第15話

「兄様!ご無事だったのですね!?」

マリアがアルスたちに駆け寄ろうとした時・・・。

「危ない!」

シルビアがマリアに体当たりをするように飛びついた。

「えっ・・・!?」

マリアはシルビアの体当たりになすすべなく倒れる。

「一体何を・・・。」

シルビアに何か言おうとしたマリアは言葉を飲み込む。

さっきまでマリアが立っていた場所は炎で焼かれたように煤まみれになっていた。

「お兄様・・・?」

マリアは信じられないものを見るようにアルスを見る。

その手には剣が握られていた。

「アルス!?君は何を・・・!」

そう言う僕をアルスは見る。

「!?」

その目を見て僕は驚きで言葉を失う。

目の焦点が合っていないのだ。

「主様、様子がおかしいです・・・。」

シルビアはマリアを助け起こしながら僕に言う。

「・・・どうやら、彼らは操られているみたいだな。」

コウさんが警戒心をあらわにいう。

その声に同調してソーマさんとカーラさんも剣を抜く。

「ショウマ殿・・・。彼らは貴方より強いのか?」

「・・・うん。」

僕は戦闘訓練を受けたわけではない一般人だ。

さっきの人形の場合、動きが単調だったので何とかなったがアルスたちが相手となると話は別だ。

アルスたちはちゃんと戦闘訓練を受けている。

ソーマさん達に至ってはヴァルコイネンでも指折りの騎士だったという話だ。

到底勝ち目があるように思えない。

「・・・でも、方法がないわけじゃない。」

僕は魔力を高める。

すると、僕の手に銀の魔力が集まる。

破魔魔法。

どんな魔法でも打ち消すことが出来る魔法。

これを使えば、皆の洗脳は解けるかもしれない。

「問題は触れることが出来るかどうかだけど・・・。」

身体能力、技術どちらも彼らに劣っている僕に攻撃を当てることが出来るかどうか・・・。

「・・・当てる?」

そうだ。

別に僕自身が彼らに攻撃を当てる必要はないんだ。

「なら・・・!」

僕は盾を構えて突撃する。

「ショウマ!?」

マリアが驚いたように叫ぶが振り返らない。

突っ込んできた僕に獣人族のハーフであるカーラさんが剣を振りあげながら突っ込んでくる。

(あとは、度胸とタイミング!)

僕はカーラさんが剣を振り下ろすタイミングで盾を構える。

剣と盾がぶつかり、剣圧が僕を襲う。

「くぅ・・・!」

僕は押しつぶされそうになりながらも耐える。

「今だ!」

僕は盾に魔力を流し込む。

すると、僕の魔力が手から盾に・・・。盾からカーラさんの剣に・・・。そして、カーラさんの剣からカーラさん自身に迫る。

「目を覚ましてください、カーラさん!」

銀の魔力がカーラさんの全身に纏わりつく。

「・・・あれ?私は一体何を・・・。」

しばらくすると、カーラさんの目に生気が戻る。

そして、剣圧も和らいだ。

「あっ!?私、ショウマ様に何を・・・!?」

「正気に戻ったみたいだね・・・。」

僕は盾を構えながらカーラさんに言う。

「カーラさん!正気に戻った所悪いんですけど、ソーマさん達を正気に戻すためにお手伝いしてください。」

「うん!任せ・・・。」

しかし、カーラさんの言葉が詰まる。

「カーラさん?」

「な・・・なんか、力が出ない・・・。」

僕はカーラさんの方を見る。

すると、カーラさんの頭についていたケモ耳が無くなっていた。

「カーラさん、ケモ耳が・・・!?」

ケモ耳だけではなく尻尾もなかった。

獣人としてのアイデンティティが無くなり、戸惑っていると・・・。

「・・・もしかしたら、ショウマの魔法で一時的に魔力を封じられたのかもしれない・・・。」

「どういうこと、マリア?」

マリアは語ってくれる。

獣人は魔力を内に溜める性質を持っており、それにより身体能力を上昇させている。

しかし、魔力が枯渇或いは封じられると魔力で生成されているケモ耳や尻尾が消失して著しく能力が低下するとのことだった。

「つまり、今のカーラさんは全力を出せない状態なんだね?」

「ええ・・・。そして、それはお兄様やソーマにも同じことが言えます。」

破魔魔法を使えば洗脳が解けるがその後の戦闘では魔法が封じられた状態で戦わなければならない。

「・・・これって詰んでない?」

僕は冷や汗を流しながらソーマさんとアルスを見るのだった。

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