第5話

僕達がヴァルコイネンを出て3日が過ぎた。

「ショウマ様、疲れていませんか?」

「ありがとう、カーラさん。でも、僕は馬車に乗っているだけだから疲れることはないよ。」

僕について来てくれた騎士の一人は、獣人と人間のハーフだというカーラさん。

「しかし、ショウマ様は馬車での移動は慣れていないと聞いています。少しは疲れているのではないのですか?」

そう言うのはもう一人の騎士、エルフと人間のハーフであるソーマさん。

ヴァルコイネンでは多くの種族が集まるとのことだ。

そのため、カーラさんやソーマさんみたいなハーフも珍しくないとのことだ。

「本当に大丈夫ですから・・・。それよりもお二人は疲れていないんですか?」

『鍛えていますから!』

二人は同時に答えた。

二人共親切にしてくれるが、まだよそよそしい感じだ。

(まあ、まだ出会って3日くらいだからな・・・。)

なぜ、二人は騎士団を辞めてまで僕について来てくれたのかわからない。

でも、こうして安全に旅路を歩けるのは二人のお陰だというのは事実だ。

「ショウマ様、ここからは森の中に入りますので馬車が今より揺れると思いますが我慢してください。」

ソーマさんの言葉に僕は馬車の外を見る。

すると、少し先に森が広がっていた。

「あの森ってどんな森なんですか?」

「あそこは「清純の森」と呼ばれています。」

「清純の森?」

僕の問いかけにソーマさんが答える。

清純の森はヴァルコイネンとシニネン王国の間に広がるという森だ。

その森は自然豊かで薬草やキノコなどが取れるとのことだ。

「強い魔物も居ないため駆け出しの冒険者たちの訓練の場所になっているという話です。」

「そうなんですね。」

そんな話をしていると、馬車は森の中に入っていく。

その瞬間、木の幹に馬車の車輪が乗っかったみたいで激しく揺れる。

「うわぁ!?」

僕はバランスを崩して後ろに転がりそうになったが近くにいたカーラさんが受け止めてくれた。

「大丈夫ですか、ショウマ様?」

「はい・・・。ありがとうございます。」

そう言って僕はカーラさんにお礼を言って座りなおす。

「でも、凄いですね・・・。こんなに自然豊かなんて・・・。」

「ショウマ様の世界にはこんな景色は無いのですか?」

「無いことはないけど多くはなかったよ。」

樹々が生い茂り道も整備されていない。

「道路とか引かないのですか?」

「まあ、今の情勢だと厳しいですね・・・。」

カーラさんは苦笑いを浮かべながら答える。

そういえば、ヴァルコイネン王国は四方の大国の侵略に晒されていたのだった。

「私達の祖父の時代はまだ国交があったので道路が整備されていたそうですけど、30年ほど前に大きな戦争があってからはあえて整備していないそうです。」

「なるほど・・・。」

「まあ、ここまで物騒になったのはここ数十年のことですけどね・・・。」

「えっ?」

話を聞いてみると・・・。


今から15年前に現在のポライネン帝国の皇帝、ガーゼル3世が突如他国の侵攻を始めたそうだ。

その時、西のエルフの大国は多くの将兵を失い、東の獣人の大国は王を失った。

南の大国シニネン王国は皇帝の侵攻と同時期に魔族の侵攻を受けたらしい。

「それまでは、他の大国とも上手くやっていたのですが各国とも15年前の戦争で多くを失ってしまい今では睨み合いが続いています。」

「ヴァルコイネンには被害はなかったのですか?」

「ヴァルコイネンは各国からの難民を受け入れるという条件の元他の三国に守ってもらったため被害は最小限でした。まあ、今ではそれを理由にして他の国から合併を持ちかけられているのですが・・・。」

カーラさんは言葉を濁す。

「まあ、今の三国の王たちが信用ならないんです。何度か話し合いは持たれているのですが話は平行線で・・・。」

なんだか、複雑な事情があるみたいだ。

「さて、つまらない話をしてしまいましたね。申し訳ありません。」

「いえ、いろいろ教えてくれてありがとうございます。」

そして、僕たちは森を進む。


「今日はここら辺でキャンプを張りましょう。」

そう言ってソーマさんが馬車を止める。

僕は馬車から降りて周りを見ると少し開けた場所にいることに気が付く。

「ここは、商隊などが使う休憩場所ですよ。今、火の準備をしますので待っていてください。」

そう言ってカーラさんは森の奥に入って行く。

数分後、カーラさんは大量の木の枝を持ってきた。

その間にソーマさんは石で囲いを作り、そこにカーラさんの持ってきた枝を入れる。

「よいしょ・・・。これくらいあればいいかしら?」

「ああ。じゃあ、俺が火をつけるな。」

そう言ってソーマさんは木の枝を少し細かくして木くずを作る。

その上から火打石を火種が出来たら風を送り、火をつける。

「火をつけていれば魔物たちも近づいて来ないので安心です。」

「そうなんですね。」

「さて、このまま食事の準備をしてしまいましょう。」

そう言ってソーマさんが枝の中から少し太めのモノを選び地面に突き刺す。

「「ロック」」

ソーマさんが呪文を唱えると木の枝に土がせり上がりガッチリ固定する。

「ソーマさんは「土魔法」の使い手なんですか?」

「はい。勇者様方よりは弱いですがね・・・。」

そう言いながら鉄の棒を取り出しそこに鍋を吊るす。

その間にカーラさんが馬車から水の入ったバケツを持ってきて鍋に汲む。

「ちなみに私は「風魔法」の使い手です。まあ、半分獣人ですから風を放出することは出来ないんですけどね・・・。」

「どういうことですか?」

この世界に生きている者は多少なりとも魔力を持つ。

しかし、獣人は魔力を体外に放出することが苦手とのことだ。

「その体外に溜まった魔力がこの尻尾やケモ耳なんですよ。」

そう言ってカーラさんは自身の尻尾や耳を見せる。

「へぇ・・・。じゃあ、魔力がなくなるとそれも消えちゃうんですか?」

「はい。そうなったら私たち獣人は身体能力が低下してしまいます。まあ、大抵は気絶してしまうんですけどね・・・。」

そう言ってカーラさんは笑う。

「さて、食事の準備が出来るまでしばしお待ちくださいショウマ様。」

そう言ってソーマさんは料理をするのだった。

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