愛想笑いすんなよ有村。〜猫かぶりな『微完璧』少女に恋をしました〜

関つくね

ちょっと長めなプロローグ

有村奏海《ありむらかなみ》という少女①

季節は三月。

冬の極寒も徐々に和らぎつつある今日この頃。

俺はクラスから雑務を押し付けられ図書室にいた。くじ引きという何とも不公平極まりない方法で決まってしまった雑務とは新学期に向けての図書室の整備だ。

特に断る理由も予定もなく引き受けた。今回ばかりは俺の不運を呪うしかないだろう。

そんな事をぼーっと考えながら新号館の二階に位置している図書室へと足を運んでいた。本来ならばA組(俺はD組)のクラス委員男女二名が行うはずだった雑務だったがどうやら男子のほうの委員長がインフルエンザで休学しているらしく代わりを選出しなくてはならなくなったという理由わけだと担任の新塚にいづかに聞かされた。なぜうちのクラスからなんだという疑問を投げかけても無駄ということはハッキリしていたので俺は素直に事情を聴き分け今に至った。


「失礼します。一年D組の宮野みやのです。図書室整備の件で来ました。」


そう扉を開けて言い放つとカウンターの掃除をしていた50代くらいの朗らかな図書室司書の先生がこちらに笑顔を向け出迎えてくれた。


「あら?確か今日の当番はA組の生徒だったと思うのだけれど」

「いや、それがですね、、、」


と、もろもろの事情を話し終え「あら、そうなの~」と理解の意を示した朗らかな笑顔をもう一度こちらに向けた。

するとまた疑問を浮かべたような顔をしてこちらに向けて話しかけてきた。


「でもまだA組の生徒さんは見えてないわね。忘れて帰っちゃってたりしないかしらね」

「そうなんですか。後々来るとは思いますけど」


とはいいつつも俺は悪知恵だけは働くほうなのでのこのこと素直に図書室へ向かっているわけがなかった。少しでも仕事量を減らすという名目で解放されている空き教室へ行き文庫本を読みながら時間をつぶしていた。時間で言えば20分ほどだろうか。

当然20分もたてばもう一人のA組の当番の生徒は仕事に取り掛かっていてもおかしくないだろうに。俺よりずるがしこいやつなのか、それとも本当に帰ってしまったのかのどちらかだろう。実に不愉快だ。


「そう?それじゃあ先に始めちゃいましょうか。まずはゴミ捨てお願いできるかしら」


司書の先生はゴミ箱を指さしそういった。そして俺はそれに伴いそこはかとなくゴミ袋をまとめてごみ箱から取り出しきっちりと結んでから運び出し新号館の外の裏にあるゴミ捨て場を目指し図書室を後にした。


「さみぃ」

まだ三月というだけのこともあって一月や二月ほどではないが凍てつく寒さが肌を刺した。

両手にまんぱんのゴミ袋をぶら下げのそのそと新号館の裏へ足を進めた。中庭ではサッカー部やテニス部といった運動部が元気な声を出しながらジョギングやシュート練習をしている。そしてそれをまるで応援するかのように吹奏楽部の楽器の音色が学校中に広がる。


「よっこらせと」

ゴミ捨て場の大きな箱にゴミ袋を勢いよく入れ蓋をした。もうすぐ三学期も終わり終業式も近い。そのせいかそれとなく出されているゴミの量も心なしか多い気がした。といっても別に年間のごみの排出量を知っているとかそういうわけではないのだが。


「…めん。」


ん?


「忙しいのに」


あー。誰かいるのか。


「ううん。別に大丈夫だよ。それで用事っていうのは、、、?」


聞き覚えのある声だった。女子だ。


「いや、、、用事というか、その、、、」


どうも歯切れの悪い会話を繰り広げているのは男子生徒らしい。いつの間にか俺は壁際に寄りかかり腰をかがめて物陰に隠れながらその様子を見守っていた。盗み見は到底喜ばしい行為ではなかったが、俺もそこまで鈍感ではないし好奇心がないわけでもなかった。


「その、実は俺―――、」


まるで空気を読むかのように吹奏楽部の合奏がやんだ。たぶんそういうことだろう。


「有村さんが好きです。良ければ付き合ってください。」


合点がいった。あの男子生徒が告白している女子生徒は有村奏海ありむらかなみだ。

後姿からしか確認できないが男子生徒はとても真剣できっと初めてなのだろうか、強く握られている拳がふるふると震えていた。俺はもう少し前のめりになり現場を確認しようとした。


「ありがとう。とてもうれしい―――」


ようやく俺は姿をとらえることができた。そこにはやはり学年いや全校生徒が認めるであろう才色兼備という言葉が似合いすぎるほどに似合う有村奏海が立っていた。首元まで伸びた艶やかな黒髪セミロングに子猫のように透き通っていてくりっとしたつぶらな瞳。そしてシュッとした高貴な鼻の下にぷっくりとしたほのかにピンク色の唇。目鼻立ちの整い具合はチートだろう。


有村奏海は男子生徒に美しく微笑みかけ天使の息吹のように優しく言葉をかけていた、、、のは束の間。


「けど、ごめんなさい。私、今誰かと付き合うとかそういう気はないの」


そういいながら男子生徒に深々と丁寧に頭を下げていた。

それと同調するかのごとく俺は彼女にくぎ付けだった。

きっと頭を下げているため男子生徒には見えていないだろう。


―――――彼女のその顔はまさに天使の皮をかぶった死神のごとく生気が失われているような無表情を浮かべていた。

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