第519話 真祖たちとの休日

「・・・・・・」

 真夏が九条探偵事務所を訪れた翌日。午後3時過ぎ。影人は河川敷にいた。そして、ベンチに座りながら、ぼぅっと何とはなしに川を見つめていた。今日は休日なので学校はない。ゆえに、影人はサボってただ川を見つめているわけではなかった。

(川の流れを見てると無心に近くなれるな・・・・・・)

 完全な無心は冥ですらなれないようなので、冥よりも遥かに精神の鍛錬が足りていない影人は、あくまで無心に近づくのが限界だろう。

「・・・・・・まあ、かと言って無心になりたいわけでもないんだがな」

 影人が漏らした呟きは川の流れる音に溶けるように消えていった。確かに、日々の生活に追われて考えるのが嫌になる時はある。というか、ほとんど毎日だ。影人は面倒くさがり屋なので、基本的に思考する事すら面倒と思うタイプだ。そういう意味では、やはり無心になりたくてここに来たのかもしれない。もしくは、以前この場所で響斬に指摘されたように、無意識に悩んでいるか。

 ただ、悩んでいる事を自覚して、無心になる事を目的として、意識的にここに来たわけではない。影人が今日ここに来たのは天気がいいからだ。夏と冬以外の天気がいい日の休日は、たまにここに来て少しばかり昼寝をする。それが影人の習慣のようなものになっていた。つまり、影人は意識的にはここに昼寝をしに来たのだった。

「・・・・・・ふぅ」

 影人は腕を枕にしてベンチに横になった。前髪の隙間からは青い空と薄い白い雲が見える。慣れ親しんだ光景だが、やはり素直に綺麗なものだ。

「影人影人、そのままだと寝にくいだろう。吾が膝枕をしてやるぞ」

「いらねえ。余計寝にくいわ」

 寝転がった影人の視界内に幽霊状態の零無がひょこっと入って来る。ニコニコ顔でそう提案して来る零無に、しかし影人は秒で却下の答えを返した。零無は「ちぇ」と悲しそうに口をとんがらせた。

(こんなに天気がいいのに、明日の予報は雨。当たり前だが、改めて天気ってやつは不可思議だな・・・・・・っていうか、明日バイトじゃねえか。って事は、雨の中事務所に行かなくちゃならないのか・・・・・・ダルっ・・・・・・)

 雨が嫌いというわけではないが、色々と面倒は増える。せめて、明日は外に出る仕事がない事を祈ろう。影人はそんな事を考えながら、前髪の下の両の目をゆっくりと閉じた。

「・・・・・・」

 暗闇の中、川の流れる音、風が草を揺らす音、車が走る音、その他様々な音が影人の耳を打つ。零無もナナシレも、あのイヴも影人に気を遣ってか何も語りかけてはこない。影人は暗闇に響く音をBGMとしながら、徐々に意識を闇の奥底へと沈ませていった。

「――影人」

 それからどれくらいの時間が経ったのだろう。影人は自分の名を呼ぶ声が降って来るのを聞いた。

「ん・・・・・・?」

 その声が影人の意識を暗闇から引き上げる。影人はゆっくりと瞼を開く。最初はぼんやりとして、あまりはっきり見えなかったが、やがて自分を見下ろす少女の顔が目に入った。

「・・・・・・嬢ちゃん?」

「ええ。こんにちは。そして、おはようと言うべきかしら」

 影人が少女に対してそう呼ぶと、少女はにこりと微笑んだ。影人はゆっくりと上半身を起こした。

 歳の頃は見たところ、14〜15歳くらいだろうか。ブロンドの髪を緩くツインテールに結んだ、作り物のように美しい少女だ。纏っている豪奢なゴシック服と相まって、精緻な西洋人形を思わせる。美しく、可愛らしく、愛らしい。そして、どこか妖艶さも感じさせる。少女、いや正確には少女の見た目をしたモノの正体は吸血鬼、その真祖だ。その名をシェルディアと言った。

