

 席に着いてから先生が誰なのか見ると、日本史の須藤先生だった。須藤先生は去年、俺のクラスで日本史を担当していたため俺にとっては馴染みのある先生だった。年齢も若くお淑やかな感じなので、生徒のみんなには相談しやすいお姉さん的立ち位置にいて、女子からの人気が高い。それに、スタイルもいいので俺達男子からも密かに人気がある先生だ。

「それじゃあまずは、みなさん進級おめでとうございます。この一年で高校生活にも慣れて気が緩んでしまっているかもしれないけれど、羽目を外しすぎないようにねー。それに来年には受験も控えているのだから勉強は怠らないこと」

 須藤先生は真剣な顔をして、みんなの浮かれている心に釘を刺してくる。でも柔らかそうな見た目に反して真面目なところがある先生なので、誰もみんな不思議に思っている雰囲気ではなかった。

「でーも…。高校二年生は高校生活の中でも一番思い出に残りやすい一年です。あなた達にはこれから体育祭やら文化祭、それに高校生活のメインともいってもいい修学旅行が待っています。ですので、これから先生と一緒に定期テストなど気を引き締めて頑張る時は頑張って、修学旅行などのイベント事は心の底から楽しみましょう!一年間よろしくお願いします」

 須藤先生がお辞儀をすると、クラス全員が拍手をした。それは先生の言葉にみんなが賛同したことを証明していた。俺もその一人で、先生の言葉には頷ける部分しかなく、担当の先生がこの先生で良かったなと思えた。

 そして須藤先生は顔を上げると、みんな拍手を止める。

「それじゃあ自己紹介に移りましょうか」

 そう言うと先生は黒板の方に体を変え、須藤有希と漢字で黒板に自分の名前を書き終えると体を俺達の方に戻す。

「まず私から。須藤有希と言います。私のことは普通に須藤先生と呼んでくれると嬉しいです。担当は日本史で、戦国時代が一番好きかな。趣味は読書で、最近は太宰治の本をよく読んでます。他に先生のことで知りたいことがあるなら後で個別に聞きに来てね。あーあとそれから、私は基本的に授業の時以外は職員室にいるから、何か用事があったら職員室にきてね。改めて一年間よろしくお願いします」

 先生が再度頭を下げると、クラスのみんなが拍手をする。それが鳴りやむ前に先生は頭をあげて、出席番号一番の子の方を見る。

「それじゃあ出席番号1番の人から自己紹介いきましょうか。とりあえず、名前と趣味と出身中学とかかな。後は自由に言いたいこと言ってもらって、最後にクラスのみんなに一言加えて終わりって感じで」

 拍手が鳴りやんでから、一番の子の方を見ながら須藤先生はその子に向かってそう言った。そして出席表をチラ見してもう一回その子を見る。

「じゃあ青木裕君からよろしくね」

 そう須藤先生が言うと、一番の青木君が席を経って自己紹介を始めた。


 それから順番に自己紹介していく中、俺は出席番号が一番最後で窓際の一番後ろの席なので、みんなの自己紹介を窓の外の景色を見ながら聞き流していた。ここからの景色は非常に良くて、手前には満開の桜が視界に捉えながら、奥には自分たちが住んでいる町が広がっていて車が通ったり、通行人がいたりなど移り行く景色に飽きがなく、見ていてすごく楽しい席だった。

 外の景色を楽しんでいると、博の自己紹介が始まったので博の方をチラ見した瞬間、隣の子がびっくりした感じに博の方を見たのを視界の端に捉えた。もしかして博の知り合いか誰かなのかだろうか?っと思ったが気にせず、視線を外に戻し博の自己紹介を窓の外の景色を見ながら聞くことにした。

 その後、俺はとある人が自己紹介を始めた瞬間びっくりして視線を空からその子の方へと移した。その人の名前は柏木茜さん。俺が去年の文化祭で一目惚れした女の子だった。まさかあの子が同じクラスだと思ってなかった…。もしかして博がさっきクラス名簿見なくていいのか?って言ってたのはこのことだったのか!

 そう思い博の方を見るとこっちの方を見てニヤッとしていた。く、くそう!完全にやられた!博にあの時テンション上がって言わなければ良かった…!

 俺は後悔しながらも彼女の自己紹介はしっかり聞くことにした。博には後でいじられるだろうけど、そんなことはあとだ。今はひとまず彼女の自己紹介を聞こう。

「柏木茜です。えーっと、出身中学は大槻中です。趣味は先生と同じになってしまうのですが読書で、特に推理ものを好んで読んでます。部活は文芸部に所属していて、委員会は図書委員に所属しています。えーっとあとはみんなに一言…でしたね。そうですね…。これからご迷惑をおかけすることもあると思いますが、一年間よろしくお願いいたします」

 柏木さんがお辞儀すると、クラスメイトの拍手の音とざわめき声が教室内にこだました。柏木さんはそんな中、顔をあげ席に座る。そして次の人が席を立ち自己紹介を始めた。

 そりゃあ柏木さんは昨年の文化祭で一躍有名人になってしまったのだからこのざわめき声もわかる。元々柏木さんはあの一言に加え、頭もよく、学年で毎回TOP20には安定して名を連ね、普段は眼鏡をしていて文学少女みたいな雰囲気で、知る人ぞ知る人物だった。だが、文化祭の自由演目の中に去年はピアノ演奏会というものがあり、柏木さんはそこに参加していた。その時の柏木さんの姿は普段とはかけ離れていて、ドレスを着用し、眼鏡も外し化粧も施されていて、素直に綺麗だなと思った。俺はそのギャップに一目惚れしてしまったのもあるが、一番の理由は多分昔初恋だった幼馴染の子の演奏している姿と重なって、綺麗な中にかっこよさを感じたからだ。今思い出すだけでも頬が火照ってしまう。それぐらい彼女は美しくかっこよかった。

 柏木さんの自己紹介が終わり、また外の景色を見ながら文化祭の柏木さんの演奏を思い出したり、昔の幼馴染の子の演奏を思い出したりしていると、俺の耳に懐かしい名前が聞こえてきた。俺はその名前を一瞬聞き間違えたのかなと思って、先生の方を見ると、俺の隣の子が席を立ったので視線を隣の子に移す。するとそこには…。かつての幼馴染で、俺の初恋だった三城彩華がいた。

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