15.先輩とカメラの練習した

「先輩。今日は郷土史研究部に活動があります」

「えっ。活動? 活動って、部活のよね? 正気なの?」


 放課後の部室。

 俺より先に部室に来て寛いでいた二上先輩は、俺の発言を聞くなり怪訝な顔をした。

 まるで部活とか活動という言葉を初めて聞いた人類のようだ。

 あと、さりげなく俺の正気を疑うのは失礼だと思う。


「文化祭も近いですしね。やるべきことがあるんですよ」


 俺は荷物を置き、部室の一画にあるロッカーの鍵を開ける。

 中から黒い小さなバッグを取り出す。

 机において蓋をあけると、自然と二上先輩が寄ってきた。


「デジタル一眼じゃない。この部活、こんないいものあったのね」


 先輩の言うとおり。俺が出したのは少し古いモデルのデジタル一眼だ。


「資料撮影用に昔購入したそうです。今年もそれなりに写真を撮るでしょうから、練習しようかと思いまして」


 言いながら昨日から充電していたバッテリーをコンセントから外す。


「手慣れてるわね。納谷君、使い慣れてるの?」

「一学期に一通り教わりました。でも、自信はないですね」


 このカメラでの撮影はスマホよりも難しい。

 思ったような写真がとれないのだ。


「そんなわけで、今日はカメラの練習です。二上先輩はどうしますか?」

「どうしますかって……。部員なんだから一緒に行くに決まってるでしょ」


 俺の問いかけに、先輩はなぜか憮然とした様子で答えるのだった。


○○○


 とりあえず我々郷土史研究部は校内の写真を撮ってまわることにした。

 被写体には困らないし、手近で良い。

 カメラのダイヤルをセットして、色々な条件で撮影を試みる。


「あの花壇。花が咲いてるわ」

「撮りましょう」

「あそこの木に鳥がいるわね」

「望遠レンズじゃないから厳しいですね……」

「あ、運動部の人を撮ってみましょ」

「ちょっと待ってください。勝手に撮ったら怒られるかも……」


 先輩はカメラをもった俺を先導するように、次々と被写体を定めた。

 なんとなく俺は一眼、先輩はスマホで色々な者を撮影。

 1時間ほどで部室に戻った。

 そして、ロッカー内に保管されていた編集用のノートパソコンを起動し、写真を確認。


「……先輩のスマホ写真の方がよく撮れてますね」

「そうね……。スマホって凄いのね」


 パソコンの画面と先輩のスマホ画面を見比べた俺達はそう結論を出した。

 写真撮影の性能自体は一眼レフの方が高いのだろう。

 だが、俺は今日初めて触ったのに近い初心者だ。

 撮影時に色々と勝手に補正をかけてくれるスマホの写真の方が明らかに出来が良かった。


「これ……取材に行ったときもスマホの方がいいかも」

「何言ってるの。時間があるんだから練習すればいいじゃない」


 そう言いながら、先輩は一眼レフを手にとってあれこれいじりはじめた。

 二上先輩の細く小さな手にごつい一眼レフは一見不格好なようで、妙にしっくりくる光景だ。


「あ……納谷君。いつの間に私の写真撮ったの?」


 練習がてらスマホ撮影をしている先輩を撮ったのがばれてしまった。


「すいません。被写体としてちょうど良かったんで」

 

 あんまり動かないし。近くにいるからな。別に他意はない。ないのだ。


「…………ほう。まあ、いいでしょう」


 少し考えた後、先輩は満足気に頷いた。

 それから、にっこりと笑いながら口を開く。

 これは先輩が「いいこと思いついた」という時の顔だ。

 5割くらいの確率で良くないことがおきる。

 今日はどっちだ?


「これ、タイマー機能あるのよね。三脚ある?」

「ありますけど……。何するんです?」

「記念写真を撮りましょう」


 満面の笑みで言われたその提案を断ることは俺にはできなかった。


 その後、暗くなりかけた部室を背景に、俺と先輩のツーショット写真が撮影された。

 写真者なかなか良い出来で、二人でデータをスマホに転送し、持ち帰ったのだった。

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