香りの行方
N.仁奈子
第1話
今朝はマイカーが使用出来ず
仕方なく私鉄のホームに立っていた
「三番線に電車が入ります ホーム内側までお下がりください なお、 この電車は・・・・・」
アナウンスを聞きながら
前に並んでいる男性の足元にふと視線を落とした
センスのいい靴だな…
そうして見ると
全体のコーディネートが
なかなかいい感じだ
このシャツは彼自身の好みだろうか…
その時 アナウンスのあった電車が
滑り込んで来た
瞬間、その男性から
なんとも言えない香りが
私の鼻先を突いた
「フフフ、フフフ、、、」
白いコットンのワンピースを着た若い女性が
草原の中で 微笑みながらクルクル廻るテレビのCMが浮かぶ
それは 甘くて フルーティで女性を連想する香り…
あぁ、、、まただ、、まただ、、
いつの頃からか
世間は香りの中に埋もれてしまった
猫も杓子も 柔軟剤から始まり
消臭ミスト、入浴剤 、洗剤 、シャンプーにコンディショナー、お部屋の香り、車の香り 、、、
汗の匂いまで フローラルな香りに変えるとか…
人とすれ違う度に
香りがまとわりつく
特に男性は 興醒め
家庭で使っているそれらに包まれて
女性の香りを振り撒いている
選択するのは
女学生から独身女性に
家庭の主婦
圧倒的にオンナだ
人気のある香りは
消費者数が多いから
同じ匂いが充満する
なぜ もっと自分らしさを
持てないのだろうか…
さっき素敵だと思った気持ちも
すっかり冷めてしまった
だから人の多い所は苦手!
周囲の匂いに毒づきながら
ようやく職場に着いた
着替え終わると
間髪を容れず 部長に呼ばれた
10人ほどが座れる
さほど大きくない会議室で
対座する
早速、部長が言う
「いやぁ、、松宮さん!
今回の開発した商品
さっき営業部から
先月の売上累計が届いてね
とてもいい結果が出ている」
「前回の消臭ミストも
業界トップだ ったが…
この柔軟剤は
それを上回りそうな勢いだ」
「研究開発に必要な援助は
惜しまないから よろしく頼むよ
君の臭覚と感性に期待している」
白衣を着た私は
静かに頷いた
P&P 研究開発部
調香師 松宮奈々
世間が求める香り作り
パヒューマーとして
きょうも 鼻 は 意に反して
次世代の香りを探している
香りの行方 N.仁奈子 @n-ninako
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