20.先輩と園芸部からのお誘い
文化祭も終わり、片づけも一段落した平日の放課後。
いつものように放課後の部室へ俺は足を踏み入れた。
どうやら今日は先に二上先輩がやってきているらしく、鍵は開いていた。
「こんにちは……」
「こんにちは。納谷君」
「お邪魔してます。納谷君」
室内にいたのは先輩だけでは無かった。
短めの髪の眼鏡をかけた二年生女子。
園芸部の伊那先輩だ。以前、強引に先輩と友人関係を構築した強者である。
「じゃ、ごゆっくり。お疲れ様でした」
俺は回れ右して室外に出ようとした。
「ちょっとちょっと、何で帰るのよっ」
「待って納谷君。私は郷土史研究部に用があって来たの。別に二人の邪魔をしにきたわけじゃない」
「……なんですかその意味ありげな発言は」
足を止めて部室に戻る。部活の方に用があるなら仕方ない。
「園芸部から何か頼まれる事ってありましたっけ?」
郷土史研究部が園芸部を手伝うのは畑作りと収穫のみのはずだ。
「とりあえず、うちの畑に来てくれると嬉しいな。あ、制服のままでいいよー」
どうやら、具体的な話はぼかすつもりらしい。
「まあ、いいですけど……」
別に断る理由もないので、俺と先輩は外に出ることになった。
○○○
園芸部の畑に向かうと、そこでは簡易テントが立てられ、さらに焚き火が行われていた。 アウトドア用テーブルの上には飲み物と焼き芋が並んでいる。
ひたすら芋の焼け具合を気にしていた顧問の先生によると、文化祭の時に調理しなかった芋の一斉処分とのことだった。
「どう、美味しいでしょ」
俺に焼き芋を一つ渡しつつ伊那先輩が笑顔で言った。
「制服でいい段階で、畑仕事じゃないとは思ってましたけど……」
在庫処分の手伝いとは思わなかった。
とはいえ、園芸部の焼き芋は美味しいのでありがたく頂いておく。
「なんで内容を隠したんですか。言ってくれれば素直に行きますよ」
「二上さんがその方が納谷君の面白い顔を見られるって言った」
「なんて人だ……」
その二上先輩はと言えば、園芸部の他の部員達と談笑している。
楽しそうで何よりだ。
「ところで納谷君。二上さんの友人として気になったんだけど。大分仲良くなったみたいだね」
「なんですからそれは。何を見てそんな結論に至ったのですか」
俺の方をニヤニヤ眺めながら伊那先輩が言ってきた。微妙に表情が二上先輩に似ていて嫌な感じだ。
「文化祭の時とか、前より仲良さそうに見えたよ。上手くやってるねぇ。お姉さんは嬉しい」
「どんな目線からの言い分ですかそれは……」
「ほら、二上さん。転校生で変に目立つもんだから、いつも緊張してたからさ。気楽に接する相手ができたのはいいことよ」
「…………」
なかなか侮れないことを言う人だ。伊那先輩、実は凄い人なのか?
「もしかして、いきなり部室にやってきて二上先輩と強引に知り合ったのもその辺りを気遣ってですか?」
「いや、あれは私の素だから。衝動的に動いた」
どうやら、『ある意味』凄い人のようだ。
「とにかく、色々と聞いてるからね。これからの活躍に期待してるよ。あと、女装写真ごちそうさまっ」
「ちょっと、最後の方聞き捨てなりませんよ!」
「二上さんとは結構頻繁にやり取りしてるからさー」
俺の抗議にを躱すように素早く別グループに向かって離れていく伊那先輩だった。
「どうしたの納谷君。見苦しい叫び声をあげて」
代わりというように俺の叫びの現況がやってきた。片手に焼き芋。片手に紅茶で。
「二上先輩が余計なことをしたせいで、伊那先輩にからかわれたんですよ」
「あら、それは大変ね。でも、伊那さんは良い人よ。色々と力になってくれるんだから」
「あの出会いの割には仲良くなってるんですね」
いきなり部室に乱入してきた人とよこぞそこまで友人関係を築けたもんだ。
「話は通じるし。文化祭の時も力を貸してくれたわ。うん、私にとっても友達というポジションに一番近くなってると思う」
「う、結構御世話になってたんですね。それにしても先輩の友達とは……」
思いがけず俺も世話になっていた。後でお礼を言っておこう。
「話も合うし、気も合うし、いい人よ。出会いはあんなだったけど」
「なるほど。よくわかりました。出会いが変な人同士、気が合うと」
俺が茶化すようにそう言うと予想外に先輩は考え込んだ。
「…………そうね。変な出会い方っていうのは、馬鹿にできないものね」
そう言うと、何故か先輩は俺から目を逸らしながら、一心不乱に焼き芋を食べ始めたのだった。
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