「おい吸血鬼。貴様はどこまで無神経なんだ。せっかく影人が気持ちよく寝ていたのに、それを起こすとは。貴様には影人に対する思いやりが足りん。影人もこんな失礼で思いやりがない女は嫌だよな?」

「まさかあなたに思いやりを説かれるとは思わなかったわ。あと普通に考えれば、四六時中付き纏って来る情緒不安定な女の方が嫌だと思うのだけれど。ねえ、影人?」

「いや、急にそんなこと聞かれても・・・・・・」

 零無とシェルディアに顔を向けられた影人は困ったような顔になり答えに窮す。寝起きの問いかけにしては中々にというか、かなりハードな問いかけである。

 ちなみに、零無とシェルディアの会話が成立しているのは零無がチャンネルをシェルディアに合わせたためだ。普段の幽霊状態――チャンネルを誰にも合わせていない無調整状態――の零無は、基本的には零無の魂のカケラを内に持つ影人、影人と同化、ほとんど一体化しているイヴやナナシレ、もしくは零無と魂の格が同等の者くらいしか知覚できない。そして、シェルディアはそのいずれでもなかった。

「ま、まあその話は置いといてだ。嬢ちゃんは何でこんな場所に? もしかして、俺に何か用でもあったのか?」

「いいえ。あなたと出会ったのはたまたまよ。散歩をしていたら、たまたまお昼寝をしているあなたの姿が目に入ったものだから。ふふっ、素敵な出会いよね。こういうの、運命って言うのかしら。あなたと私は離れていても引き合い、引かれ合うのかもしれないわね」

 シェルディアはパチリとウインクをし、小悪魔っぽく笑う。影人は思わずドキリとした。

「い、いやそんな大それたものじゃないと思うけど・・・・・・やっぱり、あくまで偶然じゃないかな。それに、俺なんかが嬢ちゃんと引かれ合うなんて烏滸がましいし・・・・・・釣り合うわけもないし・・・・・・」

「は? 影人の運命の相手は吾に決まっているだろう。そんな事も分からないのか?」

 影人は少し恥ずかしそうに――しかし、しっかりとシェルディアの言葉を否定し――パタパタと軽く両手を振った。零無は眼光だけで人を殺せそうなほどに鋭い目でシェルディアを睨みつけた。

「あら、誰が私と釣り合うかは私が決める事よ」

 シェルディアは零無の殺人的な視線を涼しい顔で受け流し、影人の隣に腰を下ろした。

「最近はどうかしら。学校だとか、アルバイトとかは」

「どうって・・・・・・別に何もないよ。学校は何とか無事に進級できたし。ああ、でも朝宮とか月下が卒業したから、理想の静かな学校生活が送れてるかな。アルバイトの方も・・・・・・まあ特に。大変な時もあるけど、まあ楽しいよ」

 シェルディアの問いかけ、というほどでもないだろうが、言葉に影人はそう答えた。

 ちなみに、シェルディアの言葉からも分かる通り、シェルディアは既に影人がアルバイトをしている事を知っている。バレンタインのお返しをする時に白状したのだ。影人が探偵事務所で非日常な出来事も関わるアルバイトをしていると聞いたシェルディアは「何だかあなたにピッタリな仕事ね」と笑っていた。影人が非日常に関わる仕事をしているのは以前からなので、特に何を言われるわけでもなかった。ただ、アルバイトのせいで以前よりも会ったりできる時間が減ると聞いた時だけは、シェルディアはかなり不満そうな顔をしていた。

 そして、これもちなみにではあるが、影人の知り合い――例えば、陽華や明夜、暁理や光司、イズやロゼ、ソニア――といった者たちも、影人がどんなアルバイトをしているか知っている。主に真夏や風音経由だ。バレンタインのお返しが完了した時点で時効だろうと主に真夏が周囲に吹聴したのだ。おかげで、知り合いたちに色々と聞かれて説明する事になった。

