13
今夜、もう一度あの鉄道に乗ることができるのです。鞄を開けようとして、
(僕がいなくなったらお母さん、お父さん、それにお姉さんはとても悲しむだろうか)
とジョバンニは少しだけ躊躇しました。みんなの笑顔を思うとすんと胸の奥がひんやりとします。ジョバンニが一生懸命に勉強して大学の先生となったことをみんな大変誇らしく思ってくれました。
(最近はお母さんの体の調子も良く、お父さんももう遠くへ行くことがないはずだ。お姉さんの小さな子供たちもいるし、きっとお母さんも僕がいくことをわかってくれるはずだ)
ジョバンニはなんだかどこかに、とても大切なものを忘れたような気持ちがして心の奥の方にしまわれた何かをよく見ようとしましたが、しらしらと輝く天の河のひかりをみあげると、少しだけ寂しいような口もとをして大きく息を吐いて心を決めました。そうすると、野原のそらの一部にぼんやりとした白い靄のようなものがあらわれ、徐々に三角標を形作っていきます。
もう時間がありません。あの銀河を走る鉄道がもうすぐそこまで迫っているのです。月長石のあかりをめざしてすぐにでもここを訪れてくれるでしょう
※※
「逃げる必要なんてもうないよ」
そう言って、少年は思い出したようにちょっと笑った。
「あんたが家を飛び出した時、みんなあたふたしてた。きっと帰ったら、腫れ物を触るように扱ってくれるから」
少年が空を見上げる。一呼吸を置いて少年が続ける。
「好きなように生きればいいじゃん」
色とりどりの花火が空に輝いた。その時、沙希が思っていたのとは違う物語が現れた。
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