運命神の《祝福》から逃れるために、王子様と形だけの結婚をすることになりました。

奏 舞音

序章

 ――ねぇジュリア、この世界は運命神ディラ様の導きによって均衡が保たれているの。ディラ様のおかげで、私たちの平和で、幸福な生活があるのよ。お母様がお父様と出会うことができたのも、ディラ様のお導きがあったからなのよ。そして、あなたはディラ様の祝福を受けているの。なんて幸福な娘でしょう!

 あなたはきっと、誰よりも愛に溢れた幸せな人生を送るのね……!



 母は幸せそうな笑みを浮かべて、幼いジュリアに何度も言い聞かせた。それを聞いて、ジュリアも自分は誰よりも幸福な人生を送るのだと信じていた。

 しかし、十六歳になる頃には、そんな幻想はきれいさっぱり消えていた。


「これが、誰よりも愛に溢れた幸せな人生っ⁉」


 ふるふると華奢な肩を震わせて、ジュリアは吐き捨てた。


 普通、人間は自分の運命を知ることなく、その道を歩いていく。

 しかし、運命神ディラに愛され、祝福を受けた者は、特別な運命を背負うことになる。

 その特別な運命は、その人を愛するが故の運命神ディラの悪戯でもある。

 しかし、その悪戯を本当に祝福だと感じた時、その人は幸せで愛に溢れた人生を送ることができる……と信じられている。


 母にとっては運良く、ジュリアにとっては運悪く、ディラの祝福を受けてしまった少女は、今日もまた自分の運命を呪うのだった。 

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