「そう。それはよかったわ」

「・・・・・・逆に聞くけど、嬢ちゃんは? 最近どんな感じなんだ?」

「私? 私も特に変わりはないわね。朝起きて、キベリアやキトナ、イズやあなたがくれたあの子もいて。そして、あなたがいて。他の様々な子たちがいて。気ままに、楽しく1日を過ごしているわ。そして、眠ってまたそんな日を繰り返す」

「・・・・・・退屈、じゃないのか? 嬢ちゃんは元々退屈を嫌って・・・・・・刺激を求めてこっちの世界に来たんだろ。変化の少ない日々は嬢ちゃんが望むものではないんじゃないか?」

 悠久の時を生きてきたシェルディアは常に面白い事、興味深い事を求めている。そんなシェルディアにとってここ最近の日々は物足りなくはないのか。

「ふふっ、そうね。確かに、最近は平和だから少しばかり退屈ね。・・・・・・でも、それ以上に私は今の日々が愛しいわ。退屈を感じる心よりも愛しいと思う心の方が上回っているから、私は今のままで満足しているわ」

 シェルディアは影人に向かって笑みを浮かべた。影人は一瞬意外そうな顔になったが、やがて自分も小さく笑った。

「・・・・・・そうか。何ていうか、大人な考えだな。正直意外だよ」

「あら。それはどういう意味かしら。影人、あなた私の事を子供っぽいと思っていたの?」

「い、いやそんな事はないから!? 誤解だよ!」

 シェルディアはニコニコと変わらず笑顔を浮かべていたが、目というか雰囲気は明らかに笑っていなかった。影人はヤバっという顔になると、ぶんぶんと首を横に振った。

「冗談よ。ねえ影人。あなた、この後予定はある? もしなかったら私と一緒に『しえら』に行かない? もちろん、私の奢りよ。何せ、私は大人だから」

「ご、ごめんって・・・・・・」

 明らかに先ほどの影人の言葉に対する意趣返しの言葉を述べるシェルディアに、影人は謝罪の言葉を口にした。こういうところが子供っぽい、と言ったら恐らく影人は3度目の死を迎える事になるだろう。

「でも、『しえら』か・・・・・・そうだな。分かったよ嬢ちゃん。小腹も空いたし、俺も一緒に行く。ただ、奢ってもらわなくても大丈夫だ。俺もバイトをし始めて、前よりは少しだけ金銭に余裕が出来たからさ」

「私がいいと言っているんだから素直に甘えなさいな。嫌味に聞こえるかもしれないけど、お金には困っていないから。私が誘ったのだから、私に出させてちょうだい」

「嬢ちゃんほどの超金持ちが言うと説得力が違うな・・・・・・分かったよ。今日は素直にゴチになります」

「よろしい。じゃあ、行きましょうか。『しえら』はここからそれほど遠くはないから、歩いていきましょう」

 シェルディアがベンチから立ち上がり、スッと影人に手を差し出してくる。影人もシェルディアの手を掴み立ち上がった。

「ふふっ」

 そして、シェルディアはそのまま影人の腕と自分の腕を絡めた。

「なっ!? じょ、嬢ちゃん!?」

「おい吸血鬼! 貴様いったい何をしているんだ!? うらやまけしからん! 今すぐに影人から離れろ! じゃなきゃ殺す!」

 突然シェルディアに腕を組まれた影人はドギマギとし、零無はシェルディアにストレートな殺意を向けた。しかし、シェルディアは零無を無視し影人にこう言った。

「影人、『しえら』までエスコートをお願いね。私が奢るんだから、これくらいは安いものでしょ?」

「いや、見返りを求められるなんて聞いてないけど・・・・・・はぁ、分かったよ。エスコートさせていただきます。お嬢様」

「ええ、お願い」

「クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソが。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

