MY Travel ひとりで楽しむ方法
Nicoo
第1話 前々日のスーツケース
9月
晴れた日曜の朝。
ランニングを終えた私は2日後に控えたアメリカ行きの旅の準備に取り掛かろうとしていた。
2ヶ月前に一目ぼれして購入した外国製のスーツケースは私の気分を高揚させていた。 今回の旅は初日にポートランドへ2泊した後、ニューヨークで3泊というショートトリップだった。
どんな楽しいことが待ち受けいるのかワクワクした気持ちでいた。
ファッションや映画・カクテル・セレブゴシップなど・・周囲の女性と何ら変わりない私はただひとつ言えるのは30歳も後半にさしかかった独身という事。
年に2回(仕事を除いては)海外旅行をするのが最近は習慣になりそして必ずそれは独りだった。 一人旅が好きなのだ。
私のひとり旅は毎回何かハプニングや出会いがある。
そしてそれを通して私は強くなる。
そうそうこの朝も期待に溢れ、なかば興奮気味な状態で荷造りを楽しもうとしていた。お気に入りの音楽をかけ小さな部屋で小躍りしながら・・。
そうだ。詰め込む前にTSAロック設定をしよう。
外国製のそれについていた簡易的な説明書を読み解き自分の番号にダイヤルを合わせ最後スイッチをスライドさせて完了のはずだった。
・・・・。
あれ。
ピクリとも動かない。
おかしいな。力が足りないのかしら。
もう一度力をこめてスライドさせてみるが同じ事。 正常であればこんな力必要ないはずだ。
うそでしょう・・・。まだ使ったこともない新品なスーツケースが何故このタイミングで壊れる!??
明後日には飛び立つのだけど・・。
幸い中身は何も入れてはいなかったが。 いや、幸いでも何でもない。
使えないのであれば同じ事。 先ほどまでの爽快な気分はたちまち雲が陰り私は解決策を見出そうと頭を振り絞った。
全く使いたくない手段だったが鍵屋を呼ぶ事にした。
以前に同じようにスーツケース開かない事件があり開けてもらったときに安くはない金額を支払ったので避けたかった。
が、ここはそうも言ってはいられない。
なんてたって私の輝かしい旅が控えているのだから!
数十分後、工具を脇に抱えた中年の男性がやってきた。
馴れた様子で私のスーツケースを眺め、
「¥10,000はかかりますが宜しいでしょうか?」
がーーーーん。。
心の中の悲鳴。 新品にも関わらずいきなりの出費。何て不運なの!
と、思わずにはいられなかったがグズグズする理由もなかったので承諾した。
その男は工具を取り出し鍵穴に目掛けて何か作業を始めた。
モヤモヤはしたものの、後は任せておけばひと安心。と、私はデスクに向かいPCのメールをチェックし始めた。
ガチャガチャと作業の音を後ろに控えながら私のメール処理がサクサク進む。
やがて静かになり数十件溜まっていたメールも最後の数通にさしかかった時に私はいやいや、サクサク進みすぎだろう。一抹の不安を感じた私が後ろを振り返った先には先ほどの工具はもはや床に転がり、ダイヤルをひとつづつ合わせている姿が目に入った。
・・・・。
まさかとは思うが・・。
「あれ。開かないですか?何されてます?」
とさりげなく聞くとその男は何の悪びれもなく呑気に
「思った以上に開かないね。 ひとつずつダイヤルを合わせてるよ。今ちょうど600番台だから。」
・・・・。
その手さばきは見事に素早かったがまさかの彼の技術では手に負えずアナログな手段で開けようとしてるとは。 こんな事ってある?
もはや彼に希望が持てなくなった私はさらに暗雲が立ち込め不安に駆られた。
彼を責める訳にはいかないが、プロでも直せないならどうしろと。
「壊してもいいなら無理やりにでもこじ開けますよ。ただこれが使えなくなるからねえ。 まだ新品でしょう?」
彼の話しっぷりはまさに他人事だった。全く間違いなく他人事なのだが・・。
どこにすがったらいいのかもこの思いをぶつける先もなく私はさすがに壊すのは断り、終始呑気ものの彼をもちろん無料で帰えした。
今までの時間は何だったんだろう。メール処理は進んだが目の前の問題は未解決。
こうなったら購入したところに電話すれば良いのか。
と単純なことに気づかず2時間奮闘していた訳だが。。
幸運なことに同じ色の同じサイズのものが残り1つ在庫があった。店頭で交換ということになった。
ここにきてようやく私も肩の荷がおりる!と思ったがまだちょっと早かった。
新品のこの壊れ物を引いて行くわけにはいかず、両手で抱えながら40分近く筋肉勝負となった。
無事に新品と新品を交換して私は本格的に荷造りを再開するのだった。
やれやれ、旅が始まる前からこんなハプニングが起こるとは。
翌日もれなく腕の筋肉痛が私を襲った。
こうして私の一人旅は始まる。。
MY Travel ひとりで楽しむ方法 Nicoo @nicc-
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