 こうなったシェルディアを引き剥がす事は難しい、というかほとんど不可能な事を影人は過去の経験から知っている。そして、腕力的な意味でも。影人は諦めたように息を吐くと、シェルディアにそう言った。シェルディアは満足そうに頷いた。そんな2人を見た零無は爪を噛みながら、主にシェルディアに呪詛の言葉を吐いていた。

 こうして、影人とシェルディアは馴染みの喫茶店を目指し歩き始めた。













「こんにちは」

 約数十分後。影人とシェルディアは街中にある古い外装の煉瓦造りが特徴的な喫茶店「しえら」に辿り着いた。「しえら」のドアを開けた影人は挨拶の言葉を述べる。

「・・・・・・いらっしゃい」

「よく来たな。この俺様がもてなして・・・・・・何だ影人と貴様か。シェルディア」

 影人とシェルディアが入店すると、カウンター内に佇んでいた女性と男性が影人たちに顔を向けてきた。女性は見た目が20代半ばほどで、濡れるような長い黒髪に全く日に焼けていない白い肌が特徴的だった。あくまで印象だが、薄幸の美人という言葉がピッタリな気がする。

 男性の方は影人と同じくらいの年齢に見える。艶のあるダークレッドの髪に、同じくダークレッドの瞳が特徴的だ。

 2人ともシェルディアと同じくらい顔が整っている。女性の名はこの喫茶店と同じ名であるシエラ。この店の店主だ。男性の名はシス。この店のアルバイトである。2人ともシェルディアと同じ吸血鬼、その真祖だ。

「何だとはご挨拶ね。シエラ、このバイト態度が悪いわ。クビにしてちょうだい」

「ん。シス、クビ」

「おいシエラ! ふざけるな! そんなヌルッとこの俺様をクビにするな!」

 流れるような店主からのクビ宣告に俺様系アルバイトは抗議の声を上げる。もはやお馴染みの真祖3人による漫才だ。まあ、3人は漫才とは全く認識していないだろうが。

「珍しいですね。休日に誰もいないなんて」

「今は中継ぎの時間みたいなものだから。多分、また夕方くらいから忙しくなる。どこでも適当に座って。シス、お水とおしぼり」

「分かっている」

 影人とシェルディアはカウンターに腰掛けた。すると、シスが慣れた仕草でピッチャーを持ち、コップに水を入れる。そして、影人とシェルディアの前に水とおしぼりが出された。

「私はレモンティーと今日のケーキをお願い。影人、あなたは?」

「あー、じゃあバナナジュースとナポリタンをお願いします」

「ん。分かった」

 常連のシェルディアと影人はメニュー見ず、すぐにオーダーを出した。シエラは頷くと、早速注文に取り掛かった。

「おい影人。最近はどうだ? 何か面白い事はないのか?」

「どうって・・・・・・さっき嬢ちゃんにも聞かれたが別に普通だ。お前が言う面白い事がどんな事なのかは分からんが・・・・・・多分ない」

 シスがバナナジュースを影人の前に置く。影人はバナナジュースを受け取ると、そう言ってバナナジュースをストローで啜った。バナナジュースは相変わらず美味かった。

「凡夫のようにつまらん答えだな。貴様は歩く破滅であり混沌だろう。敵の1人や2人、事件くらい呼び寄せてみせろ」

「いや、普通に意味が分からないんだが・・・・・・別に俺は普通の人間だし、面倒な事は望んでない。今のままで十分なんだよ」

「ふふっ、それはどうかしらね」

「・・・・・・私もそれなりの時間こっちにいるけど、君は普通の人間じゃないと思う。普通の人間は多分死んでも生き返らないし、私たち3人を滅する力を持ってないと思うから」

 影人の答えを聞いたシェルディアはくすくすと笑い、シエラもナポリタンの具材を刻みながらそんな感想を漏らす。影人は「うっ・・・・・・」と言葉に詰まった。

 それから、少ししてシェルディアのレモンティーが到着し、やがて影人のナポリタンも出てきた。影人は久しぶりにシエラの作るナポリタンを食べたが、やはり絶品だった。

「っと、もうこんな時間か・・・・・・」

 スマホで何となく時間を確認した影人は意外そうな声でそう呟いた。現在の時刻は午後6時前。ここに来たのが午後4時過ぎなので。およそ、2時間も滞在していた事になる。ついつい真祖3人と喋り過ぎたか。店内も知り合いこそ訪れていないものの、徐々にお客が増え始めている。これ以上滞在するのはシエラやシスの負担になるだろう。

「ふふっ、ついつい長居し過ぎたわね。そろそろ帰りましょうか。シエラ、お勘定」

「ん。分かった」

 シェルディアも同じ事を考えたのだろう。シェルディアは周囲の客に気づかれないように影から財布を取り出すと、自分と影人の分の支払いを済ませた。そして、2人(と零無)は賑やかになりつつあった「しえら」を出た。

「ありがとう。ご馳走様でした」

「どういたしまして」

 外は橙色の光が照らす世界だった。つまりは夕方だ。影人とシェルディアは横並びに歩き、帰路に着く。

「ああ、今日も楽しかったわ。あなたと一緒に居て、美味しいお茶を飲んで、談笑して。まあ、シスがいたのは気に食わないけど」

「嬢ちゃんとシスの仲の悪さは相変わらずだな・・・・・・でも、俺も楽しかったよ。改めて、お茶に誘ってくれてありがとう嬢ちゃん」

 影人は頬を緩めシェルディアへ感謝の言葉を述べた。それは本心からの言葉だった。今日シェルディアと出会っていなければ、お茶に誘ってもらわなければ、退屈ではないだろうがいつも通りの、1人の休日を過ごしていた。それも悪くはないし嫌いでは決してないが、今日は誰かとゆっくりと談笑する方が楽しかった、良かったと思える日だった。

「そう。ならよかったわ。素直なあなたはいいあなたよ影人。後でよしよししてあげるわ」

「いや、悪いけどそれは遠慮するよ・・・・・・そうだ。嬢ちゃん。せっかくだから・・・・・・」

 影人が言葉を紡ごうとした時、


「・・・・・・」


 ふと影人の視界――より正確に言えば、右端――に黒い人影のような物が映った。いや、映った気がした。影人は反射的にその影が映った場所、家と家の間にある細い路地に顔を向けた。

 だが、そこには何もなかった。あるのはただ夕焼けに照らされた、どこかノスタルジーを感じさせる路地だけだった。

「? どうしたの影人?」

「っ・・・・・・ああ、いや何でもない。ちょっと影が通った気がして・・・・・・それで、さっきの言葉の続きだけど、よかったら今日俺の家でご飯を食べて行かないか? 母さんと穂乃影も嬢ちゃんならいつでも大歓迎だしさ」

「まあ! それは素敵な提案だわ。そうね。最近あなたの家でご飯を食べていないし、せっかくだからご馳走になろうかしら。帰ったらキトナたちには今日は夕食を外すように言わなくちゃね」

「ああそっか。キトナさんにキベリアさん、それにイズもいたな。でも、流石に今日いきなりだとキャパオーバーになるから、悪いけどやっぱり今回は嬢ちゃん1人って事で」

「気にしないで。あの子たちはそれくらいでヘソを曲げるような子たちじゃないから。ふふっ、本当に今日は楽しいわ」

「ははっ、そうだな」

「ちっ、何が楽しいだ」

 見るからに機嫌が良さそうに笑うシェルディア。そんなシェルディアを見て、影人も釣られたように笑う。まあ、零無だけは死ぬほど気分が悪そうだったが。


「・・・・・・」

 しかし、誰1人として気づかなかった。そんな3人を建物の影から見つめる人影に。

「・・・・・・ぁ」

 その人影に顔はなかった。あるのはただのぼんやりとした闇だけ。言うなれば、真黒なのっぺらぼうだ。

 だが、その人影は確かに、確かに笑っていた。

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